表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
268/307

267話 殺戮メイド、キア・リリム フォルトサイド


 彼女の名前はキア・リリム。


 かつてイズリスと、その従者に仕えていた魔人族の使用人。


 イズリスを守護する神兵将官に選ばれなかった彼女ではあるが、その実力は彼らに引けを取らず、純粋な近接戦闘においては一線を画す。




「フォルト様、あなたが葬った神毒の赤蛇(サマエル)は、イズリス様のしもべとなる神獣でした」


 身の丈程ある大斧を握り絞め、今にも薙ぎ振るおうと構えるキア。


「はは、そうかい、それは悪い事をしたねぇ。お詫びにアタシの命でもくれてやろうか?」


「それは最低条件です。元よりあなたを生かすわけはない。欲しいのは体だけ……」


「エッチな事言うじゃないか。同性愛者も嫌いじゃないよ?」


「っっ! 減らず口をっ!!」


 途端、キアは斧を振り被り、フォルトを両断しようと襲い掛かると。


「【流動停止フローパウス】」


 フォルトはキアの体に流れる時間を止め、大振りの斬撃から身をかわす。


「さて、次は……」


 と、彼女の動きを止めている間に打開策を練ろうとしていた時。


 突然、キアの体は再び動き出し、停止していた斧が振り下ろされた。


「なっ……!?」


 果てまで大地を割るほどの気の斬撃は、軌道にいたフォルトの体を真っ二つに両断――。


「【時流逆行タイムリウィンド】!!」


 ……刹那、フォルトは時を戻す魔法を詠唱し。

 自身の体にかかる時間を巻き戻す。


「ぐっ……はぁ、はぁ……」


 頭部が断裂する感覚が神経に残り、フォルトは脂汗を発汗させながらその場に崩れた。


 わずか一瞬反応が遅れていたら、彼女は声を上げることもなく絶命していた。


 魔力消費の激しい時間操作魔法の連続使用に加え、死に直面する感覚から、激しい恐怖心が彼女を襲う。


 ――デタラメな力だ。これが……数万年の齢を超えた経験の差ってやつかい? アタシも元居た世界じゃとっくにおばあちゃんだってのに……彼女に比べたら赤子にも満たない。


 二体の強大な魔物を召喚して尚、余りある魔力を放出し続ける彼女。

 さらには、少女さながらの細腕からは想像もつかない腕力。

 彼女もまた、オールドワンやハジャと肩を並べる程の実力なのだと、フォルトは相対して思い知った。


「フォルト様、あなたの魔法にはすでに耐性が付きました。もはやワタクシに姑息な手段は通用しません」


「そうかい……どうりで停止時間が短かったわけだ。こんな未来……いや、そもそも君がこの世界にいる事自体イレギュラーだよ」


「これも、あなたが未来を変えようとした結果なのかもしれません。あなたに守りたい未来があるように、ワタクシにも叶えたい夢がございます」


 言いながら、キアはフォルトの首元に刃を突き付ける。


「どちらが実現するかは時の運なれど、神を信仰せし者に導きがあるのは必然。我らが敬愛するイズリス様は、必ずやワタクシ達に勝利をお納め下さるでしょう」


「偽りの神を妄信するカルト教団みたいな事言うんじゃないよ。多くの命を犠牲にして成り立つ世界に、何の価値もない!」


 キアは反論する。


「しかし、それは今も同じこと。生まれながらに地位を決められ、理不尽に生き方を強要される。人の欲望が弱者を踏み台にし、格差は広がり尊厳は淘汰される」


 何度も自己肯定する。


「数百と点在する世界はそのような愚物ばかりです。ならば一度、すべての世界を浄化し作り変えねばなりません。それがイズリス様のご意思……人々の救済でございます」


 しかしそれはフォルトとは違う考えで、決して相容れない思想である。


「まるで脚本の書き直すような話だ……。ならこれは、より良いシナリオを完成させる為のブラッシュアップかい? けどね、今ある世界もそこに生きる人々も、すべてが現実だ。潰しの利かない尊い命なんだよ。それを奪おうってんなら……」


 そう言うと、後ろに控えていたノーシスとメティアは武器を握り、同時にキアへ刃を振るう。


「っっ!」


 キアは後退しながら反撃のタイミングを計るが。


 間髪入れずに、ノーシスは片手に持った拳銃でキアに弾丸を数発撃ち込んだ。


 それは対象物に触れると発破する爆裂弾であり。

 武器で直撃を防ぐも、爆発による反動でキアの体は吹き飛ばされた。


「……小賢しい、魔道具ですか」


 硝煙を振り払い、静かな怒りを露わにするキアに、フォルトは言い放つ。


「アタシは道連れにしてでも君を止めてみせるよ。覚悟はとうの昔に決まってるんだ」


 かつての英雄が残した希望を、後世に繋げる為に。





ご覧頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ