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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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22話 混じり合う能力


 開けた空間で、十数体群がる殺戮熊キラーグリズリーを滑走しながら斬り刻んでゆくサイカ。


 時に回転を加えた斬撃を浴びせ、時に宙返りをしながら熊の攻撃を躱し、地面に突き立つ氷塊の剣を惜しみなく抜き取り魔物を殲滅する。


「ほぇ~すごいな。あっという間に熊の氷像が増えてく」


 ポロは邪魔にならぬよう、奥からサイカの剣舞を観賞していると。

 突然、一体の氷漬けにされた殺戮熊キラーグリズリーの死骸を狙って、人間サイズもある巨大ムカデが天上から落ちてきた。


 そのムカデは、丁度サイカの行く手に現れ……。


「えっ?! ひっっ! 虫!!」


 すると、すでに速度が上がりきっているサイカは足で急ブレーキをかけ巨大ムカデとの接触を避ける。

 が、それでも止まらぬ速度に、身体を仰け反りながら緊急回避し、近くの岩壁に激突した。


 痛々しい光景を目の当たりにしながら、ポロはサイカの元へ駆けつける。


「大丈夫?」

「…………全く問題ない」

「鼻血出てるよ?」


 と、ポロは腰に下げたポーチからハンカチと、回復薬であるポーションを取り出しサイカに渡した。

 瞬時に体を修復するポーションを一飲みし、ハンカチで鼻元を拭うと。


「少し油断しただけだ。心配には及ばぬ」


 と、何事もなかったかのような素振りで立ち上がる。

 そんなサイカを見るポロは察したように尋ねた。


「……サイカ、もしかして昆虫系、苦手なの?」


 自分の弱みを知られたサイカは頬を赤らめながら、か弱い少女のような目を向ける。


「悪いか? 幼き頃より清潔な豪邸暮らしでな。虫とは無縁の生活だったのだ。そう簡単に克服出来るものではないし、見るのも身の毛がよだつ。多足虫は特にな」


「さり気なく家柄自慢するのやめようよ」


 自慢なのか自慢じゃないのかよく分からないサイカの打ち明け話を軽く受け流すポロは、辺りに広がる氷上を見ると。


「ここら辺の熊は全滅したけど、支配者がいなくなった代わりに巨大ムカデが集まってきたね」


「ひぃい! いやぁぁああ!」


 と、サイカは乙女な反応をしながらポロにしがみつく。


「動けないよ……もう、僕がやっつけるからサイカは近くに隠れてて」

「分かった…………だがその、置いて行くなよ? 絶対戻って来いよ?」

「何それ、フリ?」

「真面目だ馬鹿者! 黙って逃げたら許さんからな!」


 揺さぶりながら念を押すサイカの手を振り解き、足場の悪い凍った地面を避けて空中から奇襲をかける作戦に出るポロ。

 だが。


「う~ん、血が凍ってるから【鮮血吸収ブラッド・ドレイン】が使えないなぁ」


 ポロは【暗黒障壁ダークプレート】で宙を移動しつつ、殺戮熊キラーグリズリーの死骸から血を集められないか周囲を窺うが、戦場は血の一滴も流れていない氷上のステージと化している。


「ムカデくらいなら魔法スキルを使わなくても倒せるか」


 そう判断し、空中から斬撃を浴びせようと構えると。

 ふと、体に違和感を覚えた。


「っっ?」


 体の奥底から湧き出る何か……。

 まるで自分の感覚ではないものが顕現しようとしている。


「うっ……何? 気持ち悪い」


 そしてポロの体の中でウネウネと躍動するものが、自身の腕から解き放たれる。


「うぇっっ? 何コレ!」


 それは、幾本もの蛇のシルエットをした黒い波動。

 分身体アバターを生み出した時のような、意識が分離する感覚に陥り、それは腕からムカデに飛びつき、噛みついた。


「これ……まさか半人半蛇獣エキドナビーストの思念?」


 蛇の魔物を召喚する能力をもつエキドナビースト。その能力が使えるということは、以前ポロが浄化魔法を唱えた際に紛れたのでは……とポロは推測した。

 一見すると不気味だが、生み出された蛇の影は大人しく、むしろ従順であった。


「もしかして、僕を守ろうとしてくれているの?」


 放たれた蛇に問うても答えは返ってこず。

 しかし体を支配しようという気はないらしく、不思議と心地良い気持ちになった。


「じゃあ、お願いするよ」


 そして、蛇の幻影を受け入れたポロは彼らを操作し、次々と巨大ムカデを食いちぎる。


 その後、目標の敵がいなくなると、今まで荒ぶっていた蛇の影は静かにポロの中へと帰って行った。


「出て行かないんだね。そんなに僕の体が気に入った?」


 姿も形も意思もないエキドナビーストの思念に向けてポロは問う。


 その様子を見ながら、キョロキョロとムカデの生き残りがいないか確認し、恐る恐る近寄るサイカ。


「終わったようだな。初めてお前の戦いぶりを見たが……なんというか、禍々しいな」


 蛇の幻影を目の当たりにし、世界でも違法行為に当たる『禁術』の類なのではと疑いの目を向ける。


「僕も初めて使ったんだ。エキドナビーストを浄化した時に、彼女の能力が混ざったみたい」


「ああ、お前達が昼間戦ったという……。じゃあ何か? 魔物の怨念が乗り移ったとでも言うのか?」


「そんな邪悪な感じはしないんだけどな~。統治者アーク級ともなると、霊魂の力も強靭なのかも」


 お互い疑問符を浮かべながら、答えの出ない議題に悩む二人。

 結局疑問はうやむやなまま、ポロとサイカは再び歩を進める事にした。











 ポロとサイカが攻略部隊を追いかけている真っ只中、先に潜入していた彼らは、深部にて強大な壁にぶつかっていた。


「……私、幻でも見てるの? こんな場所に、統治者アーク級が二体も?」


 リミナは前方に立ち塞がる圧倒的な威圧にたじろぐ。


「うははっ、死神皇帝リーパーロード女王蜘蛛アラクネか……こいつは盛大な歓迎だぜ! このダンジョンの守護者ガーディアンと言ったところか?」


 彼女とは対照的に、バルタは目の前の強敵を興奮した様子で眺める。

 絶望的状況に立たされてなお、彼に恐怖はなかった。





ご覧頂き有難うございます。

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