235話 驚異的成長を遂げたポロ
目の前に映るは、取るに足らない獣人もどき。
人でもなければ魔物でもない、どちらつかずの半端な存在。
突いて叩けば死んでしまう、脆弱な生き物。
ハジャが召喚した失敗作。
脅威にはならない。障害にはならない。天敵になり得ない。
……はずだった。
「何故だ、何故お前が生きている? 何故お前からハジャの気配を感じる?」
オールドワンは焦る、動揺する。
自分と同等の力を持つハジャに、子犬の如き少年が勝てるはずが無いと、そう思っていたからだ。
「まさか……ハジャが望んだのか?」
そんな疑惑が脳裏をよぎった。
自分の子のような愛情をポロに抱き、自分の意志で手心を加えたのだろうかと。
――奴は元々非情になれないところがあった。神の意に反する愚かな人族に対しても、人の感情を優先していた。
オールドワンは思い返しながら、沸々と怒りがこみ上げる。
「ハジャっっ! 何故イズリス様の意向に背いた! 衰退した世界で長き時を過ごし、共にイズリス様の理想を叶えると決意したはずだろうっっ!」
オールドワンは目の前にいるポロ、そしてその中に潜んでいるであろうハジャに向かって叫んだ。
すると、ポロはハジャの意を酌みオールドワンに返す。
「ハジャが望んでいたのは支配じゃない。全ての人が平等に暮らせる自由だよ」
ハジャの魂を取り込んだ際に、ポロの中に流れてきた意志。
幾千の時で自問自答した、ハジャの答えだった。
「愚かな事をぬかすな。万物は神に管理されてこそ価値を見出せるのだ。それは人も同じはず」
「それが神様の考えなら、そんな支配者は要らないよ」
「っっ! 貴様っ!」
「その人は今、悪い事をしたから奈落って場所に幽閉されているんでしょ? なら今は神様じゃないよね」
「イズリス様を愚弄するなっ!」
突如、オールドワンは大剣を振り回し、衝撃波による斬風をポロに放つ。
するとポロは突然、空気のように姿を晦まし消失した。
「何だと?」
気配もなく、空間魔法も使用せず、ポロは一瞬で存在を消したのだ。
と、次の瞬間。
オールドワンの背後から、黒い爪の斬撃が浴びせられる。
「ぐあっ……!」
振り向けどポロの姿はなく。
すると、また左右から斬撃が飛んできた。
「ぐふっ……一体何の魔法だ?」
まるで気配を感じ取れないポロの攻撃に疑問を浮かべていると。
ふと、頭上からポロの姿が現れ。
「【直下強襲】」
ポロの振り下ろされた腕に叩き付けられ、オールドワンの体は地面に倒れた。
「なっ……これは……」
数万年ぶりに味わう、劣勢。
この世界に自身を脅かす存在はいないと高を括っていた傲り。
その傲りがしっぺ返しとなり、今精算される。
「言い忘れてたけど、今の僕は空間を突き抜ける能力を持っているんだ。【次元渡り】っていう補助魔法を付与しているから」
「聞いたことがないぞ……なんだそのスキルは?」
「天王バハムートの能力だよ。彼の思念が僕の中に入っているから」
その名を聞き、オールドワンは察した。
「創造主の……使い魔だと?」
ハジャはポロの情報をほとんど話さなかった。
バハムートの能力を持っていると知れば、自分がポロを野放しにするはずがないと予想していたのだと思い。
「ハジャ……何故この化け物を世に放った……。イズリス様の天敵だぞ!」
そう言うと、オールドワンは先程の光線の雨を地に降らせようと魔法を唱える。
「【裁きの雨】!」
再び回避不可能の広範囲攻撃が周囲を襲おうとした時。
突如現れた【空間の扉】からフォルトが顔を出し。
「【流動停止】」
光線が地に降り注ぐ直前、その光を停止させた。
静まる周囲に、オールドワンは眉間にシワが寄せ、フォルトを睨み付ける。
「そうか……なるほど、貴様がハジャを焚き付けたのか。ルピナスがここに来た時点で、貴様の動向も気にしておくべきだった」
と、後悔するオールドワンをよそに、フォルトとルピナスは互いに目を合わせ。
「よく頑張ったね~、ルピナスちゃん。君のおかげで、未来はこちら側に傾き始めたよ」
「フォルトさん……」
頼りになる先輩転生者が現れた事に、ルピナスは安堵し、腰を落とす。
絶体絶命の状況から一変して、一筋の希望が見えた未来。
自分の行動は無駄ではなかったのだと、ルピナスは涙腺から涙を流した。
「さあポロちゃん、アタシが攻撃を食い止めている間に、オールドワンを懲らしめておくれ」
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