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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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23話 一方その頃攻略部隊【1】


 時は半日前に遡る。


 外でポロ達が土流蛇アーススネークと交戦していた時、ダンジョン内でも魔物の掃討が行われていた。


「ほらよっ!」


 バルタは手投げ斧(トマホーク)を投げつけ、引力魔法でブーメランのように手元に戻す。

 その一撃は確実に急所を狙い、無駄な動きのないスマートな戦いぶりで向かい来る敵を殲滅していった。


 相手は竜の骨から生まれた骸骨の軍勢、竜牙兵(スパルトイ)に、猛毒を吐く頭鳥蛇尾とうちょうじゃびの魔物バジリスク。


 共に上位戦士グレーター級の魔物であり、大群で現れた場合、並みの冒険家ならばひとたまりもない。

 が、彼らにとっては容易い作業だった。


「ったく、入って早々こんなに大勢で出迎えなんて……ホント、ダンジョンって優しくないわね」


 そう言いながら、リミナはバッグから小型の武器を取り出す。


「おっ、お前もトマホークを使うのか? 気が合うな!」


 手に持つ形状から斧だと判断し、バルタは親近感を覚えるが。


「違うわよ、先端に刺突用の刃が付いてるでしょ? これは……」


 と、リミナは武器を一振りすると、収納式になっていた取っ手が瞬く間に伸び切り、長物の槍へと変貌した。


「携帯式ハルバード。体で届かないリーチの差をこれで埋めるの」


 矛と斧の両立が可能な万能槍、ハルバード。

 身の丈の倍程ある得物を構えながら、リミナは気を練り前方の敵へ一薙ぎした。


「【爆散風ばくさんぷう】!」


 ハルバードの風圧が衝撃波となり、周囲の敵は爆発したように飛散する。

 魔力を消費しない、彼女の体術スキルである。


「おーすげえすげえ、つーかお前、さっき俺の戦闘を大げさだのなんだの言ってたくせに、お前のほうが大振りの脳筋スタイルじゃねえか」


「一方通行で大群に襲われた場合、こっちのほうが有効でしょ? スマートよ」


 彼女はムッとしながら、自分のスタイルを執拗に正当化する。

 そんなリミナのプライドを、バルタは微笑を浮かべながら受け流した。



「うわぁあ! 来るな!」


 と、そうこうしているうちに、一人の兵士がバジリスクの接近を許し、今にも猛毒の蛇の牙で噛まれようとしていた。


「おらっ」


 するとバルタは兵士のほうへトマホークを投げつけ、接近する蛇の尻尾を切り落とすと、一蹴りでバジリスクの元まで跳躍し、鳥の首を握りしめる。


「【滅びの炎(フォールブレイズ)】」


 そして腕から高熱の炎を伝わせ、一瞬のうちにバジリスクを丸焼けにした。

 バルタの一撃で倒れた魔物を見て、腰を落とす兵士。


「……はぁ、助かっ――?」


 だがバルタはその兵士の胸倉を掴むと。


「実力のねえ奴が前に出るんじゃねえよ。次は助けねえぞ?」


 殺気ある眼光で兵士を震え上がらせる。


「あ、ああ……すまない」


 脅しをかけた後、バルタは周囲を見渡した。


「【火球弾(ファイヤーボール)!】」

「【稲妻の矢(ライトニングショット)!】」


 攻略部隊の戦闘技術を把握し、総合的な戦力を分析する。


 ――冒険家のメンツは申し分ねえ。Aランクなだけあって場数も踏んでる。


 と、素直に称賛するが、逆に国から選ばれた兵士の実力を見ると。


「このっ、食らえっ!」

「おらっおらっ! アンデッド風情が、調子に乗るなよ!」


 ――一番数の多い国の兵士は、冒険家ランクで例えるならD……良くてCと言ったところか。魔物との戦闘に慣れていないうえ、自分らが優れた存在だと思い込んでいる勘違い野郎共。こんな増長しっぱなしの小物が国から選ばれた主力なのか? 副団長はともかく、こんな奴らでよく国が守れるもんだな……。


 呆れたように兵士の実力を推し量る。


 ――で、その筆頭であるオーグレイさんはっと……ん? ペンダントを持って何やってんだ?


 ふと、オーグレイの不審な行動が目に映った。

 戦闘そっちのけで魔道具を眺める指揮官代理に、違和感を覚えるバルタ。

 と、次の瞬間。


 突如オーグレイの目の前が光輝き、中からアルミスが飛び出してきた。


「あっ? なんでお姫さんが……」


 予期せぬ来訪者にバルタは目を丸くする。

 一方、計画通りに事が運ぶオーグレイは大振りにアルミスを歓迎した。


「お待ちしておりましたぞ姫様! 【空間の扉ポータル】は上手く使えたようですな」


 分かったうえでの態度に、バルタはオーグレイに突っかかる。


「おい、そこの姫さんをダンジョンに連れて行くなとポロに言われていただろ? どういうことだ、指揮官さんよぉ?」


 眼力で威圧するバルタに、アルミスは「お止め下さい」と静止させた。


「私のわがままなのです、私の意志で勝手に来ただけですので、どうかオーグレイを責めないで下さいまし」


「そうは言うが、こいつも共犯者だろ? わざわざ王女様を連れ出して何を企んでいるのかは知らねえが、万が一ダンジョン内で国の王女が死んだとあったら、俺達全員の責任問題になるだろうが!」


「私が死んでも罪に問われないよう、直筆のサインを残しました。だからあなた方に迷惑はかけません」


「そういう問題じゃ……」


 と、話している途中で、アルミスの背後に竜牙兵スパルトイが襲い掛かると。


「邪魔すんなっ!」


 バルタは瞬時にその頭蓋骨をわし掴み、思い切り地面に叩きつけ粉々に砕いた。


「とまあ、この場にいるだけで余計な気を回さなきゃならんわけよ。もし空間転移で戻れるなら戻ってほしいんだが……」


 バルタがそう言うと、「無理だな」とオーグレイが一言。


「『転移誘導機ポータルサポーター』で強制的に転移したこの場所は、姫様の記憶している座標には存在しない場所。現在地も分からぬ場所から空間転移魔法を使用することは不可能だ。そして、ここまで潜ってしまったのなら、今更引き返すのも時間と労力の無駄だろう?」


 意図的にそう仕向けた。バルタはそう確信した。


「てめぇ、知ったうえで姫さんを誘導したな?」

「俺を罰しても構わんが、今は姫様を守るほうが大事だと思うぞ?」


 今ここでオーグレイを殺してもなんの利益もなく、アルミスも全力で庇うであろうことは容易に想像出来た。

 余計な波紋を広げるべきではない。それはオーグレイも理解しているからこそ強気に振る舞うのだ。


 バルタは一呼吸を置いて冷静になると、お互い手を出さない代わりに、この手の者の神経を最も逆なでる物言いで返す。


「はっ! 小物が策を巡らせたところでたかが知れてらあ。せいぜい皆を出し抜く妄想でもしながら、狭い世界の玉座に踏ん反り返ってな、おっさん」


 小賢しい者程、自分のプライドを崇拝している。それを真っ向から否定されたオーグレイは顔が赤くなる程の激情が芽生えた。


 しかし、実力ではバルタに到底敵わない事も理解しており、彼の悪態をぐっと堪え、打ち震える感情を押し殺した。


 ――どいつもこいつも……たまたま才能があるだけのガキ共め! 今に見ていろ、俺は必ず最深部に辿り着き、人知を超えた力を手に入れてみせる。



 憎悪を腹の内に溜め込みながら。



ご覧頂き有難うございます。


ここから4話ほど攻略部隊サイドの話が続きます。

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