222話 神々の物語
地上よりもずっと上、次元を越えた先にある、天上界。
人が一生を終えた先にある世界
そこに、幾多の世界を生み出した女神、創造主と呼ばれる最高神が住んでいた。
かつてイズリスはその創造主に仕えていたが、不平等に死んでゆく地上の人族を見て、やがて創造主の理念に疑問を持つようになった。
知恵を持つにつれて、人は同族、他種族に優劣をつけるようになる。
王族、貴族、平民、貧民、奴隷と、徐々に階級の幅が広がり、人はその役職に殉じて立場を確立するのだ。
競争社会は世の中の発展に繋がるが、同時に他の犠牲も伴う。
故に搾取される側は、およそ人権と呼べるものは無く、ひたすらに理不尽な人生を余儀なくされるのが、どの世界でも共通される事象。
かつて地上の人族であったハジャやオールドワンも、数ある犠牲者であり。
死後、天上界へ送られた彼らは、当時創造主の側近だったイズリスと出会い、不平等な世界を創り変えるという思想を持った彼女に付き従う事となる。
そして、イズリスは創造主に反旗を翻し、天上界で頂上戦争が勃発した。
結果的にイズリスは創造主に負け、彼女を含めた反乱軍は、奈落の底へ永久的に幽閉される。
辛うじて生き延びたハジャとオールドワンは、地上の世界に身を潜め、いつの日かイズリスを復活させ、再び世界再構築を企てようとしていた。
それが、数万年前の事である。
『天上界の住人は歳を取らず、霊魂が滅びぬ限り幾年月も生き続ける。そして私は今日まで、イズリス様を復活させる為の準備をしてきた』
話を終えたハジャは、再びポロに尋ねる。
『ポロ、お前は不平等に優劣を決められた今の世界と、皆が平等に役割を決められる新たな世界、どちらを選ぶ?』
「……平等な世界のほうが聞こえは良いけど、それってつまり、支配者が人から女神様になるってだけだよね?」
『そうだな。だが、人を超越した存在に指針を決められるほうが公平だと思わないか?』
「思わないよ」
ポロはばっさりと否定した。
「ハジャの言う『選別』は、神に逆らう者を片っ端から処刑する事でしょ? それはただの独裁者だよ。人よりも力のある存在に抑圧されたら、人はなす術もなく屈しなきゃいけなくなる。どれだけ努力して振り絞った知恵も力も、女神様には遠く及ばず蹂躙される事になる。そのほうがよっぽど不平等さ」
全ての生物の権利を奪う神の所業を、ポロは決して正しいとは思わず。
「僕は人とは呼べない存在だろうけど、それでも自分が生きる道くらいは自分で決めたいよ」
そのような世界に人は生きる価値はないと人ならざる自分の意見を主張する。
『そうか、お前は反対派か……』
ハジャはそう呟き。
『正直、安心した。お前が私に肯定的だった場合、オールドワンの筋書き通り、世界は変わっていただろうからな』
ハジャは何故か嬉しそうに、敵同士のポロに掴みどころのない反応を見せる。
『ならばお前が私を止めてみろ。私はグリーフィル王国最大の戦力だ。私を消せば、世界中を敵に回したグリーフィルの戦況は一気に傾く。オールドワンの計画もだいぶ遅らせる事が出来るぞ』
「……それは、僕がハジャの命を奪うってこと? 僕達が争わなくても、ハジャが僕達の味方になってくれれば、それで済む話なんじゃないの?」
だが、ハジャは首を横に振った。
『私はイズリス様を裏切ることは出来ない。同胞であるオールドワンも同じくな。それに、お前に戦う意志が無かろうと、私にはあるぞ。お前の体を乗っ取る目的がな。お前に今戦う気が無いのであれば、問答無用でお前の肉体を手に入れる』
「……頑固だね。それに死にたがりだよ」
『そうかもな。永き時を生き続け、自問自答を繰り返してゆく中で、私は疲れてしまったのかも知れん』
言いながら、ハジャは【空間の扉】を生み出し、ポロを中へと誘い。
『老兵に花を持たせる気があるなら、この中へ入ってくれ。私とお前が戦うに相応しい場所を用意した』
そのまま人型の魂は、静かに消えていった。
「もう、どうせ拒否なんてさせてくれないくせに……」
ポロは愚痴を漏らしながら、仕方なしにその空間の中へ入っていった。
そして、ハジャとポロ、一対一の戦いが始まる中。
しかしその頃エルフの里でも、予期せぬ事態が起こっていた。
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