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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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217話 ポロに群がる冥人


 皆が最深部にてハジャと対峙していた頃。


 遅れてポロも『冥界の谷底』を目指し、霊山を下ってゆく。


 その道中。


「ゴーストが湧いてきたな……どうしよう」


 悪霊と呼ばれる実態のない魔物が、ポロを取り囲むように辺りを浮遊していた。


「実態がないから武器も通さないし、闇魔法もほとんど効かない。僕には最悪の相性だね」


 と呟きながら、襲い来るゴーストから逃げていると。


『私が手を貸そう』


 ふと、ポロの精神の中にいるバハムートが語りかけてきた。


「お? あれ、バハムート? 君、通常でも僕と会話出来るの?」


『私は幾多の次元に干渉出来る。君はしばらく私と同化していた影響で、君も私の体質に変化しつつある。故に、常時私と意思疎通が可能となった』


「え、バハムートの体質って、それ大丈夫なの? 僕、突然別世界に飛んじゃったりしない?」


『心配しなくても、体の主導権は君にある。好きな時に私の力を使えばいい』


「う~ん? じゃあお言葉に甘えて、力を貸してもらおうかな」


『承知した。今君の中に情報を送ろう』


 そう言うと、突然ポロの脳内に、バハムートから受け取ったスキルの記憶が流れ込んでいき。


「うわぁ、すごい情報量。魔力の構築が複雑すぎて僕じゃ本来扱えない魔法だけど、不思議と今は息を吸うように使えこなせそうだよ」


『君はすでに三人の魔人の力を有している。私の力を扱うくらい造作もないだろう』


 バハムートとやり取りをしているさなか、ゴースト達はさらに数を増やし、上空からポロを狙っていた。


 ポロは早速バハムートから受け取ったスキルを使用し。


「【精霊形態スピリットフォーム】」


 途端、ポロの体と身に付けている物がマナ粒子に変換され。

 実態のない不可視化のゴーストにも、空間を超えた物理攻撃が可能となった。


「攻撃が当たるなら僕の敵じゃない」


 ポロは高く跳躍し、上空にいる敵に回転を加えた爪の斬撃を浴びせる。


「【螺旋の鉤爪(スパイラル・タロン)】」


 そして、三十体程のゴーストは瞬く間にポロに殲滅された。









 魔物を殲滅した後。

 薄暗い谷をひた走るポロは、ふと、暗闇の中から複数の気配を感じた。


「……誰?」


 影のように真っ黒な体に、人の顔を模したような面を付けた、子供の姿。

 先程ルピナス達も遭遇した、冥人くらびとである。


「……君達は?」


 そう尋ねるが。

 彼らはポロを取り囲みながら、首を傾げたり、隣と顔を見合わせたりと、不思議そうな様子でポロを見つめるのだ。


 すると、そのうちの一人が口を開く。


「……ファ……ルク……チガ、ウ」


「えっ……?」


 ポロは聞き返した。


「ファ……ルク、オナ……ジ……デモ、チ……ガウ」


 たしかに聞こえた、ファルクという名前。


 ノーシスと同じ孤児院にいた義理の弟を何故彼らが知っているのかポロは疑問に思った。


「君達、ファルクを知っているの?」


 再びポロが尋ねると、女の子らしき冥人が返答した。


「アナ……タ、クロ、イヌノ……バケモ、ノ……オ……ナジ」


「黒犬って……」


 ポロは自身の犬耳をピコピコ動かしながら、化け物という言葉が気にかかり、落ち着かない胸の鼓動に息苦しさを感じる。


「アナ……タ、ファル……ク……、タベ……タ」


 彼女が言葉を発する度に、ポロの動悸は激しく揺れた。


 ――この子達は、何を言っているの? 食べたって……どういうこと?


 身に覚えのない言葉を投げかけられるが、その意味を、ポロは理解出来なかった。


「ア……ナタ、ファルク。ケド、ドウ……ジ二、クロイ……ヌノ、バ……ケモノ」


 ドクン、ドクンと、ポロの胸が躍動し。

 ポロを容赦なく締め付ける。


「僕は……僕は……」


 この者達は、自分の過去を知っているのか。

 だとしたら、自分は何者なのか。

 ポロは膝を付き、知らない過去への不安に圧し潰されそうになった。


 その時、ふと思い出した。



『大丈夫だよ、ポロ。お姉ちゃんがついてるからね』



 遠き日の、クルアの声が脳裏に蘇る。

 記憶喪失の自分を保護した、猫の獣人。


 右も左も分からなかった自分を、優しく抱きしめてくれた姉の温もり。

 彼女の姿を思い出すうちに、自然と胸の動悸は収まり平常心を取り戻した。


「クル姉……」


 たとえ自分が何者だとしても、彼女はきっと、変わらぬ笑顔を向けてくれるのだと、そう思い。


「ごめんね。君達は僕のことを知っているのかもしれないけど、僕は君達のことを知らないんだ」


 ポロを囲う冥人達にそう告げて。


「今は急ぎの用事があるから、僕は行かなくちゃいけないんだ。通してくれる?」


 顔の見えない彼らに尋ねると。

 彼らはスッと道を開け、最深部に続く道を指差した。


「シタ……イル、オトコ……ボク……ラノ、ムラ……オソッタ……テキ」


「うん、ハジャのことだね」


 ポロはそう解釈し、同時に、今ここにいる冥人達は自分と同じポロトの村出身なのだと確信した。


「僕が代わりに叱っておくよ。二度と僕らの村と同じ被害を出さないように」


 ポロは彼らに約束すると、目の前にいた冥人達は満足したように、音もなく静かに消えていった。


 誰もいなくなった広間で、ふと。


「……薄々分かってきたよ。自分が何なのか」


 独り言ちながら、いつの間にか行く先に現れた、青い火の玉を頼りに走り出した。


 ハジャに会い、エリアスを解放する為に。

 そして自分の答え合わせをする為に。





ご覧頂き有難うございます。

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