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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
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264話 激戦、マスターテリオン ショウヤサイド


 猛る七頭一体の大型魔獣は、周囲に超振動を起こす程の咆哮を放ち。

 総攻撃を仕掛ける兵士達を、衝撃波で吹き飛ばす。


 黙示録の獣(マスターテリオン)にとって、人類など羽虫の如き儚き存在。

 片足を一振り薙ぐだけで、何十という命が面白いように吹き飛び、息絶える。

 今際に発する断末魔が心地よく、逃げ惑う者を背後から狩る事が何よりの娯楽。


 そんな、ただの一方的な遊び相手でしかなかった。


 数名を除いて。


「【数多の彗星(ミリアドコメット)】!」


 ショウヤは上空から無数の隕石を振り落とし、マスターテリオンを怯ませる。

 その隙に。


「【滅竜斬刃めつりゅうざんぱ】」


 刃に気を纏わせた一撃で強靭な外皮を斬り裂くレオテルス。


「【迦楼羅焔かるらえん】」


 追撃に、ミュレイヤも炎を纏わせたレイピアで、熱光線の如き高火力の刺突で魔獣の体を貫く。


 さらにはアンクロッサの人形達による吸収攻撃。


「【吸魂人形ドレインドール】」


 群れを成す木彫り人形がマスターテリオンにしがみつき、総勢で体力を奪ってゆく。


 そして奪った体力は、全てタロスの元に集約されていき。

 溢れる気を銃剣に纏わせ、圧縮し、マスターテリオンの頭部を突き刺した。


『【圧縮槍撃コンプレスショット】』


 頭部の一つが弾き飛ばされ、たまらずマスターテリオンはのたうち回る。


 畳み掛けるショウヤ達の攻撃で、次第に動きが鈍くなる異形の魔獣。


 だが魔獣は同時に毛を逆立て、威嚇するように身を構えた。


 マスターテリオンの単なる遊び場が、自身の墓場となる危機を本能で感じたからだ。


 こんなはずではなかったと、餌が調子に乗るなと。

 そう言っているようで。


 事実、未だ脅威であることに変わりはなかった。


 先程までとは違い、緊迫した面持ちで構える魔獣の姿は、じゃれるポーズから狩る態勢へシフトしている。


 確実に仕留める気迫が伝わってくるのだ。


 刹那、マスターテリオンはその場で体を反転させ、尻尾による大振りの薙ぎ払いで周囲を一網打尽にする。


「っっ、避けろ!」


 レオテルスの掛け声に反応し、タロス達は瞬間的に回避するが。

 多くの兵士達は尾の薙ぎ払いに巻き込まれていった。


「くそ……野郎!」


 激高したショウヤは、上空から複数の神器と共に下降するが。

 突如、魔獣の顔の一つがショウヤに向き、口から巨大な魔弾を放つ。


「うっ……!!」


 寸前で、ショウヤは神器の盾を前方に向け魔弾を防ぐが、反動で遥か上空まで吹き飛ばされてしまう。


 この中でもっとも火力の高いメインアタッカーはショウヤであり、彼さえいなくなれば取るに足らない下等生物でしかないと、魔獣は本能的に悟った。


 ショウヤを飛ばしたマスターテリオンは、助走をつけながら真っ直ぐ連合国陣営へ突進してゆく。


 人が密集している場所に狙いを定め、より多くの者を狩る為に。


 食物連鎖の頂点を覆す行為は、自然の摂理に反する。

 世界の王たる自身を脅かす愚行は断じて許さないと、己の力を誇示して知らしめるのだ。


 大地を揺るがす突進が連合国に襲い掛かる――瞬間。


「【天与の衣(エクステンドベール)】!!」


 息を切らしながらギリギリ戻って来たショウヤが、連合国陣営をすっぽり囲う防御結界を展開。


 襲い来る魔獣の突進から皆を守った。


「はぁ……はぁ……」


 しかし、ショウヤ含む彼らの体力は限界だった。


 一振りで即死級の威力を持つ力に加え、不規則でありながら俊敏な動きをするマスターテリオン。

 そんな魔獣の攻撃を回避しながら反撃を加えるのは一筋縄ではいかない。

 心身共に疲弊する速度は尋常ではない。


 唯一、タロスとアンクロッサの人形だけがスタミナに関係なく動けるが、先の薙ぎ払いでほとんどの人形が破壊されてしまい、タロスの能力向上はもう見込めない。


 そして、ショウヤの張った防御結界に牙や爪を突き立て、魔弾を撃ち込むマスターテリオンは。


 いかようにも破壊出来ない結界に怒りを覚え、その標的をショウヤ達に向けた。


 ――まずいな……【天与の衣(エクステンドベール)】は一枚しか張れない。このままじゃ、こっち側の兵士が狙われる。


 そう思いながら、ショウヤは疲弊した体に鞭打ち神器を構え、どうにか魔獣を食い止めようと進行方向に立ちはだかると。


 突然、頭の中で声が響いた。



『あんた、馬鹿なの? あの手の魔物と正面から戦って勝てるわけないじゃない』



 鮮明に聞こえる、女性の声。


 しかしイズリスではない……また別の、少女のような丸みを帯びた声。


「……誰だ?」


『いいから、私の言う通りにしなさい。これ以上、誰も死なせたくないんでしょう?』


 ショウヤの問いには答えず、強引に従わせようとする声の主。


 だがショウヤに不思議と不快感はなく、むしろイズリスよりも人間側に寄り添っているような、そんな親近感を覚えた。





ご覧頂き有難うございます。

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