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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
231/307

230話 異空間での戦い


 ここは空間の狭間、『冥界の谷底』と『世界の支柱』を生み出す魔鉱石の空間の間に位置する名もなき場所。


 しかしポロは、この場所に見覚えがあった。


「ハジャ、ここって……」


 すると、ハジャは自らの分身体を生成し、ポロに返答する。


「ああ、お前が良く知る生まれ故郷、ポロトの村だ」


 かつて狼王フェンリルを祀っていた村。それも今の情景は、荒廃した後のものだった。


「とは言え、これは現実の空間ではない。私が作り出した幻夢だ。実際の場所は今、新しい町を開拓している途中だからな」


「うん、知っているよ。けど、どうしてわざわざこの空間を作ったの?」


 ハジャは目の前の崩壊しかけた建物に向かって魔法を放ち、粉々に全壊させると。


「ここならば、我々がいくら暴れようと被害は出ない。仮想空間だからな。そしてこの場所を選んだ理由は、戒めだよ。お互いのな」


 と、ポロを見ながら言った。


「私があの村に干渉しなければ、無駄に村民や冒険家の命を散らす事もなかった。そしてポロ、あの日お前に力があれば、お前の姉を死なせる事もなかった」


「生まれたての子供に無茶なこと言う……と言いたいところだけど、そうだね、たしかに僕にはその力があったのかもしれない」


「お前は黒妖犬ヘルハウンドの吸収能力と、人間の知恵が複合した存在だ。お前が人より物覚えが良く、気や魔術の才能に秀でているのもその影響が強い。その気になれば、一年に満たない期間で熟練の戦士と肩を並べられただろう」


 そうなる道もあったのだと伝えながら。


「だが、お前はそうはならなかった。自ら争いを拒んだのだ」


「クル姉が望んだからさ。争いの無い平和な場所で生きてほしいって。だから僕は飛行士になった。自由に空を飛び回って、色んな国を旅する仕事、僕の夢だったから」


「ならば何故私に指南を求めた? 何故飛行士でありながら死地へ向かおうとする?」


「それは…………」


「守りたいからだろう? 誰も死なせたくないからお前は力を求めた」


「そうだよ……」


「お前は夢と理想で矛盾している。飛行士として一生を終えたいのなら、戦場に向かうべきではなかった。だがお前は他者の声を拒めなかった。力ある者は期待され、助けを懇願される。一度引き受けてしまえば次々と声が上がる。結果、お前は争いの渦から逃れられなくなったのだ」


 ハジャの言葉一つ一つに、ポロの心情は揺さぶられる。


「覚えているか? お前がセシルグニムの依頼を受け、『黒龍の巣穴』攻略部隊に選ばれた時を。その時からすでに、歯車はこちら側に回っていた。あの時お前が王の依頼を断っていれば、オールドワンに目を付けられる事もなく、こうして私と再び会う事もなかっただろう」


「知った風に言うね。オールドワンに聞いたのかな? それで、何が言いたいのさ」


「お前はもう、引けないところまで来てしまった。世界の命運をかけた戦いに巻き込まれたのだ。姉の願いに反してな」


 ポロは今まで『世界の支柱』、そして何人もの転生者達と関わった。

 それだけで、オールドワンからは危険因子としてマークされていたのだ。


「正直、私もお前には自由に生きてほしいと思っていた。私とは二度と会わなければいいと思っていた。しかしここまで来た以上、私は己の役割を果たさなければならない」


「はじめからそのつもりなんでしょ? ハジャは僕の体を依り代にしたいし、僕はそれに抵抗したい。お互い目的が分かって話も済んだ。なら、あとは戦って白黒つけようよ」


 と、ポロが言った瞬間。


 ハジャは一瞬のうちにポロとの距離を詰め、ステッキの石突部分を額に突き付ける。


「油断をするな。今、お前は死んでいた」


「…………」


 ポロは全く反応出来なかった。近接攻撃を得意とするポロが、遠方攻撃を得意とする魔導士ソーサラーに身体能力で負けたのだ。


「この分身体は、肉体があった頃に最も近づけてある。複数は生み出せないうえに痛覚も残るが、それ故全盛期とほぼ変わらぬ力を引き出せる」


 ポロは額に冷や汗を滲ませた。


「じゃあ、やっぱりセシルグニムの時は手加減していたんだね」


「あの時の分身体でさえ、お前は私の足元にも及ばなかった。前回お前達は勝ったのではない、私の気まぐれで生かされたのだ」


「自覚はあるよ。四対一でギリギリだったから」


 言いながら、ポロは後退し距離を取る。


「なら、今からが本当にハジャの本気ってわけだね」


「自惚れるな、本気を出すかどうかはお前の力量次第だ」


 セシルグニムで相まみえた時とは比べ物にならない魔力量に、魔力感知の無いポロも気づいていた。


 これが長い年月を生きた者の力。

 世界を揺るがす程の実力。


「期待に添えてみせるよ。…………【獣王覚醒ビーストドライブ】!」


 ならばポロも出し惜しみはせず、最初から全力でハジャに挑む。


 自身の獣としての潜在能力を最大限まで引き出し、自分の中に眠る魔人達の力を借り。


 師であるハジャへ飛びかかった。





ご覧頂き有難うございます。

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