231話 師を越えて【1】
身体能力と魔力を底上げしたポロは、目の前のハジャに音速のスピードで突進した。
猫爪手甲を構え、ハジャの胸元へ刺突を放つと。
「【暗黒障壁】」
寸前で唱えたハジャの防御壁により攻撃を防がれる。
「ぅぅううあああああ!」
だが、ポロはそのまま気を爪に纏わせ、防御壁に亀裂を生み。
力技で壁を粉砕した。
「ほう……」
ハジャはステッキで勢いの止まぬ攻撃を受け止め。
それを皮切りに、ポロは爪と足技を絡ませながら休むことなくハジャへ猛攻を続ける。
「よく防御壁を破ったな。だが、そのまま力任せに押し切るつもりか? お前の体力がもたなくなるぞ」
ポロの攻撃をさばきながら問うと。
「【毒蛇の拘束】」
突如ポロは地面から複数の黒い蛇を生み出し、ハジャの足元に巻き付ける。
「これは……」
「エキドナの力だよ。…………【烈波爪術】!」
と、ハジャの動きを封じたポロは、彼の胴目がけて爪の斬撃を放った。
「むっ……!」
直撃したハジャは宙へ吹き飛び、周囲の建物に激突。
瓦礫の中から起き上がると、自身の体に強い痺れを感じ。
「……ふん、蛇の毒か」
巻き付かれた際に、毒蛇が足に噛みついていたのだと気づく。
すると、動きを鈍らせたハジャに、ポロは追撃で黒い蜘蛛糸を放った。
「【女王蜘蛛の捕縛】」
蜘蛛糸で全身を雁字搦めにし、再び無防備となったハジャへ両手の爪で斬りかかる。
「【双爪斬撃】!」
全力の一撃でまたもやハジャは吹き飛ぶが、ポロは蜘蛛糸の先端を引っ張り、飛んで行くハジャを再び引き寄せると。
「【獣爪連撃】!」
確実に仕留める為、追撃で爪の連撃をハジャに食らわせた。
止まらぬ猛攻、一撃一撃が全力の一振り。
相手に反撃の隙を与えず、ひたすらに攻め続けるポロ。
と、その時。
猛攻を受けていたハジャは途端、蜘蛛糸を切り破り、ポロの両手をがしりと掴む。
「しまっ……!」
気づいた時はもう遅く。
「【黒蝕み】」
ポロの主要武器である猫爪手甲は、いとも容易く風化し消滅した。
「寸前で手甲を捨て、皮膚への侵食を免れたか。良い判断だったぞ」
消し炭と化した手甲を放り投げ、ハジャは微笑を浮かべる。
「ハジャ……その体、本当に痛覚あるの?」
「勿論だ。痛みがあるからこそ防ぐという行為に意味があり、反射神経にキレが増す。お前の技はなかなか効いたぞ」
「そのわりには、ピンピンしてるじゃないか……」
「体内の気を練り、衝撃を受け流しているだけだ。それに、痛みにも耐性がある」
魔導士とは思えぬ体の頑丈さに、ポロは焦りを覚える。
最初から全力の攻撃を幾度となく与えたにも関わらず、まるで弱った様子を見せないからだ。
「気を落とすことではない。私とお前とでは、鍛錬してきた年季が違う。私からしたらお前の技の精度など、思いつきの付け焼刃に過ぎないのだから」
「……万が一にも、僕がハジャに勝つことはあり得ないって言いたいの?」
ポロが問うと。
「逆だ。勝てると思っているから言っている」
「えっ?」
「ここで、今この場で限界を超えろ。使えるものは何でも使え。足掻け、研ぎ澄ませ、食らいつけ。でなければ、お前はオールドワンを止める事は出来ない」
敵である相手に、矛盾の言葉。
ハジャは何を伝えようとしているのか、ポロには分からなかった。
「ハジャは……僕の体を器にしようとしているんじゃ?」
「そうだ。奪われたくなければ、死ぬ気で立ち向かえ。これは元弟子であるお前への、最後の稽古だ」
そう言った瞬間、ハジャは地に足をめり込ませ、一気にポロの元まで接近すると。
「っっ?!」
手の平に魔法を練りながら、腹部に掌底を撃ち込み。
「【破裂空弾】」
空間爆発と共にポロを空中へかち上げた。
「かはっ……!」
直撃を食らったポロは宙を舞い、飛びそうな意識をギリギリで保つと。
さらにハジャは跳躍しポロに接近すると、両の手から禍々しく黒い波動を生み出す。
そして、空中でポロの体へ直接流し込んだ。
「【混沌注入】」
「ぐっ……ぁああああああ!」
体内に、毒にも似た闇魔法の気功を注がれ、細胞が死滅する感覚と共に、全身に激痛が走る。
外部破壊からの内部破壊で、ポロの体は再起不能なまでにボロボロとなった。
白目を向きながら地に落ちると、ハジャは目覚めの追撃を食らわせる。
「起きろ。【破滅の波動】」
「がっ…………!」
気絶しかけた意識を衝撃波で無理やり叩き起こし、ポロは反動で近くの岩壁に衝突した。
指一本動かせぬ体で、痙攣しながらも視線だけは目の前のハジャに向ける。
「使えるものは何でも使えと言ったはずだ。さっさと体を修復しろ。死ぬぞ」
容赦なくポロを痛めつける攻撃。
だが、それでもハジャは手加減をしていた。
死の淵に直面させ、しかしギリギリ死なないように。
数万年の経験全てを、ポロの体に叩き込む為。
それは親心にも似た、ハジャの優しさだった。
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