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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
222/307

221話 死ねない理由


『ポロ、お前が生きることをやめるなら、その器は私に寄越せ。私とて、いつまでも肉体が無いと何かと不便なのだ』


 ハジャの本体である人型の塊は、ポロにそう告げる。


『近い将来、我が主君であるイズリス様を復活させ、再びあの方に仕える為には、器が必要なのだ』


 ポロは何も答えず、ただ一人思考する。


 自分が生きる為には生物の魂を吸収し続けなければならない。

 それは天に昇る事無く、自分の中に消化される。

 この命が尽きるまで、幽閉される。

 ならいっその事、今ここでこの命を終わらせたほうがいいのでは。


 そんな事を考えていた時。


 突然、ポロの頭の中にバハムートの声が聞こえた。




『ポロ、君の選択に従おう。どうするかは君次第だ』


 ――バハムート……。


『ただ一つ言っておくと、君の中にいる魔人達は、君が死ぬことに強く反対している』


 ――エキドナ達が?


『君は生かされるべくして生かされた。それを無下にするという事は、今まで君を支えてきた者達に対して、恩を仇で返す事になる』


 ――そうかもね……けど……。


『君にはまだやるべき事がある。生き続ける事で救われる者がいる。それを放棄するかどうかの選択を、今しなければならない』


 ――難しいこと言うな~。


 そう思いながらも、バハムートの説得に、ポロは再び考える。


 自分を家族にしてくれた姉、クルア。

 自分のそばにいて、共に飛行士として夢を追ってくれた、メティア。

 自分を支えてくれた仲間達。

 自分の中で、陰ながら力を与えてくれた魔人達。


 考えれば考える程、自分は多くの者に支えられていると改めて気づき。


 次第にポロの中で、迷いが消えてゆく。


「そうだね……僕はまだ死ねない。生きていたいんだ」


 誰に対してでなく、一人そう呟き。


「ハジャ、悪いけどこの体は僕のものだ。少なくとも、ハジャにはあげないよ」


 はっきりと、ハジャに断った。


『そうか。ああ、それでいい』


 ハジャは意外にもあっさりと、ポロの決めた選択に同意する。


「ずいぶんと引き際がいいね。ハジャは僕の体を奪うことが目的なんじゃないの?」


『たしかにそうだ。だが以前にも話したが、私は迷っている。私のしている事は真に正しいかどうかをな』


 自らが崇拝する神の意志に従い、神の御心のままに行動してきたハジャだが、彼自身にも迷いがあった。


「生かすべき者と、そうでない者の選別……だっけ?」


『そうだ。人の一生を、我々の判断で決めるべきなのか否か……お前達を見ていると、その考えがブレてしまう』


「僕達の側からしたら、断固お断りだけどね」


『そうだろうな。私も、かつてはお前達と同じ人間だった。本来私が人を導くなど、おこがましい行為だろう』


 かつては……。ポロはその言葉が気にかかった。


「ねえ、ハジャは一体何者なの?」


 実際のところ、ハジャに関する詳細をポロは知らない。

 神を崇拝する信者であり、人外の力を持つ魔導士ソーサラーというくらいにしか彼を知らないのだ。


『私はその昔、幾多の世界を管理する場所、『天上界』と呼ばれる世界にいた者だ』


「てんじょうかい?」


 ポロは聞き慣れない言葉に首を傾げた。


『お前達の世界で言うところの、神々が住まう場所だ』


「じゃあ……ハジャは神様なの?」


『違う。私はただの住人にすぎない。私が神と崇める者は、この世を繁栄させたイズリス様のみ』


「それって……聖教会で信仰されている女神様だよね?」


『そうだな。もっとも、イズリス様の名を広めたのは私と、グリーフィルの軍師を務めるオルドマンだがね』


 ポロはその名前にピンときた。


「その人、セシルグニムの襲撃を指示した人だよね。それに……思い出したよ。僕は以前、アルマパトリアに行く途中で彼と会っている」


『ああ、私もそう聞いている。出会いは偶然だったようだが、その時からお前は彼に目を付けられていたみたいだな』


「それじゃあ、その人もハジャと同じ場所から来たの?」


 ハジャは頷いた。


『彼の本当の名はオールドワン。イズリス様に仕える者の中で、最も忠誠心の強い者だった。今は私と二人だけになってしまったが、彼はいずれ、イズリス様を復活させたのち、我らの同胞も蘇らせるつもりでいる』


 次第に明らかになるハジャとオールドワンの繋がり。

 その中で、ポロはハジャが崇めるイズリスの話が気になった。


「そもそも、その女神様とハジャの仲間の人達って、どうして死んじゃったの?」


 と、ポロが問うと。

 ハジャは少し考えるような素振りを見せ、そして口を開く。


『……そうだな、お前には話しておこう。そのうえで、お前の意見も聞いてみたい』


 自分らが世界規模、宇宙規模の禁忌を冒す理由。

 その目的を伝える事で、ハジャは己の行動が正しいのかをポロに判断してもらおうとしていた。




ご覧頂き有難うございます。


一応今回の話に補足しますと、ポロ達の世界は私の別作品、『世界管理事務局社員の出張クエスト』と同じ世界線を辿っております。

物語の直接的な繋がりはありませんが、要所要所同じような設定で書いていますので、気になった方はそちらのほうもご拝読頂けると幸いです。


明日、明後日は休載します。

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