236話 ポロVSオールドワン
死霊はびこる谷の底で。
ポロとオールドワンの均衡した力がぶつかり合う。
「【異端者の裁き】」
「【空間移動】」
オールドワンの裁きの雷が落とされる直前、ポロは空間を移動し回避する。
そしてポロはオールドワンの背後に転移し、魔法で生成した手甲の爪を構えると。
「何度も通用するかっ!」
動きを読んだオールドワンは、大剣を後ろに振り下ろし斬撃を防いだ。
片手でポロの攻撃を抑えながら、もう片方の手で反撃の魔法を放つ。
「【闇の激流】」
手の平から生み出される黒い水流が渦を巻き、螺旋状に回転しながらポロを押し流す。
「ぐっ……!」
ポロは手甲でガードしながら、渦巻く激流に岩壁まで押し流されると。
「【魔素吸収】」
黒妖犬の吸収能力を応用した魔法で、オールドワンから発生する闇魔法を体内に吸収していった。
「……私の魔法を、取り込んでいるのか?」
鉄をも砕く闇の水流を、川の水を飲み干すかの如く、みるみるポロの体へ吸収されている現象に、オールドワンは驚愕した。
「うぷっ……すごい量の魔力……」
そしてオールドワンの攻撃を吸い尽くしたポロは、その魔力を使って次々と魔法を生成する。
「【毒蛇の急襲】」
オールドワンの周囲に幾つもの【空間の扉】を生み出し、そこから無数の黒き蛇が口を開け、一斉にオールドワンへ噛みつき猛毒を注入する。
「ぐっ……これは……毒か……」
即死級の毒を食らい、体中から流血するオールドワン。
即座に解毒魔法で治癒していると。
「【黒銀の糸】」
ポロは上空に飛び上がり、そしてオールドワン目がけて、鋼鉄を凌ぐ蜘蛛糸を鞭のようにしならせ叩き付ける。
「っっ!?」
針のように細い蜘蛛糸にも拘らず、大剣を振るうも傷一つ付かず。
そんな頑丈な蜘蛛糸を両手から無数に生み出し、網状に結合し、オールドワンの全身を拘束する。
「今度は……女王蜘蛛の糸……」
剣でも斬れぬ蜘蛛糸に雁字搦めにされたオールドワンは、身動きのとれない状態でポロに視線を向けると。
「ぐ……まさか」
ポロの周囲に見えた、黒狼の顔を模した三体の幻影。
それぞれが高濃度の、魔力の塊である。
そして、ポロは三体の黒狼と共にオールドワンに突進した。
「【三頭犬の牙】!」
ハジャとの戦いで急成長を遂げたポロの一撃は、今までと比較にならない威力をほこり。
大砲を撃ち込まれたような強力な波動がオールドワンを襲った。
「がああああああ!」
辺りが消し飛ぶ程の威力に、魔人族であるオールドワンの体も無事では済まず。
全身の骨が砕け、毒が体内を侵食し、肉体が腐蝕してゆく。
「……私が……ここまで……一方的に……」
受け入れられない現実を直視しながら、オールドワンはその場に倒れた。
かつては自分の足元にも及ばなかった、か弱き獣人もどきだったはず。
だが、今目の前にいる少年は、もはや自分よりも力を付けてしまった。
――ああ……よもやこのような事態になろうとは……。
目の前で自身を見下ろすポロに、オールドワンは奥歯を噛み締め項垂れる。
――やはり、あの日に始末するべきだった……。
ポロとリミナが、アルマパトリアに向かう途中で立ち寄った孤島。
それが、ポロとオールドワンが初めて顔を合わせた日だった。
――様子見などせずにあの時消していれば、アルベルトとハジャを失う事はなかった、いや、そもそもフォルトに『時の探究者』のスキルを与えた事が誤算だったか……。
と、彼は止まぬ後悔に打ちひしがれた。
すると、戦闘不能になったオールドワンの前にフォルトが歩み寄る。
「これであなたの計画は終わりだよ。あなた一人で『エドゥルアンキ』を起動させ、奈落の門を開ける事は出来ないだろう?」
そう告げるフォルトに、オールドワンは何も答えず。
「これ以上世界に干渉しないのであれば、命までは取らないよ。ポロちゃんも望んでいないみたいだしね」
コクリとポロは頷く。
「だからここでアタシ達に誓いな。女神から受けた信託を忘れて、金輪際人に危害を加えないと」
フォルトが言うと、オールドワンは鼻で笑い。
「無理だと知っての発言か? 私はグリーフィルの大司教で、軍師だ。神に背く事は許されず、各国の戦争を取りやめる事も、とうに不可能だ」
聞けぬ条件を突き付けるフォルトに、先の未来を語る。
「私とハジャがいなくなれば、グリーフィルは三日ともたずに滅びるだろう。そして、世界最強の軍事国家が無くなれば、また新たな国が支配欲に駆られ、トップに立とうと他国を襲撃する。結局人の世は、太古の昔から何も変わらず争いを求めるのだ。それが如何に滑稽な事か、お前は分からないか?」
そう言うと、オールドワンは目の前に小さな【空間の扉】を生み出し。
その中に手を入れ、一冊の聖書を取り出した。
「フォルト、お前は今まさに理想の未来を実現したと思っているだろうが、それは新たな暗黒世界の始まりだ。加えて、私もまだ敗北したわけではない」
その言葉と共に、彼の手にある聖書が強く光り出した。
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