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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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237話 集約する四つの柱


 ポロの圧倒的な力により窮地に立たされたオールドワンだが。

 最後の抵抗で、彼は一冊の聖書を取り出すと。

 突如としてその聖書が光り、オールドワンを包み込む。


「オールドワン、何をする気だい?」


 フォルトの問いに、オールドワンは何も答えず。


 と、そうこうしているうちに、オールドワンが受けた傷がみるみる回復し、彼は静かに立ち上がった。


 そして。


「降参だ、素直に負けを認める。だから命だけは勘弁してくれ」


 両手を上げながら、あっさりと命乞いをする。

 そんな彼の素振りに、フォルトは疑心を抱いた。


「今さっき、『敗北したわけではない』と言った矢先だろう。あなたらしくない事言うじゃないか。……一体何を企んでいるんだい?」


「この戦いにおいてはだ。そこの少年は私の力を凌ぐ。勝ちの見えない戦いを続ける程無駄な時間はないのでね」


 言いながら、オールドワンは『世界の支柱』へゆっくりと歩み寄り。


「ところでフォルト、私はすでに次の策を講じているが……お前はその未来が見えるか?」


 未来を見通す彼女に、オールドワンは尋ねた。


 フォルトは悪い予感がした。

 別世界を繋げる装置、『エドゥルアンキ』を起動しなければイズリスが復活する事はない。

 オールドワン単体でも国を滅ぼす程の力はあるが、今のポロはそれ以上の力を持っている為、脅威にはならない。


 ――なら……一体。


 フォルトは自身の能力で、直近に起こる未来を覗いてみた。

 すると。


「これは……そんな……」


 突如、彼女は青ざめた様子でオールドワンを見やる。


「その反応、どうやら私の予想通りの未来が成されるようだな」


「何故……こんなの、どの世界線にもなかったはず」


「そうだろうな。出来れば私もこの方法は取りたくなかった。何せ、上の住人(・・・・)に私の居場所が知れるのだから」


 と、オールドワンは空を見上げながら語る。


「私が持っているこの聖書には、『エドゥルアンキ』の使い方が全て記されている。私はその中の、別の使い方をしただけだ」


 と言って、オールドワンは『世界の支柱』に触れ、そのまま光の中へ吸い込まれていった。


「転生者達よ。お前達の持つスキルはただの借り物だ。次に会う時はその力、返してもらうぞ」


 その言葉を最後に、オールドワンは空間の彼方へ姿を晦まし。


 同時に、数万年光り続けた『世界の支柱』の光が、音もなく、静かに力を失い消えていった。


 オールドワンが去った後、フォルトは力が抜けたようにヘタリと腰を落とし、呆然と空を見上げる。


「このままじゃ、どのみち世界は滅んでしまう……」


 ルピナスは彼女の元へ駆けつけ、理由を問い質す。


「フォルトさん、これは一体どういう事ですか? 『世界の支柱』が消えたっていうことは、『エドゥルアンキ』の機能が停止したんですか?」


「いいや、違うよ。四つの光の柱が、一つに集まったのさ」


 ルピナスは首を傾げながらフォルトの次の言葉を待つ。


「場所はグリーフィル領、『海峡の裂け目』に集約している」


『世界の支柱』の一つ、『海峡の裂け目』。


 陸と陸の間に挟まれた海域で、まるで海に巨大な亀裂が入ったように、底なしの大穴が開いた場所がある。


 空間の歪みが生じており、稲妻型に割れた大穴へ海水が流れる事はなく、見えない壁でもあるかのように、海水はその箇所だけを弾いて流れる、未開拓の場所。


 大穴から突き上る『世界の支柱』を調査する為に多くの者がその中に潜って行ったが、誰一人として生還した者はいない。


「あそこには遺跡があるんだ……、この世界と同時に生まれた、神の創造物が」


 と、フォルトは言う。


「セシルグニムの空中大陸が『エドゥルアンキ』の動力源だとするなら、その遺跡は心臓部、言わば世界の核さ」


「世界の核?」


「その遺跡が今、地上に向かって真っすぐ浮上している。世界中のマナを絞り尽くす、終末の空中要塞としてね」


 イマイチピンと来ないルピナスに、フォルトはさらに説明を続ける。


「たしかに地上の世界同士を繋げる計画は頓挫した。けど、四つの柱が一つになれば、上と下の次元に、小さな風穴を開ける事は出来る。つまりは天上界と奈落を直結させる、一本の道を開通させられるのさ」


「それって……」


「オールドワンも苦肉の策だろう。上にいる神様達に目を付けられる代わりに、自分が崇拝する女神様を奈落から引っ張り上げるっていう、無理やりな作戦だから。結果、その為に世界中のマナを消費され、搾りかすになったこの世界は灰になって消滅するだろうね」


 ようやく事の重大さに気づいたルピナスだが、すでにオールドワンは実行していた。


『エドゥルアンキ』の、別の起動方法を。


 今更止める事など出来ず。

 世界の崩壊は、すぐそこまで迫っていた。





ご覧頂き有難うございます。


先日誤字報告をして下さった方、本当に有難うございます。

まだまだ不甲斐ない点も多くあると思いますが、出来ればこれからもご覧頂けると幸いです。

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