244話 導かれるフルコンダクター
『冥界の谷底』にて、ポロ達が始まりの転生者と別れた後。
突如エルメルは呆けた様子で「行かなきゃ」とうわ言のように言葉を発し、空間転移でその場から消えていった。
「フォルトさん! エルメルが……」
「分かってる。場所も把握しているよ」
取り乱すルピナスをフォルトはなだめ、そして難しそうな顔を浮かべる。
「エルメルちゃんは、近いうちに『海峡の裂け目』から現れる遺跡へ行こうとしているんだ」
「遺跡って……さっきフォルトさんが言ってた?」
「ああ、オールドワンが起動させた、『エドゥルアンキ』のもう一つの形態さ」
ルピナスは力が抜けたように腰を落とし、愕然と地面を見つめた。
「予見した時間よりも早い……。未来が不安定になっているのかね」
そんな事を呟くフォルトにサイカは問い詰める。
「おい、今はどういう状況だ? 何故急にあの女が去って行った?」
「誘われてしまったのさ、『世界の支柱』が放つエネルギーに」
眉をひそめるサイカに、フォルトは続ける。
「『統一する者』は『世界の支柱』に導かれる。その強い魔力と共鳴して、一つになりたがるんだよ。君の国の王女様もそうだっただろ?」
その言葉に、サイカは『黒龍の巣穴』での出来事を思い出した。
アルミスが言いつけを破り、ポロ達の魔導飛行船にこっそり侵入してでも近づこうとした、『世界の支柱』にある巨大な魔鉱石。
彼女ら特別な力を持つ者は、その魔鉱石に誘われ、そして人柱として同化する。
そんな伝承まであるのだ。
「四つの柱が一つになったんだ。純粋にその効力も四倍だろう」
そしてサイカは、ある不安が脳裏をよぎる。
「っっ! 姫様!」
アルミスの状態である。
以前のように、彼女もまた『世界の支柱』に吸い寄せられているのだろうかと。
「そうだね、アタシの【空間の扉】を使いなよ。彼女の元まで送ってあげる」
そう言って、一同はエルフの里へ空間転移していった。
だが、時はすでに遅く……。
数分前、エルフの里にて。
グリーフィル軍の脅威が去った後、里のエルフ達は壊れた建物や亡くなった者の埋葬など、後始末に追われていた時だった。
ふと、アルミスとエリアスは同時に遠くを見上げる。
「ん? アルミス、どうしたの?」
不思議に思ったリミナが彼女に尋ねると。
「行かなきゃ……」
「なんて?」
「呼ばれているの。『世界の支柱』に」
言いながら、アルミスはエリアスの手を引き、フラフラと歩き出す。
「ちょっ、ちょっと!」
正気ではない彼女達の表情を心配していると。
「おい、ナナ、どうしたんだよ?」
近くにいたナナまでもが、二人と同じ方向を向き歩を進める。
心配したバルタは彼女の肩に手をやるが、ナナはその手を振り解き。
「呼んで、る。早く、行かなきゃ」
「ナナ……?」
そう呟き、三人が同時に固まると、ナナは前方に【空間の扉】を生み出し。
「おい待てって! どこ行くんだよ?」
バルタの問いには答えず、三人はそのまま空間転移で去って行った。
「……何なんだ、一体」
理解が追い付かない一同の元に、一歩遅れてポロ達が到着した。
「姫様! ご無事で……」
サイカが呼びかけた時には、【空間の扉】は閉じかけの状態であり。
「姫様っ!」
彼女の声も虚しく、その扉は消えてしまった。
その後フォルトは皆を集め、これまでの事を説明した。
「……というわけでね、彼女達は皆、オールドワンの元へ向かったんだよ」
すると、急いた様子でバルタは尋ねた。
「なあフォルト、お前未来が見えるんだろ? なら、これからどうなるかもお前は分かるんだよな?」
「最悪の未来ならいつでもね。けど、軌道修正しようとすれば、少しずつズレが生じる。アタシ達はそのズレから新たな道を構築しなきゃならないんだ。多少の時間はかかるよ。つまりここから先は、直近にならないと予知出来ないのさ」
と言うフォルトに、「んだよ、使えねえな」と愚痴を漏らす。
「はは、そうだね、『時の魔女』が聞いて呆れるよ。本当に」
などと自虐で返しながら。
「けど、彼女達はまだ無事だよ。今は海底にある遺跡に向かったからアタシ達じゃ近づけないけど、一週間もすれば遺跡は地上から顔を出し、空へ浮上する。その時に乗り込めるはずさ」
一先ずの身の安全をバルタに説いた。
と、そこでルピナスも彼女に問う。
「フォルトさん。遺跡がまだ海底に沈んでいるなら、エルメル達も近づけないんじゃないの?」
フォルトは「いいや」と一言。
「『統一する者』は『世界の支柱』に導かれると言っただろ? あの海域に近づくと、自動的に転移されるシステムらしい。それも彼女達だけがね。今さっき未来を見た結果だから間違いない」
「それじゃあ……一週間は手出し出来ないってこと?」
「そうなるね。だからまずは……グリーフィルと連合国の戦争で、オールドワンがどう動くのかを予想しないといけない」
近々起こる世界大戦で、オールドワンはどう動くのか。
皆はそれぞれの思いを胸に。
戦いは、最終章へ向かう。
ご覧頂き有難うございます。
今回で第五章は終わりです。次回から幕間を少し挟んだのち、最終章へ向けて物語は進んでいきます。
出来れば最後までご覧頂けると幸いです。