260話 暴れ狂う凶獣との応戦 レオテルスサイド
「魔導砲、放て!」
連合国の騎士団長たちがそれぞれ合図を出すと、兵士は自国の持つ大型兵器を以て魔獣に一斉攻撃を仕掛ける。
しかし、幾度も直撃を食らう黙示録の獣だが、まるでかすり傷程度にしかダメージは通さず。
反撃に七つの口から放たれる魔弾によって、連合軍、グリーフィル軍双方は甚大なる被害を被る。
「ぐあああああ!」
爆風で吹き飛ばされる兵士達の断末魔が響き渡り、辺りは騒然。
逃げ惑う兵士に遊び感覚で追いかけ、殴殺、爆殺、刺殺、捕食を繰り返す。
縦横無尽に暴れ回るマスターテリオンによって、すでに数万の命が散って行った。
必死に陣地を守ろうと防衛に徹する者しばしば、絶望に動けなくなる者しばしば。
しかし大半はどうしたらよいのか分からず、無策で逃げ回るのだ。
と、その中で、果敢に攻めに転じる者もいた。
「【斬空裂波】!」
レオテルスは飛竜から飛び降り、マスターテリオンの頭部めがけ剣の連撃を放ち。
そんな彼に続いて、ミュレイヤも急降下からの刺突を食らわせる。
「【飛天強襲!】」
二人の攻撃に一度は怯むが、すぐに反撃で頭部を振り回すマスターテリオン。
宙に飛び上がり回避した二人は、再度刺突の同時攻撃を繰り出す。
「ドラゴンよりも固い外皮だな。……【一点突飛】!」
「ええ、心が折れそう。……【牙城穿通】!」
しかし二人の突き攻撃も頑丈な皮膚を貫く事は出来ず。
途端、マスターテリオンはその巨躯を素早く反転させ。
鋼を凌ぐ尾をしならせ、巨大な鞭の如く二人に振るわれる。
「っっ! 【一閃空波】!」
レオテルスは直前で斬撃の波動を飛ばし、尾の軌道をわずかに逸らすが。
鞭打から生じる音速の風圧に当てられただけで、まるで大砲でも直撃したような衝撃を受けた二人は、同時に地面に吹き飛ばされた。
「がはっ!」
受け身は取ったものの、内臓に響く衝撃は決して軽傷では済まなかった。
「……レオテルス殿……ご無事で?」
「……他人より……自分の心配をしろ」
よろめきながらも立ち上がり、再び剣を構えるレオテルス。
「ふふ……ストイックな方ですね……」
しかしこのままではジリ貧であり、じわじわと周囲の士気が下がってゆく空気を感じていた。
魔獣の体躯に対抗する両国の魔導兵器も、弾は残りわずか。
対してマスターテリオンの体力は未だ十分にあるようで、疲れ知らずに戦場を荒らしに荒らしていた。
「ですが、このままでは……」
時間の問題。程なくしてこの場にいる者は全滅する。
そして誰もいなくなった後は、グリーフィル市街へ向かうだろう。
新たな餌と、遊び相手を探して。
レオテルスがそう思っていると。
突然、グリーフィル側から援軍が駆け付けてきた。
「あれは…………」
それは人ではなく、木製の人形だった。
数にしておよそ百。目下の魔獣に対してはあまりに少ない援軍だったが。
その人形達は見かけによらず機敏な動きをし、銃や剣などでマスターテリオンの周りを右往左往。
まるで相手を翻弄しているようだった。
そしてその中心には、フリングホルンの飛行士だと分かる制服を着た人形が先導しており。
「タロス……」
それはポロの飛行士メンバーの一人、タロスだと気づいた。
レオテルスと目が合ったタロスは一度後退し、彼の元へと駆け付ける。
『無事か、騎士団長』
「ああ、少し驚いたよ。君はサイカ達と一緒に『海峡の裂け目』へ向かうと思っていた」
『俺はグリーフィル市民を守る為に残った。相棒と共にな』
奥で人形達を操るアンクロッサに目を向けながら。
『避難誘導が済むまで、どうにかしてあれを食い止めたい。力を貸してくれるか?』
「元より討伐するつもりだ。あの化け物を野放しには出来ないからな」
タロスが加わった事で、わずかながら心にゆとりを取り戻すレオテルス。
そして再びマスターテリオンに応戦しようとしていた時。
「【隕石召喚】!」
上空から声が響き、同時に巨大な隕石がマスターテリオンへ落下した。
直撃を受けたマスターテリオンは地面にめり込み、今までほとんど無傷だったその魔獣が、初めて決定的なダメージを受けてクレーターの中に沈む。
「あいつは……タケバ・ショウヤ?」
タロスに続き、またもや意外な人物が現れた事にレオテルスは驚き。
二人は同時に視線を合わせる。
「お前……どうしてここに?」
「守りたかった、から?」
言いながら、ショウヤはレオテルスの元へ近づき。
「無意味な殺戮で誰かが死んでいくのは、もうたくさんだ」
「ここは戦場だぞ。人が死ぬのは当たり前だ」
「その概念が、俺とは相容れない世界基準だね。俺は平和な国出身だから、命に重きをおいてるんだよ。……守れるものは守りたい。だから来た」
青臭い事を言うショウヤを鼻で笑い。
「お前は戦士に向いてないな」
甘い考えを持つ彼を馬鹿にしながらも。
存外嫌いなタイプではないと、秘かにレオテルスは思った。
「うるせえよ。とにかく、さっさとこいつを倒して戻らなきゃなんねえんだ。まだ戦えるなら手を貸してくれ」
「ふっ、誰に言っている? お前が俺に手を貸せ」
などと軽い抗弁を垂れながら。
凶暴な異形の魔獣に、皆は人族の存亡をかけて抵抗する。
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