237話 集約する四つの柱
ポロの圧倒的な力により窮地に立たされたオールドワンだが。
最後の抵抗で、彼は一冊の聖書を取り出すと。
突如としてその聖書が光り、オールドワンを包み込む。
「オールドワン、何をする気だい?」
フォルトの問いに、オールドワンは何も答えず。
と、そうこうしているうちに、オールドワンが受けた傷がみるみる回復し、彼は静かに立ち上がった。
そして。
「降参だ、素直に負けを認める。だから命だけは勘弁してくれ」
両手を上げながら、あっさりと命乞いをする。
そんな彼の素振りに、フォルトは疑心を抱いた。
「今さっき、『敗北したわけではない』と言った矢先だろう。あなたらしくない事言うじゃないか。……一体何を企んでいるんだい?」
「この戦いにおいてはだ。そこの少年は私の力を凌ぐ。勝ちの見えない戦いを続ける程無駄な時間はないのでね」
言いながら、オールドワンは『世界の支柱』へゆっくりと歩み寄り。
「ところでフォルト、私はすでに次の策を講じているが……お前はその未来が見えるか?」
未来を見通す彼女に、オールドワンは尋ねた。
フォルトは悪い予感がした。
別世界を繋げる装置、『エドゥルアンキ』を起動しなければイズリスが復活する事はない。
オールドワン単体でも国を滅ぼす程の力はあるが、今のポロはそれ以上の力を持っている為、脅威にはならない。
――なら……一体。
フォルトは自身の能力で、直近に起こる未来を覗いてみた。
すると。
「これは……そんな……」
突如、彼女は青ざめた様子でオールドワンを見やる。
「その反応、どうやら私の予想通りの未来が成されるようだな」
「何故……こんなの、どの世界線にもなかったはず」
「そうだろうな。出来れば私もこの方法は取りたくなかった。何せ、上の住人に私の居場所が知れるのだから」
と、オールドワンは空を見上げながら語る。
「私が持っているこの聖書には、『エドゥルアンキ』の使い方が全て記されている。私はその中の、別の使い方をしただけだ」
と言って、オールドワンは『世界の支柱』に触れ、そのまま光の中へ吸い込まれていった。
「転生者達よ。お前達の持つスキルはただの借り物だ。次に会う時はその力、返してもらうぞ」
その言葉を最後に、オールドワンは空間の彼方へ姿を晦まし。
同時に、数万年光り続けた『世界の支柱』の光が、音もなく、静かに力を失い消えていった。
オールドワンが去った後、フォルトは力が抜けたようにヘタリと腰を落とし、呆然と空を見上げる。
「このままじゃ、どのみち世界は滅んでしまう……」
ルピナスは彼女の元へ駆けつけ、理由を問い質す。
「フォルトさん、これは一体どういう事ですか? 『世界の支柱』が消えたっていうことは、『エドゥルアンキ』の機能が停止したんですか?」
「いいや、違うよ。四つの光の柱が、一つに集まったのさ」
ルピナスは首を傾げながらフォルトの次の言葉を待つ。
「場所はグリーフィル領、『海峡の裂け目』に集約している」
『世界の支柱』の一つ、『海峡の裂け目』。
陸と陸の間に挟まれた海域で、まるで海に巨大な亀裂が入ったように、底なしの大穴が開いた場所がある。
空間の歪みが生じており、稲妻型に割れた大穴へ海水が流れる事はなく、見えない壁でもあるかのように、海水はその箇所だけを弾いて流れる、未開拓の場所。
大穴から突き上る『世界の支柱』を調査する為に多くの者がその中に潜って行ったが、誰一人として生還した者はいない。
「あそこには遺跡があるんだ……、この世界と同時に生まれた、神の創造物が」
と、フォルトは言う。
「セシルグニムの空中大陸が『エドゥルアンキ』の動力源だとするなら、その遺跡は心臓部、言わば世界の核さ」
「世界の核?」
「その遺跡が今、地上に向かって真っすぐ浮上している。世界中のマナを絞り尽くす、終末の空中要塞としてね」
イマイチピンと来ないルピナスに、フォルトはさらに説明を続ける。
「たしかに地上の世界同士を繋げる計画は頓挫した。けど、四つの柱が一つになれば、上と下の次元に、小さな風穴を開ける事は出来る。つまりは天上界と奈落を直結させる、一本の道を開通させられるのさ」
「それって……」
「オールドワンも苦肉の策だろう。上にいる神様達に目を付けられる代わりに、自分が崇拝する女神様を奈落から引っ張り上げるっていう、無理やりな作戦だから。結果、その為に世界中のマナを消費され、搾りかすになったこの世界は灰になって消滅するだろうね」
ようやく事の重大さに気づいたルピナスだが、すでにオールドワンは実行していた。
『エドゥルアンキ』の、別の起動方法を。
今更止める事など出来ず。
世界の崩壊は、すぐそこまで迫っていた。
ご覧頂き有難うございます。
先日誤字報告をして下さった方、本当に有難うございます。
まだまだ不甲斐ない点も多くあると思いますが、出来ればこれからもご覧頂けると幸いです。