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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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243話 祖父の意志を受け継いで


 目の前の冥人くらびとにまつわる過去を語り終えたフォルトは、一呼吸置いて、サイカに尋ねる。


「サイカちゃん、これが君のおじいさんの歴史だ。君は、お父さんからどこまで聞いているんだい?」


「……父上からはただ、勇敢な剣士であったとだけ。ソニア様からも、それ以上の言及はなかった」


「そうかい。なら二人は、カザミさんとの約束をちゃんと守ったって事だね。良かったじゃないか、カザミさん」


 と、フォルトは隣の冥人に向け言うと、男は不服そうに返した。


「カザ……ミ、ノ、ナ、マエ」


「あ~、そうだね。サイカちゃんの代までカザミさんの名が残ってしまっている。けど、そこは目を瞑ってあげなよ。あなたの愛した人が、せめてもの形見に残しておきたかったんだからさ」


 軽く返すフォルトに、冥人は小さく頷き、そして彼女に言った。


「オマ、エハ……カワッ、タ、ナ」


「あっはっは! あれから八十年以上も経っているんだ。そりゃアタシだって青臭くはいられないさ。それとも、気弱そうな女の子のままが良かったかい?」


「……イマノホ、ウガ、イイ」


「ふふ、ありがと」


 そう言って、フォルトはサイカを見返し、彼女の瞳、立ち構えをタクマと重ねた。


「ねえ、カザミさん」


 満足気に、笑みを浮かべて。

 まごう事なきタクマとソニアの血が受け継がれている雰囲気を感じた。


「あなたが残したものは、今日この日まで、脈々と受け継がれてきましたよ」


「……………」


 すると、冥人はサイカに近づき、優しく彼女の頭を撫でる。


「あ……」


 サイカは戸惑いつつも、その実体の無い影の手に身を委ね。


「お爺様……」


 伝わらずとも感じる温もりに、心地よさを抱いた。

 そして冥人は彼女に言う。


「オレ、ノ……イシ、ヲ、キミ……ニ、タクス」


「意志?」


 その言葉と共に、冥人の触れる手から魔力が伝い。

 サイカの中に流れ込む。


「これは……!」


 それはタクマが生前培ってきた、武の記憶。

 彼の剣術、体術、銃の扱い方に加え、全盛期のソニアを間近で見てきた彼の魔法の知識が、彼女の脳に直接流し込まれた。


「アト、ハ……キミ……シダイ」


 冥人はそれだけ言って、サイカの元を離れた。


「もういいのかい?」


 そして再び暗闇の中へ去っていく彼にフォルトが問うと。


「フォ、ルト……イ、ママデ、アリ……ガ、トウ」


 最期の言葉を、彼女に贈った。


「こちらこそだよ。……カザミさん、今までお疲れ様。安らかにお眠り」


 フォルトが言うと、冥人は音もなく、体を灰のように舞い散らせ消えていった。


「……祖父は、帰ったのか?」


「いいや、成仏したんだよ」


「っっ!?」


 と、サイカの言葉にフォルトは返す。


「後の事を君に託して、心残りがなくなったんだね~」


「そんな……父上やソニア様にも会わずに……」


「そんな時間はないよ。それに、この場所は本来里のエルフしか立ち入っちゃいけないんだろう?」


 言いながら、フォルトは谷底から見える朝焼けを眺め。


「あの人はね、死んだあともずっとアタシ達を導いてくれてたんだ。だから、そろそろ休ませてあげないと」


 彼との想いを振り切るように、フォルトは両手を合わせ、冥福を祈った。


 ――いつかアタシもそっちに行くから、どうか天国からみんなを見守っていて下さい。


 心の中でそう呟きながら。


「どうだい、サイカちゃん、ここに残った価値はあっただろう?」


 同じくタクマに冥福を祈っていたサイカに尋ねると、彼女はじっとフォルトを見つめる。


「お前、『時の魔女』と言ったな。この未来もお前の手の内か?」


「おいおい、何だい藪から棒に」


「私が祖父から力を授かるところまでが、お前の筋書きなのかと聞いている。ポロに加担したのも、私をここへ招いたのも、すべてはオールドワンを止める為の駒にするつもりだったのか?」


 鋭い視線を向ける彼女に、フォルトは微笑を浮かべた。


「はは、意外と頭が回るんだね。カザミさんから知識を得たおかげで、頭も良くなったのかな?」


「茶化すな、本当のことを言え」


 ごまかしは通じないと理解し、フォルトは静かに頷く。


「そうだよ。時間がないって言っただろ。オールドワンはもはや、なりふりを構っていられる状況じゃないんだ。どんな手を使ってでもイズリスを復活させる」


 フォルトもまた同じく、どんな手を使ってでも阻止しなければならない。

 ポロの力だけでは足りないと予想したのだ。


「イズリスが復活した時点でアタシ達の負けさ。人を超越した存在にはどうやっても敵わない。だからその前にオールドワンを止める。その為には君達の協力が不可欠なのさ」


 そして彼女は近づき、サイカに協力を仰いだ。


「アタシ達は争っている場合じゃない。世界の崩壊を防ぐ為、君達の力を貸してほしい」


 そっと地に伏せ、ポロとサイカに向けて土下座の構えを取り、切に願った。


 サイカは少しの間沈黙した後。


「……どのみち我が国は他国と連携を取り、近々グリーフィルへ最終決戦を仕掛ける予定だ。その際にオールドワンの首も取る。お前が頭を下げなくとも、奴と戦う事になるのは必然だ」


「そうかい、ならこれは、アタシの誠意と受け取っておくれよ。君達世界の人達と、アタシ達転生者の同盟を承諾する為のね」


 サイカは無言で頷き、彼らとは休戦の形で共闘する運びとなった。


「ポロちゃんもそれでいいかな?」


「うん。さっきのやり取りを見ていて思ったけど、フォルトさんからは、すごく優しい匂いがするんだ。きっと本当に世界を救いたいんだろうね」


 ポロは言うまでもないと、彼女に頷き。


「僕で良ければ力になるよ。ハジャの件でもお世話になったし」


 尻尾を振りながら了承するポロに、フォルトも安堵した様子で息を吐く。


 と、その時。



「エルメル!? どうしたの?」



 ふとフォルトの後ろを見ると、エルメルがフラつきながら空を見上げる姿。


「……私……行かなきゃ……あの楽園に……」


「え、何を言っているの?」


「呼ばれているの……『世界の支柱』に……」


 そう言うと、突然彼女は【空間の扉(ポータル)】を生み出し。


「ちょっと、エルメル!」


 彼女は意識を朦朧とさせながら、吸い込まれるように空間の彼方へ消えていった。



 それがオールドワンの仕掛け。

 彼の計画は、最終段階に向けて動き出す。





ご覧頂き有難うございます。


次回で第五章は終わりです。

だんだん最終回が見えて参りました。最後まで見て頂けると幸いです。

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