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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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235話 驚異的成長を遂げたポロ


 目の前に映るは、取るに足らない獣人もどき。


 人でもなければ魔物でもない、どちらつかずの半端な存在。


 突いて叩けば死んでしまう、脆弱な生き物。


 ハジャが召喚した失敗作。


 脅威にはならない。障害にはならない。天敵になり得ない。


 ……はずだった。



「何故だ、何故お前が生きている? 何故お前からハジャの気配を感じる?」


 オールドワンは焦る、動揺する。


 自分と同等の力を持つハジャに、子犬の如き少年が勝てるはずが無いと、そう思っていたからだ。


「まさか……ハジャが望んだのか?」


 そんな疑惑が脳裏をよぎった。

 自分の子のような愛情をポロに抱き、自分の意志で手心を加えたのだろうかと。


 ――奴は元々非情になれないところがあった。神の意に反する愚かな人族に対しても、人の感情を優先していた。


 オールドワンは思い返しながら、沸々と怒りがこみ上げる。


「ハジャっっ! 何故イズリス様の意向に背いた! 衰退した世界で長き時を過ごし、共にイズリス様の理想を叶えると決意したはずだろうっっ!」


 オールドワンは目の前にいるポロ、そしてその中に潜んでいるであろうハジャに向かって叫んだ。


 すると、ポロはハジャの意を酌みオールドワンに返す。


「ハジャが望んでいたのは支配じゃない。全ての人が平等に暮らせる自由だよ」


 ハジャの魂を取り込んだ際に、ポロの中に流れてきた意志。

 幾千の時で自問自答した、ハジャの答えだった。


「愚かな事をぬかすな。万物は神に管理されてこそ価値を見出せるのだ。それは人も同じはず」


「それが神様の考えなら、そんな支配者は要らないよ」


「っっ! 貴様っ!」


「その人は今、悪い事をしたから奈落って場所に幽閉されているんでしょ? なら今は神様じゃないよね」


「イズリス様を愚弄するなっ!」


 突如、オールドワンは大剣を振り回し、衝撃波による斬風をポロに放つ。


 するとポロは突然、空気のように姿を晦まし消失した。


「何だと?」


 気配もなく、空間魔法も使用せず、ポロは一瞬で存在を消したのだ。


 と、次の瞬間。


 オールドワンの背後から、黒い爪の斬撃が浴びせられる。


「ぐあっ……!」


 振り向けどポロの姿はなく。

 すると、また左右から斬撃が飛んできた。


「ぐふっ……一体何の魔法だ?」


 まるで気配を感じ取れないポロの攻撃に疑問を浮かべていると。


 ふと、頭上からポロの姿が現れ。


「【直下強襲ヴァーティカルレイド】」


 ポロの振り下ろされた腕に叩き付けられ、オールドワンの体は地面に倒れた。


「なっ……これは……」


 数万年ぶりに味わう、劣勢。

 この世界に自身を脅かす存在はいないと高を括っていた傲り。

 その傲りがしっぺ返しとなり、今精算される。


「言い忘れてたけど、今の僕は空間を突き抜ける能力を持っているんだ。【次元渡り(ディメンションムーヴ)】っていう補助魔法を付与しているから」


「聞いたことがないぞ……なんだそのスキルは?」


「天王バハムートの能力だよ。彼の思念が僕の中に入っているから」


 その名を聞き、オールドワンは察した。


「創造主の……使い魔だと?」


 ハジャはポロの情報をほとんど話さなかった。


 バハムートの能力を持っていると知れば、自分がポロを野放しにするはずがないと予想していたのだと思い。


「ハジャ……何故この化け物を世に放った……。イズリス様の天敵だぞ!」


 そう言うと、オールドワンは先程の光線の雨を地に降らせようと魔法を唱える。


「【裁きの雨(ジャッジメントレイン)】!」


 再び回避不可能の広範囲攻撃が周囲を襲おうとした時。


 突如現れた【空間の扉(ポータル)】からフォルトが顔を出し。



「【流動停止フローパウス】」



 光線が地に降り注ぐ直前、その光を停止させた。


 静まる周囲に、オールドワンは眉間にシワが寄せ、フォルトを睨み付ける。


「そうか……なるほど、貴様がハジャを焚き付けたのか。ルピナスがここに来た時点で、貴様の動向も気にしておくべきだった」


 と、後悔するオールドワンをよそに、フォルトとルピナスは互いに目を合わせ。


「よく頑張ったね~、ルピナスちゃん。君のおかげで、未来はこちら側に傾き始めたよ」


「フォルトさん……」


 頼りになる先輩転生者が現れた事に、ルピナスは安堵し、腰を落とす。


 絶体絶命の状況から一変して、一筋の希望が見えた未来。

 自分の行動は無駄ではなかったのだと、ルピナスは涙腺から涙を流した。


「さあポロちゃん、アタシが攻撃を食い止めている間に、オールドワンを懲らしめておくれ」





ご覧頂き有難うございます。

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