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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
最終章 星の楽園、偽神に抗う反逆者編
253/307

252話 ポロを知る、見知らぬ二人


 ギルド本部から出た後、ポロとノーシスは仲間が待つ酒場へと向かう。

 その途中。


「ノーシス、さっきの事だけど」


 不意にポロは先程のやり取りを掘り返した。


「何だい?」


「まさかノーシスがギルド長に銃を向けるとは思わなかったよ。正直ヒヤヒヤしたね」


「そのわりには、君も止めに入らなかったな」


 対してノーシスは面倒くさそうに返答する。


「信じてたから。ノーシスがギルド長を撃つはずがないって」


「その信頼はどこから来るんだい? 霊山では、本気で君を殺そうとした相手だぞ?」


「ナナに蘇生させようともしたよね? あの時ノーシスは、僕を心配してハジャの元へ行かせないようにしたんでしょ?」


 ポロの言葉にノーシスは目を背け、眼鏡の位置を調整する素振りでごまかす。


「何を言うかと思えば……」


「君は、義理の弟を僕と重ねて見ていたんでしょ?」


「…………」


 そんなノーシスに、感謝と共に真実を伝えようとポロは思った。


「ハジャから全部聞いたんだ。僕はファルクの体と融合した黒妖犬ヘルハウンド。人と魔物が混ざり合った、どっちつかずの生き物だよ」


「っっ!」


 ノーシスは一瞬驚いたような反応を見せ、そして平静を装う素振りで「そうか」と一言返した。


「ノーシスの予想は大体合ってたわけだね。僕の体はファルクのものだろうけど、心は多分、魔物なんだと思う」


「だが君は人類と同じ理性を持っている。うちのリノやグラシエのような合成生物キメラと似た存在だろう? 別にめずらしくないさ」


 肯定的に返すノーシスに、ポロはバツが悪そうに尋ねた。


「僕を、恨んでる?」


 形として、ポロはファルクの体を乗っ取ったようなものであり、それに対してノーシスはどう思っているのか……、ポロは彼の真意が気になった。


「下らない質問だな。今更言う事でもない」


 溜息を吐きながら、ノーシスは続ける。


「ファルクはあの日に死んだんだ。他の孤児院の兄弟達と一緒にね。その事実はとっくに受け入れている。恨むと言うなら、それはあの日、皆を救えなかった自分自身にだよ」


 ポロを責めても仕方がない。逆恨みに何の意味もない。


 ノーシスはそれを受け入れたうえで、ファルクと同じ姿をしたポロを守ろうとしていたのだった。


「幸いなのは、ファルクの亡骸を悪事に利用されなかった事だ。もしも誰かに【死霊術ネクロマンシー】で蘇らされ、望んでもいない殺戮兵器にされたら、あいつの人生が浮かばれないからね……」


「そっか」


 行き着いた先がポロの元で良かったと、ノーシスは遠回しに伝え。

 ポロもまた、ノーシスに自分を認められたようで心なしか気が楽になっていた。





 そんな会話を交わしながら歩く道中で。


 ふと、二人は前方に目を向けた。


「……ん?」


 そこには、じっとポロを見つめたまま進行方向に立つ二人の男女。

 冒険家のような恰好の男と、剣士のような風貌の女性。


 二人はまるでポロを待っていたかのように、手を振りながらゆっくりと近づいて来た。


「君がポロか?」


 男の問いにポロが頷くと。

 二人は示し合わせるように見つめ合い。


「少しだけ時間いいかな? えっとぉ……」


 言いながら、男は気まずそうにノーシスへ目を向ける。


 ポロ意外の者には、あまり聞かれたくない内容の話をするつもりだと察したノーシスは。


「……ポロ君、僕は先に行っているよ。店でまた合おう」


 二人に敵意を感じなかった為、ポロを置いてそのまま去って行った。


「悪いな、ホントすぐ済むから」


「別にいいよ。それで、僕に何か用?」


「ああ、実は知り合いに頼まれてな、君に渡したいものがあるんだ」


 すると男は横から【空間の扉(ポータル)】を生み出し手を伸ばすと。

 中から木製のリングを取り出した。


「これは?」


「『ミストルティン』っつってな、これを腕に装着したまま魔力を流すと、自分の思い通りの形に変形する武器だよ」


 そう言って渡された二輪のリングを鑑定するようにまじまじと見つめるポロ。


 と、そこでポロはある事に気づいた。


 ――この匂い……。


 微かに香る、懐かしい匂い。

 六年前に亡くなったはずの、姉の匂いだった。





ご覧頂き有難うございます。

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