262話 オニキスの足止め
遺跡の中へ進む者、入り口に残り迎撃戦に出る者、二手に分かれたメンバーは、それぞれの目的の為突き進む。
しばらく道なりに辿ってゆくと、ポロ達は空洞のようなひらけた場所に着く。
そこには一面に白い砂のような粉塵がフロアを覆い尽くしていた。
「……ここは、何の為に作られた部屋だろう?」
と、首を傾げるポロ。
入り口からここまでは、長年使われてなかったにしてはやけに舗装された通路だった。
だがここに来て洞窟のような広間となり、整備のギャップを感じていたのだ。
そう思っていた時。
突如ポロ達の前に、複数の重厚な鎧を纏った何かが地面から湧き出てきた。
「あれは……魔導生物?」
「だろうね、生命の気配を感じない」
五感の優れるポロとリノは同時に気づいた。
血流の流れを感じない無機質な白鎧の塊。
おそらくこのエリア一体に散らばる白い粉塵から生まれたゴーレムであると。
「なら容赦は要らないね。オレが道を作る!」
と、グラシエは瞬時にゴーレムの眼前まで接近し、長身棍棒による強力な突きを食らわせるが。
彼女の攻撃は、軽い凹凸が出来る程度で威力を相殺された。
「なんだよこの材質……硬すぎるだろ」
敵対行動に反応したゴーレムは、手に持った大剣を振り被り、彼女に向けて振り落とす。
「ちっ……!」
グラシエは側転で攻撃を躱しながら、今度は片足に練気を纏わせ、思い切り回し蹴りを打ち当てる。
が、やはり致命打にはならず、ヒールの先端が鎧に突き刺さる程度にしか攻撃は通らなかった。
その横で、サイカとバルタも他のゴーレムに攻撃を加えるが。
「【一点突飛】!」
「【爆炎拳】!」
いずれも決定打には至らず、ゴーレムの反撃を許してしまう。
「うははっ、こいつは時間がかかりそうだ」
バルタは空元気に笑いながら、温存しようと溜めていた魔力を一気に高めると。
そんな時彼らの前方で、ポロはゆっくりと一体のゴーレムに近づいていった。
「おい、ポロ、油断すんな!」
「大丈夫、落ち着いているよ」
と、ポロは両手に付けた木製の腕輪、『ミストルティン』に魔力を注ぐと。
マナに反応した腕輪はみるみる変形し、猫爪手甲を模した武器へ形を成した。
「うん、よく手に馴染む」
姉のおさがりを満足気に見つめ、目の前のゴーレムへ突進した。
「【烈波爪術】」
その一撃は、最高硬度をほこるアダマンタイトよりもはるかに頑丈なゴーレムを、一撃で貫いた。
「うわ……クル姉の、すごい切れ味……」
ポロの能力が上がった影響も勿論あるが、何より木製であるはずの『ミストルティン』の威力の高さが一番の要因である。
「お前……すげえな……」
「武器のおかげだよ。……けど」
ふと、ポロは足を止める。
一体倒したのはいいものの、フロアにいるゴーレムは十体そこらではない。
というのも、フロア一帯の地面から次々と新たなゴーレムが生まれてくるのだ。
「これじゃあキリがないよ」
無限湧きのゴーレムに、一体一体がアダマンタイト以上の硬度。
ポロ一人だけならこの大群を切り抜け先に逃げる事は出来るが。
全員が通り抜けるには、ポロが休みなくゴーレムを倒し続けるしかない。
大幅な時間ロスと、絶望的な持久戦を強いられるのだ。
と、その時、オニキスがゴーレムに近づくと。
「なるほど、見たことのない金属だけど、一応僕の能力は有効らしい」
一体のゴーレムにオニキスが触れた途端、液状となって溶解される光景が目に映る。
彼の固有能力、『金属掌握術』はいかなる金属も自在に操る事が出来る。
オニキスにとってもっとも有利なフィールドだった。
どうにかなりそうだと安心したオニキスは、ポロに告げる。
「ポロ君、向こうの通路まで一緒に道を開けてくれるかい? その後は、僕が足止めをしよう」
「え、でもこの数……」
言いかけるポロに、オニキスは首を振った。
「ショウヤ君やフォルトさんが頑張っているんだ。僕も自分の役割を全うするさ」
そして、彼はルピナスに視線を向け。
「ルピナス、今まで僕について来てくれて、本当にありがとう」
不意に、そんな謝礼を口にするのだ。
「何よ、急に……」
「こういう機会に言っておきたかったんだ。最後かもしれないだろ?」
「そういうの、死亡フラグだからやめなさいよ……」
呆れるルピナスに、笑顔で返すオニキス。
「そうだね。じゃあ残りは全部終わってから言うよ」
と言って、オニキスはポロと共に、進行方向を塞ぐゴーレム達を蹴散らし道を作ると。
「今だっ、行ってくれ!」
崩れた陣形へ間隙を縫うように、彼らは先へと進んでいった。
そして、追いかけるゴーレム達にオニキスが立ち塞がり。
「この先へは、絶対に通さないよ」
自身の能力で、片っ端から溶解してゆく。
その間に思い出されるのは、自分の冒した後悔。
――ルピナス、僕達はこの世界で『世界の支柱』を守る為、幾つもの命を奪ってきた。僕らのいた日本じゃ考えられない程に、業を背負った。
漫画や小説の転生主人公みたく、煌びやかに脚色されたチート人間にはなれず。
艶めかしい欲望と憎悪渦巻く過酷な現実。
自分の心はもう、その生活に慣れてしまっている。かつての恋人と過ごした自分はすでにこの世にはいない。
それでも彼は思うのだ。死ぬ前に、自分に出来る事をやり遂げると。
同じ境遇をもつルピナスに、報われてほしいと。
――ルピナス、君はもう、この世界でたくさん辛い思いをしただろう。十分過ぎるくらいに。
幸せになってほしいと。
――だからせめて、君の願いは叶うといいな。
向かい来る無数のゴーレムを相手にしながら、そう思う。
限りある魔力で、無限湧きの意志持つ鎧にどれだけ抗えるか。
オニキスは途中で考えるのをやめた。
己の命が尽きる瞬間まで抵抗すると、覚悟を決め。
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