21話 闇夜に突入、ポロとサイカ
暗闇の平原で神々しく輝く一本の柱、『世界の支柱』を頼りにダンジョンの入口へ向かう二人。
黒龍はすでに巣穴を飛び立ち狩りに出かけている時間帯である。
「ねえ副団長、遠くから咆哮みたいな轟音が聞こえるけど、黒龍がまだ近くで飛んでいるのかな?」
「さあな。それから私のことはサイカでいい。お前は私の部下ではなく、立場も下ではないのだろう?」
と、急に『貴様』から『お前』に呼び名を変えたサイカに親密度のランクアップを感じ、尻尾を振りながら笑顔で返す。
「デレてきたね~」
「はぁ? なんの話だ?」
だが未だ硬い表情は崩さず、心の距離は遥か遠く……。
「私は姫様が心配でお前の無駄話に付き合っている余裕はないのだ。そもそもお前も責任を感じているというのなら、もう少し緊張感を持て」
事実、サイカに心の余裕はなかった。
アルミスにもしもの事があったらと、悪いほうへ思考を膨らませてしまう彼女には、ポロの雑談は苛立ちしか生まない。
「ずっと気を張り詰めていても疲れるだけだよ。過度な集中は時に視野を狭めるんだ。フラットな気分でいこう」
逆にポロは、そんなサイカを気遣いながら砕けた態度で接するが。
「能天気な獣人め。私とは決して相容れないな」
生真面目だからこそ、その優しさは許容出来ない。
「そう? 僕はサイカのこと嫌いじゃないけど」
しかしそれもまた彼女の個性だと、ポロはサイカの辛辣な態度を軽く受け流しながら、二人は深い洞窟へ足を踏み入れた。
ダンジョン内部は大型の魔物も出入りする為か、見た目よりも広々とした空間が奥へと続いていた。
辺り一面には『発光石』と呼ばれる魔鉱石が埋まっており、ライトがなくとも広範囲を見渡せるくらいに視界は良好。
そして道行く先には、討ち捨てられた魔物の死骸が何十体も転がっていた。
死骸の様子から、昼間のうちに攻略部隊が討伐したものと思われる。
「入口付近なのに、すごい数の魔物を相手にしたみたいだね」
「うん、たしかに異常だ。ダンジョンは初めてだが、この数の上位戦士級が最深部まで絶えず群がっているとなると、正直装備が足りなくなる。……以前派遣された調査団はBランクの冒険家パーティーだったらしいが、一体どうやってこの場を潜り抜けたのか……」
と、サイカは事前情報と異なる魔物の数に信ぴょう性を疑い始める。
「ダンジョンの外ですら、資料に記載されていなかった統治者級がいたもんね。もしかしたらダンジョンの奥まで潜らずに、適当に資料を捏造したとか?」
「一応国が信頼する、探索、隠密に長けた集団だ。そうでないことを願いたいな」
などと言いつつも、潜入前からのイレギュラー続きでサイカに不安が募る。
当然、調査団の資料は捏造でもでっち上げでもない、真実を書き記したものである。
上層での魔物の異常発生、統治者級の出現、これらはそもそもオニキスが撒いたもの。
彼一人の影響で、攻略部隊は甚大な被害を被るのだった。
歩を進めていくと、二人は大広間のような開けた場所に着く。
そこには転がる魔物の死骸を貪る殺戮熊が数体。
そしてさらに、二人は同時に複数の気配を感じた。
「潜んでいるな」
「うん、表にいる熊は囮。小さな空洞から本命の熊さんが出てくる作戦みたいだね」
鼻の利くポロは、広間に隠れている殺戮熊をすべて把握する。
「それから、おこぼれをもらおうと巨大ムカデが数匹」
「へっ?! ムカデ?」
突然サイカは、今まで発したことのない裏声でポロに聞き返す。
「どうしたの?」
「…………いや、なんでも」
ふいっと、ポロから顔を反らし咳払いを一つ。
「大丈夫? 無理そうなら僕が戦うけど」
「舐めるな、私を誰だと思っている?」
そして気持ちを切り替えると、サイカは腰に下げていた剣を地面に突き刺す。
「あれ、剣使わないの?」
「乱戦の場合、自前の剣よりもこっちのほうが手っ取り早い」
そう言いながら、サイカは魔力を高め広範囲魔法を放つ。
「【氷晶の庭園】!」
サイカが唱えると同時に、突如地面から無数の氷塊で出来た剣が突き出る。
「見せてやる、絶氷の剣技を……」
そして、地面から生えた剣を一本抜き取り、居合の構えで魔物を捉えると。
「【氷刃の舞】」
足を踏み込むと同時に前方に氷塊の動線を生成し、地を滑りながら高速の突進で熊に接近、そして氷の刃で一刀両断する。
剣を模して生成された氷塊で熊の胴体を斬り裂くと、瞬時に断面から凍結していき、その場に半身だけの不出来なオブジェが佇む。
その後もサイカは氷の動線を前方に生み出し、慣れたステップで方向を変えながら、次々と地面に生み出された氷の剣を持ち替えて殺戮熊を両断してゆく。
摺動するたびに彼女の速度は増し、それに伴い威力と冷気も底上げされる。
それは氷上で舞う、美麗なる淑女。
彼女が『氷姫の魔剣士』と呼ばれる所以である。
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