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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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232話 師を越えて【2】


 岩壁にめり込むポロは、瀕死の体に鞭打ちながら起き上がろうと指先を動かす。

 だが、思いに反して体は全く言う事を聞かない。


 全身の骨は砕け、内臓もいくつかやられている。

 呼吸すらままならない体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。


 そんな死に際のポロを見つめながら、ハジャは問う。


「ポロ、お前は一人で戦っているのか?」


 今のままでは自分に勝てない。戦い方を変えろと、ハジャは示唆していた。


「違うだろ。お前は一人ではないはずだ」


 ポロの中に眠る魔人の力、そして天王の力を借りろと、そう訴えていた。


 その言葉に突き動かされ、ポロは念じた。

 彼ら彼女らに助力を求める為。


 ――エキドナ……、僕の体を回復させて。


 ポロの内なる言葉に呼応して、エキドナは蛇の再生能力を限界まで引き出し身体を超回復させる。


 ――アラクネ、折れた骨を糸で結合して。


 さらにアラクネも、ポロの体内に蜘蛛糸を生成し、バラバラになった骨を接着させる。


 ――スキュラ、僕に君の爪を貸して。


 彼女達のおかげでまともに動けるようになったポロは、スキュラの力を借りて両腕に黒狼の爪を模した手甲を生成する。


 ――それからバハムート。別次元からの魔力の流動を、僕の中に繋げて。


 すると、ポロの体内に溢れ出る程の魔力が注がれた。


 ようやく準備が整ったポロを、ハジャは静かに眺め。


「そうだ、それでいい。お前はここで死ぬべきではない」


 そして再び魔力を高め、戦闘態勢に入る。


「ハジャ、どうして殺そうとしている相手を助けようとするの?」


 目的の分からぬハジャに問うと。


「せめてこの場で、私と並ぶくらいには力を付けていけ。お前の吸収能力は世界を揺るがす。オールドワンにとって、唯一の脅威となり得る」


 まるで激励するかのように、ポロの成長を望む言葉を返した。


「ハジャは、僕にオールドワンを止めてほしいの?」


「どうだろうな。私はオールドワンと共に世界を変えようと動いていた。その気持ちは今も変わらない」


 しかし本人も自身の行動に煮え切らない態度を取り。


「だが、私は地上に住む人類にも希望を持っている。支配欲に飲まれず、人種や地位に踊らされず、共存関係を築こうとする者を尊重したい。それが唯一、オールドワンと意見を違えるところだ」


 自分の歩んできた道に後悔はないと思う反面、成し遂げるべき目的は正しいのか、葛藤が止まないのだった。


「ポロ、お前は人類の希望だ。神の意向か人の意志か……世界がどちらを選択するかは分からぬが、お前に守りたいものがあるならば、最後まで抗ってみろ」


 ポロは無言でハジャに刃を向け。


「僕は、僕の手の届く所までしか守れない。だけど、そんな小さな居場所も守れないなら、半端な僕が生きる意味はないよ」


 そして、再びハジャと死闘を繰り広げる。


「ハジャが僕の前に立ちはだかるなら、僕は何度だってハジャと戦って、越えていくよ」


「ああ……それでいい」


 幻夢の空間で、大地を揺らしながら二人の戦いは続いた。














 ポロの体感時間では、およそ半日以上は経過している。


 作られた空間だからか、どれだけ時間が過ぎても景色は変わらず灰色の風景のまま。


 その間ポロは幾度となく死地を彷徨い、幾度となく復活した。


 戦いの最中で体の動かし方、魔力の制御、技の精度が目まぐるしく向上してゆくポロ。


 その様子に、ハジャはそろそろ頃合いだと静かに頷く。


「魔人とバハムートの助力も相まって、凄まじい速度で成長したな。もはや手加減などする必要もない」


 息を切らしながらも、しかしポロは最初と比べ、自身に余裕がある事を実感していた。


 バハムートによる別次元からのマナの流れを体内にリンクさせ、実質無限の魔力を内包する身体。


 その無限の魔力を惜しみなく消費し、破壊された細胞を瞬時に回復させ。


 死に際に立たされる度強靭な体へと進化してゆく。


「自分でも不思議な気分だよ。ハジャ、僕はこの場合、お礼を言ったほうがいいのかな?」


「必要ない。私が一方的にお前の行く手を阻み、世界に関わる重大な責任を押し付けたのだから」


「そっか……」


 言いながら、ポロは決着をつけるべく魔力を高める。


「【幻影の猟犬(ファントムハウンド)】」


 ポロがそう唱えると、ハジャの周囲に幾つもの【空間の扉(ポータル)】が生み出され、そこから黒い犬の頭が顔を出す。


「バハムートの次元を操る力も、ここまで応用出来るようになったか」


 と、関心していると、魔法で作られた黒犬達は一斉にハジャ目がけて襲い掛かった。


 ハジャは防御壁を生み出しガードするも、四方八方から噛みついてくる黒犬をさばき切る事は出来ず、瞬く間に黒い影に全身を呑まれる。


 その間ポロは空中に飛び上がり、アラクネの糸で生成した【暗黒障壁ダークプレート】を宙に幾つも展開。


 ゴムのように弾力性のある障壁を何度もバウンドしながら乗り継ぎ、自身の速度を高め。


 音速まで増したスピードをもって、ハジャに突進した。


「【百中犬の牙(ライラプスファング)】」


 今ポロが持てる全力の一撃。

 その牙が届く瞬間、ハジャは微笑を浮かべ言った。


「……よくやった」


 その言葉と同時に、ハジャは半身をえぐられ、その場に倒れる。









 戦いが終わり、ハジャの分身体がマナ粒子となって消滅する間際。


「ポロ、一つ頼みを聞いてくれないか?」


 ふと、ハジャはポロに頼み事を口にした。


「なに?」


 ポロは何気なく問うと。



「私の魂を、喰ってくれないか?」



 最期の願いとばかりに、ハジャはポロに弔いを求めた。





ご覧頂き有難うございます。

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