表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
258/307

257話 困惑する戦場 レオテルスサイド


 オールドワンとキアが遺跡へ向かう頃。

 グリーフィル領の平原では、すでに国同士の戦いが勃発していた。


 連合国側にいるレオテルスは、しばしその戦況を眺めていると。


「……敵の数が少なすぎるな」


 そう呟いた。


「お主も気づいたか、レオテルス殿」


 彼の独り言に、隣にいた他国の騎士団長もその違和感に同調する。


「バロン団長……」


「見るに明らかだ。こちらは六ヵ国の軍隊を引き連れているが故、多少数の有利はあろう。だが、グリーフィル側もその事は承知のはず。何の対策もせず、ましてや降伏の白旗も揚げんのは不自然だ」


 世界最大の武力国家とはいえ、一つの国に所属する兵の数には限界がある。


 魔導生物ゴーレムの生産量が最も多い国ではあるが、全機投入したところで、連合国との兵力差は歴然。


 およそ四分の一程度しか満たない数で、如何にして勝つつもりなのか。

 二人は疑問に思う。


「それにな、これまでのグリーフィルの攻め方とも違い、真っ向から進行するだけの捻りの無い戦略だ。守備もてんでバラバラ……これなら我が国だけでも十分だぞ」


「オルドマンがいない所為でしょう。うちの副団長から聞きました。奴は今、別の目的で離れた場所にいると」


 サイカ達からの情報で、オールドワンの不在とハジャの死亡は元より知っていた。


「ふむ、指揮を執る者が変わると、こうも戦況が傾くものか……。敵ながら同情する」


 ならば尚更、この戦争を続ける意味はあるのかレオテルスは気になり。


 すると、彼は思い立ったように、自分の相棒である飛竜にまたがり。


「バロン団長、この場を任せてよろしいか?」


 言いながら、レオテルスは戦場の中心地に向かおうとする。


「おい、騎士団長自ら前線に向かうつもりか? お主はセシルグニムの大将だろう?」


「私がいなくても、我が国の兵は皆優秀ですよ」


 笑みを浮かべながら、その老騎士に後の指揮を託すと。


「お待ち下さい、レオテルス殿。私も同行しても?」


 二人の会話を聞いていた女性、テティシア国騎士団長、ミュレイヤが同行を申し出た。


「ミュレイヤ殿……」


「あなたの剣を、この目で拝見させて頂きたいのです。以前サイカ殿と剣を交えた際、あなたの事を良く言っておられましたので」


 レオテルスは肩をすくませ、軽く頷いた。


「乗るか?」


「いいえ、お邪魔にならないよう、自分の翼で飛びます」


 そう言って、ミュレイヤは歌鳥人セイレーン特有の薄虹色の翼をはためかせ、高く上昇した。


「……美しい」


 天空に輝く虹の翼に一瞬目を奪われながら、レオテルスも彼女の後に続いて飛び立った。







 上空から地上の様子を見ると、すでに連合軍はグリーフィル軍を取り囲み、日をまたがずの早期決着がつきそうな勢いである。


「これだけ劣勢を強いられているのに、未だ向こうは降伏する気がないようですね」


「ああ、士気も下がっているようだ。軍人としてのプライドか、あるいは……」


 そうレオテルスが言いかけた時。


 ふと、二人は同時に、地平線から昇る日の光を遮る物体を目撃した。


「あれは……何ですか?」


「…………」


 二人が見たものは、オールドワンが起動させた遺跡、『エドゥルアンキ』である。


 ――にわかには信じられなかったが……サイカの言った通りだ。


 合戦が始まる日と重なり、世界終焉のカウントダウンが始まる。

 サイカもバルタもノーシスも、皆あの場所に向かっているのだと思い。

 この不毛な戦いを一刻も早く終わらせ、彼らの援軍に向かおうと考えていた。


 その時。


「っっ!?」


 レオテルスは驚愕した。


 彼方に見える『エドゥルアンキ』の真下から、突如として異形の化け物が姿を現したからだ。


 レオテルスに続いてミュレイヤもその巨大なナニカを捉えると、焦りからか無意識に声が漏れた。


「あ……あれ、は……」


「『原初の魔物(オリジンモンスター)』? だが、あんな奴見たことがない。それに……」


 と、レオテルスは息を呑む。


 七つの獅子の顔をしたその獣は、真っ直ぐ彼らの元へ近づいてきたのだ。


「まさか……私達のところに?」


「くっ!」


 途端、レオテルスは急降下し、地上にいる兵士達の元へ接近した。


「全員、武器を下げ撤退しろ! 巨大な魔物がこちらに迫ってきている。死にたくなければ今すぐ撤退しろ!」


 と、中心地で叫ぶレオテルスだが、これだけ密集し、命の取り合いをしている彼らにその声は届かず。


「馬鹿がっ!」


 すると、レオテルスは群衆の中に突っ込み、刃を交えていた双方を押し倒した。


「ぐあっ……レオテルス団長?」


「今すぐここから離れろ! 命令だ!」


「し、しかし……」


 と、あたふたする味方の兵士を説得していると。


 突如、レオテルスの背後から敵兵が剣を振り下ろす。


「死ねえええ!」


 だが、レオテルスは目で追わずとも、後ろを向いたまま剣を抜き、その斬撃を受け止めた。


「なっ……!」


「お前達もだ、グリーフィル軍。『原初の魔物(オリジンモンスター)』級の魔物がこちらに迫ってきている。今すぐ撤退しろ!」


「何だと……」


「どのみち勝敗は決まっているだろ。お前達の戦力で、ここから覆せると思っているのか?」


 どう頑張ってもここからの逆転はない。そう現実を突き付けるレオテルスだが。


「それは……出来ない……」


「何?」


 敵兵は震えながら訴える。


「俺達がここから逃げる事は許されないんだ。オルドマン大司教に、家族を人質に取られているから……」


 それはイズリスの記した聖典から引用した、呪いの呪文。

 兵士の家族、親友、大事なもの……。彼らが戦場から離脱した瞬間に発動し、その全てに死の呪いをかける、非道なる魔法。


 オールドワンは命の選別をする為、手始めとして、この場にいる全員を根絶やしにするつもりであった。





ご覧頂き有難うございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ