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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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21話 闇夜に突入、ポロとサイカ


 暗闇の平原で神々しく輝く一本の柱、『世界の支柱』を頼りにダンジョンの入口へ向かう二人。

 黒龍はすでに巣穴を飛び立ち狩りに出かけている時間帯である。


「ねえ副団長、遠くから咆哮みたいな轟音が聞こえるけど、黒龍がまだ近くで飛んでいるのかな?」

「さあな。それから私のことはサイカでいい。お前は私の部下ではなく、立場も下ではないのだろう?」


 と、急に『貴様』から『お前』に呼び名を変えたサイカに親密度のランクアップを感じ、尻尾を振りながら笑顔で返す。


「デレてきたね~」

「はぁ? なんの話だ?」


 だが未だ硬い表情は崩さず、心の距離は遥か遠く……。


「私は姫様が心配でお前の無駄話に付き合っている余裕はないのだ。そもそもお前も責任を感じているというのなら、もう少し緊張感を持て」


 事実、サイカに心の余裕はなかった。

 アルミスにもしもの事があったらと、悪いほうへ思考を膨らませてしまう彼女には、ポロの雑談は苛立ちしか生まない。


「ずっと気を張り詰めていても疲れるだけだよ。過度な集中は時に視野を狭めるんだ。フラットな気分でいこう」


 逆にポロは、そんなサイカを気遣いながら砕けた態度で接するが。


「能天気な獣人め。私とは決して相容れないな」


 生真面目だからこそ、その優しさは許容出来ない。


「そう? 僕はサイカのこと嫌いじゃないけど」


 しかしそれもまた彼女の個性だと、ポロはサイカの辛辣な態度を軽く受け流しながら、二人は深い洞窟へ足を踏み入れた。









 ダンジョン内部は大型の魔物も出入りする為か、見た目よりも広々とした空間が奥へと続いていた。

 辺り一面には『発光石』と呼ばれる魔鉱石が埋まっており、ライトがなくとも広範囲を見渡せるくらいに視界は良好。


 そして道行く先には、討ち捨てられた魔物の死骸が何十体も転がっていた。

 死骸の様子から、昼間のうちに攻略部隊が討伐したものと思われる。


「入口付近なのに、すごい数の魔物を相手にしたみたいだね」


「うん、たしかに異常だ。ダンジョンは初めてだが、この数の上位戦士グレーター級が最深部まで絶えず群がっているとなると、正直装備が足りなくなる。……以前派遣された調査団はBランクの冒険家パーティーだったらしいが、一体どうやってこの場を潜り抜けたのか……」


 と、サイカは事前情報と異なる魔物の数に信ぴょう性を疑い始める。


「ダンジョンの外ですら、資料に記載されていなかった統治者アーク級がいたもんね。もしかしたらダンジョンの奥まで潜らずに、適当に資料を捏造したとか?」


「一応国が信頼する、探索、隠密に長けた集団だ。そうでないことを願いたいな」


 などと言いつつも、潜入前からのイレギュラー続きでサイカに不安が募る。

 当然、調査団の資料は捏造でもでっち上げでもない、真実を書き記したものである。


 上層での魔物の異常発生、統治者アーク級の出現、これらはそもそもオニキスが撒いたもの。

 彼一人の影響で、攻略部隊は甚大な被害を被るのだった。










 歩を進めていくと、二人は大広間のような開けた場所に着く。

 そこには転がる魔物の死骸を貪る殺戮熊(キラーグリズリー)が数体。

 そしてさらに、二人は同時に複数の気配を感じた。


「潜んでいるな」

「うん、表にいる熊は囮。小さな空洞から本命の熊さんが出てくる作戦みたいだね」


 鼻の利くポロは、広間に隠れている殺戮熊キラーグリズリーをすべて把握する。


「それから、おこぼれをもらおうと巨大ムカデが数匹」

「へっ?! ムカデ?」


 突然サイカは、今まで発したことのない裏声でポロに聞き返す。


「どうしたの?」

「…………いや、なんでも」


 ふいっと、ポロから顔を反らし咳払いを一つ。


「大丈夫? 無理そうなら僕が戦うけど」

「舐めるな、私を誰だと思っている?」


 そして気持ちを切り替えると、サイカは腰に下げていた剣を地面に突き刺す。


「あれ、剣使わないの?」

「乱戦の場合、自前の剣よりもこっちのほうが手っ取り早い」


 そう言いながら、サイカは魔力を高め広範囲魔法を放つ。


「【氷晶の庭園(クリスタルガーデン)】!」


 サイカが唱えると同時に、突如地面から無数の氷塊で出来た剣が突き出る。


「見せてやる、絶氷の剣技を……」


 そして、地面から生えた剣を一本抜き取り、居合の構えで魔物を捉えると。


「【氷刃の舞(アイシクルダンス)】」


 足を踏み込むと同時に前方に氷塊の動線を生成し、地を滑りながら高速の突進で熊に接近、そして氷の刃で一刀両断する。


 剣を模して生成された氷塊で熊の胴体を斬り裂くと、瞬時に断面から凍結していき、その場に半身だけの不出来なオブジェが佇む。


 その後もサイカは氷の動線を前方に生み出し、慣れたステップで方向を変えながら、次々と地面に生み出された氷の剣を持ち替えて殺戮熊キラーグリズリーを両断してゆく。

 摺動しゅうどうするたびに彼女の速度は増し、それに伴い威力と冷気も底上げされる。



 それは氷上で舞う、美麗なる淑女。


 彼女が『氷姫の魔剣士』と呼ばれる所以である。





ご覧頂き有難うございます。

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