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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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236話 ポロVSオールドワン


 死霊はびこる谷の底で。

 ポロとオールドワンの均衡した力がぶつかり合う。


「【異端者の裁き(ヘレティックジャッジ)】」


「【空間移動テレポート】」


 オールドワンの裁きの雷が落とされる直前、ポロは空間を移動し回避する。

 そしてポロはオールドワンの背後に転移し、魔法で生成した手甲の爪を構えると。


「何度も通用するかっ!」


 動きを読んだオールドワンは、大剣を後ろに振り下ろし斬撃を防いだ。


 片手でポロの攻撃を抑えながら、もう片方の手で反撃の魔法を放つ。


「【闇の激流(ダークトーレント)】」


 手の平から生み出される黒い水流が渦を巻き、螺旋状に回転しながらポロを押し流す。


「ぐっ……!」


 ポロは手甲でガードしながら、渦巻く激流に岩壁まで押し流されると。


「【魔素吸収アブソーブ・マナ】」


 黒妖犬ヘルハウンドの吸収能力を応用した魔法で、オールドワンから発生する闇魔法を体内に吸収していった。


「……私の魔法を、取り込んでいるのか?」


 鉄をも砕く闇の水流を、川の水を飲み干すかの如く、みるみるポロの体へ吸収されている現象に、オールドワンは驚愕した。


「うぷっ……すごい量の魔力……」


 そしてオールドワンの攻撃を吸い尽くしたポロは、その魔力を使って次々と魔法を生成する。


「【毒蛇の急襲(ヒュドラレイド)】」


 オールドワンの周囲に幾つもの【空間のポータル】を生み出し、そこから無数の黒き蛇が口を開け、一斉にオールドワンへ噛みつき猛毒を注入する。


「ぐっ……これは……毒か……」


 即死級の毒を食らい、体中から流血するオールドワン。

 即座に解毒魔法で治癒していると。


「【黒銀の糸(ミスリルスレッド)】」


 ポロは上空に飛び上がり、そしてオールドワン目がけて、鋼鉄を凌ぐ蜘蛛糸を鞭のようにしならせ叩き付ける。


「っっ!?」


 針のように細い蜘蛛糸にも拘らず、大剣を振るうも傷一つ付かず。


 そんな頑丈な蜘蛛糸を両手から無数に生み出し、網状に結合し、オールドワンの全身を拘束する。


「今度は……女王蜘蛛アラクネの糸……」


 剣でも斬れぬ蜘蛛糸に雁字搦めにされたオールドワンは、身動きのとれない状態でポロに視線を向けると。


「ぐ……まさか」


 ポロの周囲に見えた、黒狼の顔を模した三体の幻影。

 それぞれが高濃度の、魔力の塊である。


 そして、ポロは三体の黒狼と共にオールドワンに突進した。


「【三頭犬の牙(ケルベロスファング)】!」


 ハジャとの戦いで急成長を遂げたポロの一撃は、今までと比較にならない威力をほこり。


 大砲を撃ち込まれたような強力な波動がオールドワンを襲った。


「がああああああ!」


 辺りが消し飛ぶ程の威力に、魔人族であるオールドワンの体も無事では済まず。


 全身の骨が砕け、毒が体内を侵食し、肉体が腐蝕してゆく。


「……私が……ここまで……一方的に……」


 受け入れられない現実を直視しながら、オールドワンはその場に倒れた。




 かつては自分の足元にも及ばなかった、か弱き獣人もどきだったはず。


 だが、今目の前にいる少年は、もはや自分よりも力を付けてしまった。


 ――ああ……よもやこのような事態になろうとは……。


 目の前で自身を見下ろすポロに、オールドワンは奥歯を噛み締め項垂れる。


 ――やはり、あの日に始末するべきだった……。


 ポロとリミナが、アルマパトリアに向かう途中で立ち寄った孤島。

 それが、ポロとオールドワンが初めて顔を合わせた日だった。


 ――様子見などせずにあの時消していれば、アルベルトとハジャを失う事はなかった、いや、そもそもフォルトに『時の探究者(タイムシーカー)』のスキルを与えた事が誤算だったか……。


 と、彼は止まぬ後悔に打ちひしがれた。


 すると、戦闘不能になったオールドワンの前にフォルトが歩み寄る。


「これであなたの計画は終わりだよ。あなた一人で『エドゥルアンキ』を起動させ、奈落の門を開ける事は出来ないだろう?」


 そう告げるフォルトに、オールドワンは何も答えず。


「これ以上世界に干渉しないのであれば、命までは取らないよ。ポロちゃんも望んでいないみたいだしね」


 コクリとポロは頷く。


「だからここでアタシ達に誓いな。女神から受けた信託を忘れて、金輪際人に危害を加えないと」


 フォルトが言うと、オールドワンは鼻で笑い。


「無理だと知っての発言か? 私はグリーフィルの大司教で、軍師だ。神に背く事は許されず、各国の戦争を取りやめる事も、とうに不可能だ」


 聞けぬ条件を突き付けるフォルトに、先の未来を語る。


「私とハジャがいなくなれば、グリーフィルは三日ともたずに滅びるだろう。そして、世界最強の軍事国家が無くなれば、また新たな国が支配欲に駆られ、トップに立とうと他国を襲撃する。結局人の世は、太古の昔から何も変わらず争いを求めるのだ。それが如何に滑稽な事か、お前は分からないか?」


 そう言うと、オールドワンは目の前に小さな【空間の扉(ポータル)】を生み出し。


 その中に手を入れ、一冊の聖書を取り出した。


「フォルト、お前は今まさに理想の未来を実現したと思っているだろうが、それは新たな暗黒世界ディストピアの始まりだ。加えて、私もまだ敗北したわけではない」


 その言葉と共に、彼の手にある聖書が強く光り出した。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日は休載します。

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