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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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238話 撤退するグリーフィル軍


 ポロ達が『冥界の谷底』での戦闘を終えた頃。

 エルフの里の一画では。


「ぐっ……はは、まさか俺がここまで追い詰められるとは思ってもみなかったぞ。入れ墨男」


 身体に纏っていた『練気』が底を尽き、ボロボロの体で空元気に振る舞うドルチェス。


「こっちは予想以上に時間をかけてしまって、少しショックだよ」


 対するノーシスは、使える武器をほとんど消費した挙句、ドルチェスにトドメを差せなかった事に不満を漏らした。


「向こうのゴーレムも僕が相手する予定だったが……結局王女様にも手伝わせてしまった」


 と、奥に視線を向けると。

 ミーシェルがゴーレムをかく乱させている間に、アルミスを中心に、里のエルフ達が魔法で応戦している姿が目に映る。


「全く不甲斐ないよ。この程度の相手に接戦を強いられることが」


「はは、は……はぁ……。さっきから俺に対して辛辣すぎないか? これでも元Sランク冒険家だったんだが……」


 言いながら、ドルチェスは肩を落とし、どんよりした様子で落ち込む。


「元Sランク? はっ、お前と僕が同列に見られるのは、なかなか屈辱だな」


「悪態が止まないな! というかお前もSランクなのか!?」


 驚くドルチェスに、ノーシスは軽く溜息を吐き。


「ごちゃごちゃ騒ぐな、いい加減飽きたんだよ。そろそろ終わらせるぞ」


 そして、拳を鳴らしながら真っすぐドルチェスへ向かってゆく。


「おっ、武器無しの殴り合いか? シンプルでいいじゃないか。なら正々堂々、拳で勝敗を決めようじゃ――」


 その瞬間、ノーシスは靴底に仕込んだ爆弾のピンを抜き、ドルチェスの腹部を蹴り飛ばした。


「ごはっっ!」


 途端、爆風に吹き飛ばされ背後の大木に激突するドルチェス。


「するわけないだろう。体格差を考えろよ」


「じゃあ……なんで拳を鳴らしたんだ……手ぇ関係ないだろ……」


 不意打ちを食らったドルチェスは怒りを露わにしながら立ち上がり。


「貴様ぁ……もう許さん、俺の研ぎ澄まされた筋肉で、貴様を亡き者に…………ん?」


 そう言いかけた時、ドルチェスの頭に突然の念話が入る。


「ん、は? 今すぐか? いやしかし、まだ戦闘中で……」


 込み入った会話を察したノーシスは攻撃の手を止め、相手の出方を眺めていた。


「ああ……うむ、分かった。すぐに撤退する」


 そして、ドルチェスの念話は途切れた。


「命拾いしたな、入れ墨男。オルドマンから撤退命令が出た。よって、勝負は引き分けにしておいてやる」


「勝手に現れて勝手に決めるなよ。オルドマンはさっき霊山のほうへ向かったはずだが、奴は仕事を終えたという事か?」


 と、ノーシスは話を聞き出そうと誘導する。


「いいや、失敗だ。右腕であるハジャが亡くなったうえ、オルドマンもポロという者に敗れたらしい……って、貴様、また俺から情報を聞き出そうと企んでるな!」


 自ら機密情報を口にするドルチェスに、ノーシスは小さく笑った。


「もう聞きたい情報は教えてもらったよ。有難う」


「ぐっ、クソ……次に会った時は必ず始末するからな!」


 そんな捨て台詞を残し、ドルチェスはゴーレムに撤退命令を出し去って行った。



 直後、ノーシスは緊張の糸が切れたように片膝をつく。


 ――正直、あのまま戦っていたら危なかった。


 すでにノーシスの魔力も体力も限界を超えており、これ以上長引けばドルチェスはともかく、引き連れたゴーレムまでは排除しきれなかったと安堵する。


「僕も、まだまだだ」


 そんな反省をしながら、ノーシスは大の字に寝そべり体を休めた。










 その後、アルミスは魔法の檻に収容したグリーフィルの兵士達を逃がした。


「良かったんですか? 彼らはエルフの里を襲った敵兵ですが」


 ノーシスが彼女に問うと。


「彼らは命令されて襲撃しただけです。憎むべきは、指示を出したオルドマンでしょう?」


 と、不安そうに兵士の背を眺めるフークリフトを横目に、アルミスは答えた。


「ここには大勢を収容する檻はありません。監視役のエルフも人手不足です。なので代わりに、彼らには二度と里に近づけない永久追放の魔法を施してもらいました。ね、お爺様」


「ああ、だが、彼らとは別の兵が来たらと思うと不安でな……」


 フークリフトの懸念は正しいと、ノーシスは思う。


 ――わざわざ命を狙ってきた敵を逃がすとはね……セシルグニムの王族は本当に甘い。


 心の中で呟き。

 しかし同時に、何故レオテルスが未だあの国で騎士団長を続けているのかを理解した。


 王族嫌いの彼が仕える理由を。


 ――君にとって、セシルグニムは地位の垣根を越えた信頼があるんだろうね。


 そう思い。


 ――たしかに僕も、柄にもなく放っておけない気持ちになったよ。


 アルミスを見ながら、ノーシスは静かに笑みを浮かべた。












 夜が明けた頃、『冥界の谷底』にいた皆が帰還した。


「あん? 何だよノーシス、後から来ると思ってたら、エルフの里で休憩してたのか?」


 こちら側の身に起きた事など知る由もないバルタが愚痴を漏らすと。


「ふっ、まあ、色々あったんですよ」


 特に言い返すでもなく、ノーシスは微笑を浮かべ流した。


 バルタ達に加え、メティア達も無事戻ってきた事でアルミスはホッと一息吐き。

 労いの言葉を贈ろうとした時だった。


「皆さんもよくご無事で……あら?」


 と、アルミスは一同を眺めながら、ふと疑問に思う。


「あの……サイカと、ポロちゃんは?」


 不安混じりで目の前のバルタに尋ねると。


「あ~それなんだがよ……」


 頭を掻きながら、言い辛そうに眼を泳がせる。


「『時の魔女』とかいう妙な女が現れてよ、二人に話があるっつって、まだ霊山に残っているんだ。ルピナスも一緒にな」


「えっ……?」


 そして、アルミスは谷底で起きた事を聞く。



 一方その頃、ポロとサイカはフォルトにいざなわれ、冥人くらびとの住処まで足を運んでいた。





ご覧頂き有難うございます。

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