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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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229話 ルピナスの決別 ルピナスサイド


 突如現れたオールドワンに、ルピナスの鼓動は早まる。


 ――あり得ない。この未来は、フォルトさんにも見れなかった。まさか……私が未来を変えようと動いたから?


 そんな考察をしていると。


「色々考えているようだな、ルピナス。まあ、お前の行動に大体の察しはつく」


 彼女の思考を勘ぐるように、オールドワンは続ける。


「お前とオニキスの位置情報が認識されず、念話も遮断されるようになったのは数週間前……そう、丁度お前達が『時空の暴流』へ向かった直後だ」


 ルピナスは唾を呑み、腰に下げたカードケースに手をかける。


「フォルトが私の感知スキルを妨害しているのだろう? つまりお前達は彼女と協力関係にあるわけだ」


「…………」


「そして協力する理由は、お前達にとって不都合な未来が見えてしまったから。その未来を変える為に動いている。違うか?」


 まるで見透かされているように、オールドワンは適格な仮説を彼女に唱える。


「たまには勘に頼るのも悪くない。私もお前達の行動を不審に思ってな。ハジャにお前達の監視を頼もうと思っていた矢先に、丁度良く現れたものだ」


 ――言いぶりから、ハジャ様が告げ口した様子じゃなさそう。それはどの未来でも同じだった。ならオールドワンは、独自に私達の行動を読んだの? だから未来に起きる事象が変わって、来るはずのない日に、オールドワンが現れた……。


 未来を変える為の行動は、吉と出る時もあれば凶と出る時もある。


 それによってエルメルを救う事には成功したが、代わりに終焉を生む元凶、オールドワンを引き寄せてしまったのだ。


「やってくれたなぁ、ルピナス。その女はイズリス様に捧げる大事な器だ。神の贄を傷物にするということがどれ程の重罪か、お前は分かるか?」


 ルピナスが自身の背に隠すエルメルを見ながら、オールドワンは彼女に殺気を向ける。


 だが、ルピナスはその一言に憤り、オールドワンに言い放つ。


「あなたにとって大事なのは、エルメルの精神じゃなく体でしょ? 変態」


「なに?」


「あなたの下らない目的の為に、エルメルを巻き込まないで。女神の復活なんて誰も望んでいないのよ!」


 ルピナスが言うと、突如場の空気に重圧がかかったような変化が起き、同時にオールドワンから人の許容量を超えた魔力が湧き出てくる。


「うっ……なに、こいつ……」


 魔力感知能力を持つメティアは、溢れ出る魔力の圧に立っていられず、その場に膝を付いた。


「ルピナス……私の目的を下らないと言った事、今すぐ撤回しろ。神への冒涜は死罪にあたる」


「何でもかんでも神の名を出して、自分を正当化するんじゃないわよ! あんたはただの独裁者……あんたのやろうとしている事は、世界中を巻き込んだわがままに他ならない!」


「そうか……それを知っているという事は、やはりフォルトの力で見たのだな? 未来を」


 目的を知っている以上、もはやただの言い合いでは済まない。

 一触即発。あと少し刺激すれば、オールドワンは見境なくその力を振るうだろう。


 それを知りながらも、ルピナスは構わず言い返した。


「だったら何? あなたもずっと黙っていたでしょ? 『エドゥルアンキ』が起動したら、私達転生者は元の世界に帰れるなんて嘘もついて……よくも今まで無駄に働かせてくれたわね!」


「そこまで知ったか……。ならばどのみち生かしてはおけぬな」


 と、オールドワンが手を振り上げ、魔法を唱えようとした時。


 ルピナスはカードケースから札を一枚取り出し、魔物を召喚した。


「【炎龍サラマンダー】オールドワンを消し去って」


 現れた一体のドラゴンは、ルピナスの指示によりオールドワンに向かって攻撃を仕掛ける。

 だが、オールドワンは避ける事無くドラゴンに接近を許すと。


「【罪の烙印(クライムザスティグマ)】」


 途端、オールドワンは魔法を唱え、掌をドラゴンに押し当てる。


 すると、それを受けたドラゴンは突然身を震わせ、その場に倒れ気絶した。


「……オールドワン、何をしたの?」


「罪の数がそのまま痛みに変換される魔法だ。お前が召喚したその龍は、主力として使っていたのだろう? 多くの命を奪ってきたはずだ。故に、それに伴った激痛が体を蝕んでいる」


 たったの一撃、ただドラゴンの体に触れただけで、オールドワンはルピナスの召喚した統治者アーク級の魔物を戦闘不能にした。


「さて、お前はどういう罰を与えるべきか……」


 と、ルピナスを消す為の方法を考えていると。


「【永久凍土ペルマフロスト】!」


 突如サイカは冷気の魔法を放ち、オールドワンの体を氷塊の壁に閉じ込めた。


「こいつの魔力はまずい。先程戦ったハジャよりもはるかに上だ。ポロが魔法陣の中にいる以上、私達はあいつが戻るまでの時間を稼がなければならない」


 サイカがそう言った直後、オールドワンを閉じ込めた氷塊にミシミシと亀裂が入り。

 そして勢いよく氷のつぶてとなり砕け散った。


「今、ポロと言ったな? ポロ・グレイブスがハジャと共にいるのか?」


 容易く氷塊の壁を打ち破ったオールドワンは、高揚した様子でサイカに問う。


「貴様に語る口はない!」


「ふ、まあいい。だとしたら好都合だ。ようやくハジャに生身の体が手に入るのだから」


 その言葉に、サイカは不安を覚えた。


「……どういう意味だ?」

「気になるか?」


 含み笑いを浮かべ、オールドワンは答える。


「ハジャの肉体はとうの昔に滅びている。あいつがポロ・グレイブスを招いた理由は、彼の体に自分の魂を転移させる為だ」


「な…………」


 サイカだけでなく、その場にいた皆が固まった。


 ただでさえ強力な力を持つハジャの元へ、ポロをたった一人で向かわせてしまった事。


 誰よりも、メティアが一番ショックを受けていた。


「やっぱり……罠だったんだ。話をするだけで……終わるわけないって、そう思ってたのに……止められなかった」


 彼女は蹲り、ポロの手を放してしまったことを後悔する。


「今更嘆いても遅い。もう魔法陣は閉じてしまったのだろう? 彼が一人でハジャに勝てる見込みはない。そしてハジャも、彼の体を手に入れる為に本気を出すはずだ。計画は順調だよ」


 オールドワンはこの機に興奮していた。

 ルピナスの行動は予想外にせよ、つつがなく計画は進んでいる。


「あとはルピナス、そしてナナ、私の目的を知ってしまった以上、お前達を始末する必要がある。その後、新たな転生者をハジャに召喚してもらおう。それで下準備の遅れを取り戻せる」


 周囲の者を見渡しても、この中に自分の脅威となる存在はいないと確信していた。

 もはや神を復活させる計画を止められる者はいないと。





 その頃ポロとハジャは、異空間で最後の師弟対決を繰り広げていた。





ご覧頂き有難うございます。

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