24話 一方その頃攻略部隊【2】
突然参入したアルミスに、周囲の魔物を全滅させたリミナは呼吸を整えながら近づく。
「ふぅ……ようやく話せるわね。お姫様」
表情はあまり良い印象ではない。
「今回ばかりはバルタと同じ意見よ。言っとくけど、これは遊びじゃないの。気を緩めれば簡単に命を落としかねないダンジョンなのよ。そんな場所でお荷物が増えることを良しとするとでも?」
小ぶりな体で、アルミスにグイグイ凄む。
「あんたのわがままで誰か犠牲が出た場合、どう責任とるつもりかしら?」
「それは…………」
「もう少し、国の王女としての立場を考えなさい。あんたの命一つで国が傾く事だってあるんだから」
「…………申し訳、ございません」
もっともな言い分に、アルミスは謝罪の言葉しか出てこなかった。
そして溜息を吐くリミナは彼女に背を向けると。
「自衛の術はあるの?」
先程よりも穏やかな声質でアルミスに問う。
「中級魔法ならある程度使えますし、エルフの講師に習った弓術の心得もあります。それから治癒魔法が得意ですので皆様の治療でお役に立てるかと……」
と、簡易的な複合弓を取り出し戦力アピールをするが。
「そういうのはいいから。自分の身は守れるのかって言ってんの」
リミナは戦力として数えてはなく、即死しないような術を求めていた。
「広範囲の【防御結界】なら習得しておりますが……」
それを聞いたリミナは「よし」と小さく頷くと。
「なら、戦闘の際は常にあんたの周りに【防御結界】を展開すること。いいわね?」
そう言いながら、リミナは先へと歩を進める。
アルミスはキョトンとしながら、近くにいるバルタに尋ねた。
「私、認めてもらえたのでしょうか?」
複雑な表情を浮かべながらバルタは答える。
「あ~まあ、たしかにここから引き返すのも時間の無駄だしな。渋々オーケーって感じだ」
「リミナ様、それに皆様も、やはり怒っておりますよね……」
バルタは頭を掻きながら。
「ん~他の奴らはどうか知らんが、少なくともリミナはそんなに怒ってないと思うぞ? どっちかってぇと心配してるんじゃねえのか? 歳の近い王女様を、あいつなりに気遣っているんだよ」
「私を……?」
少し意外だと思いながら、アルミスは先行くリミナに一礼を添えた。
その後、幾度となく襲い来る魔物を撃退しながら最深部へと目指す攻略部隊。
そして今は中間地点と思われる場所にて休憩をとっていた。
「ねえ、オーグレイって言ったわね?」
と、休憩中にリミナは他に聞かれないような小声でオーグレイに問う。
「なんだ?」
「あんたがお姫様をダンジョンに同行させる理由を教えて」
面倒くさそうに舌打ちをすると、携帯食をかじりながら嫌々答える。
「お堅い副団長の代わりに、姫様のご意向に添えたいと思ったからだよ。悪いか?」
「それだけなわけないでしょ。利益のない話に乗っかる程、あんたは無欲じゃない」
――こいつも余計な勘が働く……。
そう思いながら、オーグレイは適当な理由を考えリミナに返した。
「なあ、『世界の支柱』にまつわる伝記で、人々を幸福に導く神が降臨する話を知っているか?」
「『人柱の少女』の話? ざっくりとだけど内容は覚えているわ。たしか荒れ果てた土地に暮らす人々が救いを求めて『世界の支柱』へ向かい、一人の少女を贄に差し出したことで天から神様が降りてきて、緑溢れる豊かな土地に変えたとか……」
簡潔に伝記の内容を口にしながら、再びオーグレイに問う。
「で、それがなんなの?」
「その話に出てくる贄となった少女は、生まれつき人よりも優れた魔力を有していたらしい。世界のマナに愛された少女、それはのちに神の使いとして崇められる存在になったんだ」
その言葉を聞いて、リミナは察した。
「あんた、まさかそんなおとぎ話を再現させる為にあの子を連れてきたって言うの?」
怒る気持ちを抑えながらも、リミナはオーグレイの胸倉を掴む。
「仮にその話が真実だった場合、あの子は人柱として犠牲になるってことじゃない! それを知りながらよくもあの子を連れ出したわね、この人でなし!」
猛るリミナの腕を払い除け、オーグレイは落ち着いた様子で答えた。
「勘違いをするな、俺とて姫様をみすみす死なせるようなことはしたくはない。ただその話から察するに、『世界の支柱』に眠る特別な魔鉱石は、なんの力も持たない一般人が簡単に掘り出せる代物じゃないと踏んでいる」
「……どういうことよ?」
「今まで調査された『世界の支柱』はどれも最深部に巨大な魔鉱石が眠っていると記録されているが、最深部まで到達出来た者達が魔鉱石を回収したという記録はない」
「世界遺産だから、むやみに傷をつけたくなかったんでしょ?」
「いいや、裏話で、過去に何度も掘り出そうとした記述は残っていた。しかし並みの技術では傷をつけることすら出来なかったんだ」
もっともらしい作り話を真実と織り交ぜて、リミナの心をあおる。
「最高硬度をほこる鉱石、アダマンタイトよりもはるかに硬い物質だ。到底人の手でどうにかなる物じゃない」
リミナはオーグレイに疑いの目を向ける。
「それが事実なら、とっくに世界中に広まっているでしょう? あんたの国の王様だって知っているはず。掘り出せないと知りつつ、わざわざアタシ達冒険家を雇ってまで大掛かりな依頼をするはずないでしょ」
「知らないさ、陛下は。いや、ごく一部の者しかその事実は知れ渡っていない。俺には裏のツテがあるんだよ」
と、ニヤつきながらリミナに返す。
「ダンジョンの魔鉱石はな、同一人物が一度に全属性の魔力を注ぐことで封印が解かれ、ダンジョンの岩肌から剥がれ落ちる仕組みになっているんだ。まさに姫様がその鍵を握っているのさ」
「な……そんなこと」
「ちなみにおとぎ話と違い、生贄として死ぬこともないから安心しろ」
とても信用出来ないが、オーグレイの余裕の笑みが不気味であり、全てが虚偽ではないと思ってしまう。
「お前が思う通り、俺はただの小悪党だ。利益なしでこの仕事を受けるつもりはなかった。だが俺だけが知っているこの事実を周囲に見せつければ、本作戦は自ずと俺の手柄になる。上の階級に返り咲く為なら真実だって黙秘するさ。ま、姫様をダシにしたようで気が引けるが、しかし実際姫様がいなければ今回の任務は無駄足に終わっていたところだ」
話を終えたオーグレイは、がぶりと水で薄めた葡萄酒を飲みリミナに訴える。
「理解したか? 俺の動機を」
何か言いたそうに口ごもるが、リミナは特に反論せず。
「ええ、どこまで本当の話か分からないけどね。ただし、あの子に危険が及ぶようなら、アタシは容赦しないわよ?」
代わりにバルタ同様、脅しをかけてオーグレイの増長を抑制する。
――ふん、ガキはなんでも恐怖で支配しようとするな。まあ、これで若干俺への警戒は薄れただろう。
と、リミナを小馬鹿にしながら、真実を悟られなかったことに一安心する。
――全部が嘘じゃねえさ、姫様が鍵なのは本当だ。そして、人柱という話もな。
そして時は、最深部手前の局面まで進んでゆく。
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