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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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215話 最深部で待つ黒の導師 ルピナスサイド


 冷気のような寒さと、辺りから漂う邪気。

 この先は本当に冥界の入り口なのでは?

 そう思う程、周囲の空気は混沌としていた。


「うはは、さすがは『世界の支柱』だな。容易に人が立ち入れない場所なだけある」


 バルタは上方を見上げると、辺りをユラユラと浮遊する黒いローブが数体。

 死の精霊、スルーアである。


「いひっ?! お、お化け」


「心配すんな、ナナ。あれは熟練者エルダー級の魔物だ。お前の敵じゃねえよ」


 バルタの背中に隠れるナナの頭を撫で。

 そして前方、後方から来る、死の軍団を見やる。


「あとは……首無し騎士(デュラハン)竜牙兵スパルトイか。同じく熟練者エルダー級に、歩兵役の上級戦士グレーター級。はは、ここを守る守護者か何かか?」


「言ってる場合か! 囲まれたぞ」


 サイカは剣を抜き、アルミスを庇うように前に立つ。


 すると、アルミスはそっとサイカを横切り、魔物の群れに近づいてゆく。


「姫様っ、いけません! すぐに離れて下さい!」


「いいえ、この手合いは光魔法が有効でしょう? なら私が相手をしたほうが効率がいいわ」


 そう言って、護身用にリミナから借りていた小型のクロスボウを手に取り。


「【天与の光(ディヴァイン・レイ)】!」


 前方に向けて、光魔法を纏った極大の矢を放った。


 魔物の中で将軍クラスであろう首無し騎士(デュラハン)に命中させると、その周囲に群がる竜牙兵スパルトイをも巻き込み、敵を一網打尽にした。


「おぉ……姫さん、『黒龍の巣穴』で会った時より強くなってんじゃねえか?」


 上級魔法を凌ぐ一閃に、バルタは思わず声が漏れる。


 するとナナは頬を膨らませ、アルミスに対抗するように魔法を放った。


「消えて」


 詠唱ですらない言葉を口にすると、彼女を中心にして、広範囲の光の波動が広がり。


 その波動に触れた魔物達は、まとめて灰のように消滅していった。


「私のほうが、強い」


 と、アルミスの前で胸を張るナナ。


「ええ、すごいです、ナナさん! 今の【悪霊浄化ターンアンデッド】ですよね? どうやったらそこまで精度を上げられるのか教えてほしいです」


 しかし純粋に称賛するアルミスに、ナナの対抗意識はブレるのだ。


「え、いや……てき、とう」


「適当にやってあれだけの無詠唱魔法が使えるなんて……やっぱり類まれなる才能があるのですね」


 まるで嫌味の無い笑顔を向けられ、ナナはそそくさとバルタの背に隠れ、赤める頬を彼の背中に埋める。


「うはは、照れてやんの」


 面白気に笑うバルタに、ナナは杖の先端で背中を刺した。


「痛えっ! 馬鹿、叩くならまだしも石突で刺すな! あぶねえだろが」


「治癒」


 と、バルタを突き刺した部分に治癒魔法をかけ、証拠を隠滅するナナ。


「これで、問題ない。私を怒らせたら、また刺す。そして、また治す、繰り返し」


「さらっと治癒魔法を拷問に使うんじゃねえよ。イカれてんのか!」


 などと場が湧き立つ隅で。


「アタシら、今回出番なくない?」


「まぁ……姫様はアンデッド相手にはめっぽう強いからな。正直私が斬り込むより殲滅力は高い」


 手持ち無沙汰なリミナとサイカは、モヤモヤしながら武器を収めた。








 それからしばらく、アンデッド系の魔物を殲滅しながら進む一行は、やがて谷の底、最深部へと辿り着いた。


 谷の底は岩々が円形に囲う広い空間であり、その中央には、『世界の支柱』が白紫しはく色に輝き、天を突き刺すように昇っている。


 そこに、『黒の導師』ハジャは立っていた。


「エリアス!」


 彼の横には丁度ソファーくらいの平坦な岩があり、エリアスはそこで気を失ったまま倒れていた。


「私の妹を返して下さい! その子は関係ないはずです」


 強大な力を持つハジャを前にして、怯まず彼の前に立つアルミスに、サイカは慌てて追いかける。


「姫様、離れて下さい!」


 アルミスを自身の背中に隠し、ハジャと対峙するサイカ。


 ――なるほど……レオテルスが苦戦しただけはある。この男と向かい合っているだけで圧し潰されそうだ。


 近くで目が合うと、その男の強さが鮮明に分かる。

 自分一人の力では到底勝てないと、サイカは思った。


「……ポロは、来ていないのか?」


 ハジャは周囲を見渡し、そう言った。


「邪魔が入っただけだ。遅れて来る。だから先にエリアス様を解放しろ!」


「それは交換条件になっていないな。ポロがここに来てこその約束だ。それとも力ずくで救出してみるかね? 『氷姫の魔剣士』、サイカ・カザミ・ベルクラスト」


「うっ……!」


 ほとばしる殺気にたじろぐサイカ。


 ここで下手に戦闘が始まると、二人の王女を守りながら戦うのは難しい。

 サイカが選択を決め兼ねていると。


「ハジャ様、一つよろしいですか?」


 ルピナスもハジャの元へ近づき、質問を投げかけた。


「あの子は、エルメルはどこにいるの?」


 するとハジャは、ルピナスのすぐ後ろを指差し。


「っっ!」


 突然何もない空間から、短剣を持ったエルメルが現れた。


 ――【透明化インビジブル】?


 腕にかすり傷を負うが、ルピナスは寸前でナイフを躱した。


「エルメル……あなた」

「…………」


 その瞳は虚ろであり、無感情で機械的な顔をしていた。


「やっぱり……オールドワンに精神操作をかけられたのね」


 エルメルは何も言わず、ただ無機質にルピナスへ刃を振るった。


「くっ……」


 杖で防ぎながら後退するルピナスだが、親友である彼女に自分から攻撃することは出来ず、防戦一方の近接戦を強いられる。


「その娘については私も不本意だがね。オールドワンがその様に精神を変えたようだ。神の器となる体を奪われぬように、自己防衛の催眠を施してな」


 そう言って、エルメルにルピナスの相手をさせている中、ハジャは再びサイカとアルミスに目を向ける。


「さて、君達はどうする? 何を望む?」




ご覧頂き有難うございます。

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