249話 神出鬼没な魔人の少女
コルデュークとの決着を終えたショウヤは、オニキスの元へ歩み寄る。
「オニキス……さん」
未だクロナと戦闘中のオニキスは、ショウヤの無事を確認すると、心なしか安堵の息を漏らした。
「今更さん付けしなくていいよ。よく無事でいてくれた」
言いながら、オニキスも決着をつけるべく、一瞬の踏み込みでクロナの懐まで距離を詰め。
アダマンタイトを溶解し、手甲のように再構築した武器を自身の腕に同化させると。
「こっちもすぐ終わるよ」
彼女の腹部を思い切り殴りつけた。
「ごぁあっ!!」
オニキスの殴打を食らったクロナは、胃液を吐きながら周辺の岩に吹き飛ばされ。
激突した岩壁からズルズルと地面にへたり込み、そして恍惚の表情を浮かべる。
「い、いひっ……この痛み……最っ高……!」
ビクビクと体をヒクつかせ、快楽の境地に達している彼女に、オニキスは関心の目を向ける。
「鎖骨が折れてると思うんだけど……ずいぶんタフな子だねぇ」
「いや、ただの変態なんだと思う……」
そうツッコミを入れるショウヤに「そうなのかい?」と天然染みた返しをしながら。
「ともあれ、君はもう動けないはずだ。コルデュークもやられ、君は一人。まだ続けるかい?」
「あっは、続行すれば、もっとキツイのをもらえるのかしら?」
目をハートにしながら、期待の眼差しを向けるクロナにオニキスは溜息を吐き。
「無益な殺生はしたくないんだけど、君が望むなら……」
仕方なくといった様子で、オニキスが彼女に手を加えようとした時。
突如、周囲に異様な気配が漂った。
「転生者オニキス様、並びにショウヤ様でございますね?」
不意に聞こえた声に振り返ると、そこには身の丈以上ある大斧を担いだ少女が立っていた。
「……いつの間に」
銀髪の頭から伸びた二本のツノに、コウモリのような翼を生やした少女。
何より、すぐそばまで接近していたにも拘らず、全く気づけなかった彼女の気配に、オニキスとショウヤは同時に危機を感じた。
「お初にお目にかかります。古くよりイズリス様方の使用人を務めさせて頂いておりました、魔人族のキア・リリムと申します」
目の前に対峙しただけで分かる、ただならぬ気配。
無表情で大人しそうな見た目に反して、実力者であることは間違いなかった。
「永き時を、奈落と現世の狭間で漂っておりましたが、この度大司教のご助力で地上へ舞い戻る事が出来ました」
――オールドワンの、隠し玉か? 奈落と現世の狭間?
そんな考察をするオニキスに続けて彼女は言う。
「つきましては、間もなく地上に現れる『エドゥルアンキ』の核に、転生者の皆様、特にショウヤ様をお招きするよう仰せつかったので、ここにはせ参じました」
「俺を?」
何故か自分を重要視する彼女の言葉に、ショウヤは疑問を浮かべる。
「あなたは転生者の中で唯一自発的に固有能力を発現したお方、加えてその能力は、イズリス様と意識を共有出来る大変貴重な力でございます。なのでどうかワタクシ共の為にあなたを利用……もとい、力をお貸し出来ないでしょうか?」
「今利用するって言いかけたよね?」
ボロを出す少女に付言し、ショウヤは「絶対ヤダよ」と反論する。
「オールドワンの味方っていうなら、俺がお前に力を貸す事はあり得ないよ」
「そんな……こんなに必死でお願いしているのに……」
「言うほど必死さが伝わってこないが!?」
と、悲しそうな顔をするキアにツッコむショウヤは。
「だけど安心しろよ。わざわざ出迎えなくても、お前らのところへは必ず行くさ。準備が出来たらすぐにでもな」
こちらも逃げるつもりも、逃がすつもりもないと、ショウヤはキアに豪語する。
「オールドワンには、首を洗って待ってろと伝えてくれ」
「? 首を洗う事に何か意味があるのですか? 入浴の際、首以外は洗ってはいけないのですか?」
「ただの脅し文句だよ! 真剣に返されると調子狂うんだよ!」
首を傾げるキアにペースを崩されながら。
彼女は疑問符を浮かべながらも了承し。
そして去り際にクロナに問いかける。
「クロナ・バゼラ様。大司教からあなたにもお声がかかっているのですが、あなたは我々とそちらの方々、どちらの側につきますか?」
すると、クロナはニタリと笑みを浮かべ。
「興奮するほう」
と、キアに返す。
「……はぁ」
キアは再び疑問を浮かべながらも返答し。
彼女はおもむろにクロナを肩に担いだ。
「あなたの要望に応えられるかは分かりませんが、一先ずは大司教の元へお連れします。【空間の扉】」
そしてキアは空間転移魔法を唱え。
「それではお二方、かの地にてお待ちしておりますので、ご足労をかけますが宜しくお願い致します」
別れの言葉を言うと、そのまま転移ゲートの中へ姿を消していった。
残った二人は互いに顔を見合わせ。
「ショウヤ君。正直僕は助かったと思っているよ。あのまま戦っていたら……」
「分かってる。あいつ、セシルグニムで戦った分身体のハジャと同等かそれ以上の強さを持っていた。今の俺達じゃ、多分勝てなかったと思うよ」
表に出さずとも感じ取れる彼女の実力に戦慄していた。
「ルピナスからの連絡で、ハジャ様はポロ君が倒したと言っていたけど……、最大の戦力がいなくなったと安堵していたら、思わぬ伏兵がいたものだね」
「なら、俺達も早くポロ達と合流して、『海峡の裂け目』って場所に行かねえと。あの女と戦うには皆の力が必要だ」
「それにはまず……飛行士達が運送ギルドに上手く交渉してくれないとね」
二人は策を講じながら、間もなく訪れる戦いの準備を始める。
世界大戦を終わらせ、争いの無い未来を築くか。
はたまたイズリスの復活を許し、世界の終焉を迎えるか。
数日後にその未来は訪れる。
ご覧頂き有難うございます。
今回で幕間が終わり、次回から最終章へ突入します。
よろしければ最後までご覧下さい。