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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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233話 師を弔い


 消えかけのハジャはポロに願う。

 自分の魂を食らえと。


「ハジャ……それは……」


「疑っているのか? 私を体内に取り込む事で、私が自我を乗っ取ろうとしていると」


 躊躇うポロに、ハジャは告げる。


「安心しろ。今の私にその気はない。魔人達と同じように、お前の中へ溶け込むだけだ」


 だが、ポロは首を振った。


「分かってるよ、もし僕の体を奪おうとするなら、わざわざ僕を鍛えるような、回りくどい事なんてしなかった。ハジャの強さなら力ずくで蹂躙出来たんだ」


 そうしなかったのは……初めから自分という存在を、ポロの手で終わらせてほしかったから。


 戦いの最中で、ポロはその事に気づいた。


「僕が言いたいのは、どうしてそこまでして身投げしようとしているのかだよ」


 他に手段はないのかと、ポロは思う。

 ハジャが自らの意志で、味方になってくれないのかと。


「今のままじゃダメなの?」


「私がこの場でお前を生かすという事は、それ自体がオールドワンへの裏切りであり、イズリス様への冒涜に他ならない。数万年の間忠誠を誓ってきたあの方へ、恩を仇で返す行為だ。どのみち私はオールドワンに消されるさ」


 ハジャは神を裏切ったという自己嫌悪と共に、生を放棄する覚悟だった。

 自分の目的を曲げてまで、ハジャは人々の自由を選択した。


「だからせめて、自分の死は意味のあるものにしたいのだ。聞き入れてくれないか?」


 ハジャの頼みに、未だ答えを渋るポロ。

 と、その時、二人の間に突如【空間の扉(ポータル)】が生まれ。



「アタシからもお願いするよ。ポロちゃん」



 中から現れたのは『時空の暴流』に住む転生者、フォルトだった。


「お姉さん、だれ?」


 キョトンとしながらポロが問うと。


 ハジャは体が消滅した直後、別の分身体を生み出しポロに返答する。


「彼女はフォルト、この世界に招かれた二人目の転生者だ」


 そう告げると、フォルトはクスリと笑い。


「世界に招かれただなんて、嘘を言うもんじゃないよ。ハジャ様」


 ハジャの紹介に異を唱えた。


「あなたがアタシ達を召喚したんじゃないか。『異人召喚ストレンジオーダー』なる固有能力ユニークスキルを使って」


 フォルトは指先で円を作り、自身の目に当てながら訴える。

 全てお見通しだと言わんばかりに。


「『時の探究者(タイムシーカー)』の能力で全てを見たか。まあ、今更隠すつもりもないが」


 フォルトの固有能力ユニークスキル、『時の探究者(タイムシーカー)』とはその名の通り『時』に干渉する能力であり、鍛え方次第で時を遡行、跳躍、あるいは停止させる時間を延ばせる。


 ショウヤに次ぐ、歴代最強の能力である。


「そうだ、私が転生者を召喚し、オールドワンが転生者に固有能力ユニークスキルを与え、今まで君達を育ててきた」


「転生者を、奈落にいるあなた達の仲間の依り代にする為にでしょう?」


「ああ、転生者に与えた固有能力ユニークスキルは、元は我々の同胞が持っていた能力だ。貸し与えた能力を体に馴染ませたのち、君達の肉体に同胞の魂を転移させようとした。君達はそのせいで死ぬはずの運命から外れ、この世界に引き寄せられてしまった、我々の犠牲者だ」


「素直でよろしい」


 そんな会話を続ける二人に、ポロは尋ねる。


「お姉さん達の状況は何となく分かったけど、それで、お姉さんはここへ何しに来たの?」


「世界を救いに来たのさ」


 フォルトは笑みを浮かべると、突然指先を前方に向けた。


 すると、その先に映像のような景色が映し出され、その場所は先程ポロがいた『冥界の谷底』最深部なのだと気づく。


「あれはっ!」


 そこにはオールドワンが立っており、皆が総出で彼と戦っている様子が映っていた。


「今向こうでは、オールドワンが単独でこの地に来ているんだ。ハジャ様がポロちゃんの肉体を手に入れるのを待っているようだね」


 そして再びフォルトはハジャに視線を向け。


「で、その未来が見えたアタシは、前もってハジャ様に命乞いをしに来たってわけさ。アタシ達に味方してくれないかってね」


 そう言うと、ハジャは鼻を鳴らし頷く。


「元々迷っていた案件だ。イズリス様の理想を叶えるか、人々の可能性を尊重するかをな。それをポロ、お前の判断に託したのだ」


 ポロと会う前から、フォルトと事前に決められていた事。

 自問自答するハジャに、フォルトは後押しを与えたのだった。


「アタシが見た幾つもの未来では、大体の確率でポロちゃんはハジャ様に肉体を奪われていたんだよ。アタシはその運命を変えたかった」


「どうして僕を助けようと思ったの?」


「個人的な理由さ。ハジャ様に本来の力が戻ったら、アタシらはまず勝てないからね。それに、向こうでルピナスちゃんが小さな未来を変えたんだ」


 ルピナスの隣に映るエルメルを見ながらフォルトは続け。


「なら先輩として、アタシもそれ以上の仕事をしなきゃね」


 そして、フォルトはポロを促す。


「この空間は時の流れを遅くしてある。今戻ればみんなを救えるはずさ。けどその前に……」


 と、フォルトはハジャに目で示し合わせる。


「ああ。ポロ、先程の話の続きだ。お前が皆を守りたいと願い、そして私に少しでも情けをかける気があるならば……私の魂を喰らってくれ」


 ハジャの気は変わらず、ポロに浄化魔法を願う。


 自分が召喚した一匹の犬の魔物に。

 出来損ないの失敗作に。


 無意味に命を散らすだけだった黒妖犬ヘルハウンドが、死に際の人間の子供と混ざり合い、同化し、新たな命へ生まれ変わった奇跡。


 今ではそんなポロを誇りに思い、彼に喰われるならば本望だと、ハジャはその命を差し出すのだ。


「ハジャ……」


 ポロは悩み、考え、頭を搔き回し。


 そして決心の末、ハジャに浄化魔法を唱えた。





ご覧頂き有難うございます。

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