254話 フリングホルンの酒場にて、作戦会議
正体不明の二人組と別れたポロは、フリングホルンの飲食街にある酒場へ向かうと。
そこにはすでにノーシスを含む、エルフの里で顔を合わせた皆が集合していた。
「あ、ポロ、こっちこっち!」
大きく手を振るリミナの元へ向かうと、一同はフォルトを中心にして作戦会議を始めようとしていた。
「やあ、ポロちゃん、お疲れ様。ノーシス君から話は聞いたよ。どうにか交渉は成功したみたいだね」
「僕は何もしてないけどね」
「そうでもないさ。君がその場にいるだけで、良い具合に緩衝材になったはずだ」
と、二人の手柄を労い。
「さて、二人が来たところで、作戦会議を始めようと思うんだけど……その前に、もうちょっとだけ待ってくれるかい? 実はルピナスちゃんにお願いして、もう二人ここに来る予定なんだ」
「二人?」
すると、キョトンとするポロの後ろからタイミング良く、待つ合わせ場所に到着する二人。
「ああ、丁度来たね。君達は知り合い同士なんだろ?」
と、フォルトの視線に釣られてポロも後ろを振り返ると。
そこにはオニキスとショウヤが立っていた。
「ショウヤ……オニキスさんも」
「よお、久しぶり」
セシルグニム防衛戦以来の二人を懐かしみ。
一同は挨拶もそこそこにして、フォルトはテーブルに世界地図を広げた。
「それじゃあ役者が揃ったところで、アタシ達のやるべき事を整理しようか」
言いながら、フォルトは地図に載っている主要国にそれぞれマーキングを付ける。
「まず世界大戦についてだけど、今回その渦中にいるグリーフィル王国は、元々敵対していた四ヵ国に加え、そこにセシルグニム、そしてセシルグニムと友好関係を築いているテティシアが加入し、六ヵ国の巨大な連合軍として攻め入られる予定だ」
フォルトはサイカに目を向け「そうだろう?」と尋ねる。
「ああ、決行日は二日後だ。本来その日は私が指揮を執る予定だったが……姫様達の救出を最優先にする為、レオテルスに無理を言って代わってもらった」
すると、隣にいたノーシスがサイカに異を唱える。
「待て、今更隠す気もないが、レオテルスは僕達の仲間だ。正直君よりも戦力になる。どちらかを戦場に回すなら、君が残ったほうが効率的だったのでは?」
「言ってくれるな。少なくとも貴様よりは強いつもりだ」
と、序盤からバチバチと険悪なムードを漂わせる二人。
「はいはい喧嘩はやめようね~。アタシもその人選に異論はないよ。敵が籠城するだけとは限らないからね、地上にも頼れる者がいたほうがいいさ」
フォルトは二人をなだめながら、マーキングした六ヵ国に矢印を伸ばし、グリーフィルの位置に引っ張ってゆく。
「で、このグリーフィル領の平地で合戦が行われるわけだけど、厄介なことに『海峡の裂け目』から遺跡が浮上するのもその頃なんだ。つまりは地上でチャンバラやってる最中に、アタシ達はこっそり飛行船で遺跡に侵入しなくちゃならない。バレたらグリーフィルと連合軍の両方に狙われる可能性があるね」
そして、地図に載っている『海峡の裂け目』を何重にも円を描き、そこが自分らの目的地であり終着地点である事を強調する。
「オールドワンは必ずここに来る。そしてイズリスを復活させる為に、世界中から集めた『統一する者』達の魔力を贄にするだろう。その前に食い止めるのがアタシ達のミッションさ」
この事実は世界中でも一部の者しか知らない。
否、知っていても、未来を見通せるフォルトの力を信じる者はより限られてくる。
「これは本当に危険な戦いだ。全員が無事に帰れる保証はない……。だから無理強いはしないよ。降りたい人は今のうちに降りてくれ。責めたりしないから」
そう告げるフォルトだが、この場にいる全員、誰一人として退く気はなく。
数ある可能性の未来を見てきたフォルト自身、彼らが諦める選択肢を選ばない事を知っていた。
「フォルトさん、分かってて言ってるよね?」
「はは、ポロちゃんにはお見通しだったか。でもこれを言っておかないと、何だかアタシが強要してるみたいだからさ」
と、冗談めかして言いながら。
「感謝するよ。これは未来を知るアタシ達にしか出来ない事だ。それじゃあ、遺跡に向かうメンバーを確認するよ」
フォルトは一人ずつ魔導飛行船に乗るメンバーを記入する。
フォルト、ルピナス、オニキス、ショウヤ。
バルタ、ノーシス、グラシエ、リノ。
サイカ、リミナ、メティア、ミーシェル、そしてポロ。
バルタとポロの船員は他にもいるが、今回の決戦の場は未知の遺跡であり、少なくとも単体で熟練者級を倒せる程の実力がなければ危険と判断した結果、二人は部下達をメンバーから外す選択を下した。
「そういえばタロスは?」
ふと、リミナはメティアに問う。
「半身が損壊したからね。今は近くの宿屋で応急処置をしてるよ。何でも、専属の木彫り職人が来るらしいから待機してるんだって」
すると、横入でルピナスはメティアに尋ねた。
「ねえ、あとでタロスの様子を見に行ってもいいかしら?」
「えっ?」
彼女の意外な言葉に、メティアは一瞬戸惑った。
先の『冥界の谷底』にて、二人の仲はあまりよろしくないと思っていたからだ。
「……いいけど、なんで?」
「一応助けてもらったから、お礼くらいは言おうと思って。それに、その木彫り職人は私も一度会った事あるの。ついでに顔を見せてくる」
メティアは一息吐いたあと、喧嘩しないという条件で許可を出した。
その後、酒場に集まったメンバーは一度解散となった。
フォルトの見た未来では二日後、『海峡の裂け目』から古代の遺跡が浮上する。
同時にグリーフィルと連合国との決戦も始まるのだ。
皆はそれぞれの目的の為、最後の準備に取り掛かる。
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