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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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214話 冥人の住処 ルピナスサイド


 影のように黒い見た目に不気味な面を付け、子供のように辺りを走り回る、人らしき何か。

 ソレはバルタ達を興味津々で見つめ、無邪気に辺りを走り回る。


「おい、あいつ魔物か?」


 殺意のない相手に、攻撃してよいものか迷うバルタ。


「あれは死んでいった人の成れの果て、冥人くらびとよ」


 ルピナスは知った様子でその子供らしき者を見つめる。


「『時の魔女』が教えてくれたの。未練を残して死んでいった者や、自分が死んだことに気づいていない者、そういう人達がここに集まるんだって」


「は~、成仏出来なかった怨霊みたいなもんか。急に襲って来たりしねえの?」


「魔物と違って基本無害だそうよ。ただ冥人は、自分と関係のある生者が現れた時にのみ姿を見せるらしいわ。だからこの子も、この中の誰かと関わりを持った子供なんじゃない?」


 と、ルピナスが言うと。


「お前……まさか」


 ふと、グラシエとリノは同時に青ざめた様子で冥人を見つめた。


「この子もしかして、あーしらと同じ、キメラ実験の被検体だった子……」


 リノは冥人の黒い肌に光る、番号のような印を見つけ、確信した。


 すると突然、辺りから何十人もの冥人の子供が現れ、グラシエとリノを囲うのだ。


「ああ、腕に付けられた光る刻印。こいつら、オレ達が研究所に囚われていた頃の……妹達だ」


 グラシエは膝を付き、自分の周りに群がる冥人を見やり、まとめて抱きしめる。


「ごめんな……オレにもっと力があったら、お前らを死なせる事はなかったのに……」


「姉御……」


「守れなくて……ごめん」


 皆装着している面や多少の体つき、服装は違えど、同じく黒いシルエットをした見た目であり、早々見分けは付かない。


 しかし、グラシエは彼女達の仕草や癖を全員覚えており、一人一人名前を呼んでは謝罪を繰り返していた。


 そんな中、皆の前にもワラワラと冥人が姿を見せる。


「おい、その姿……竜人ドラゴニュートの民か?」


 バルタは滅んだ竜人の国の者と顔を見合わせ。


「あんた……スラム街にいた闇商人……」


 メティアも知人らしき冥人に呼びかける。


「……で、私とあなたの元には、アンセッタ家の先輩メイドが来るのね」


 そしてタロスとルピナスの元にも、メイド服を着たようなシルエットの者が現れ、何かを訴えるように彼らを見つめるのだ。


「ねえタロス、やっぱり思い出せない?」


『思い出したくて思い出せるものではないからな。悪いとは思っている』


 ルピナスは残念そうに溜息を吐く。

 すると、冥人の一人が彼女に向けて声を発した。


「エ……メル、オジョ……サマ」


「メイド長……」


 それは昔、エルメルとルピナスを襲撃者から守る為に犠牲となった、使用人の長のシルエットであり。


「シタ……イル……カ、ラ」


 上手く喋れないのか、片言のように声を発し、しかしそれでも、必死にルピナスに伝えようとしていた。


「ユー……カ……、アナ、タ……、タ……スケ……テ……」


 エルメルお嬢様を助けて。そう伝えたかったのだと理解して。

 ルピナスは微笑を浮かべ、静かに頷いた。


「ええ、分かってますよ、メイド長。私はその為に来たんですから」


 ルピナスの返事を聞くと、その冥人も静かに頷き。

 そしてタロスほうに顔を向け言った。


「タロ……ス、サマ……ドウ……カ……ユー……カ、ヲ……」


 ルピナスを守ってほしいと、懇願した。

 彼女の記憶はないタロスだが、少しの沈黙の後。


『ああ、それがお前の望みなら、そうしよう』


 せめてもの罪滅ぼしにと、彼女の望みを叶えると約束した。


「ご心配なく。今の私はあなたより強いから、適当でいいわ」


『そうか、ならせめて壁役にでもなろう。この人形の体も、なかなか頑丈だぞ』


 などと、二人は会話を交わしているうちに。



 冥人達は音もなく姿を消した。

 亡霊の身である彼女達には、生者と関われる時間は限られているのだ。


 そして、大勢群がっていた黒い人影がなくなり、あっという間に静かな谷へ戻ると。


 ふと、リミナは呟いた。


「父様も、シャルナもいないのね、ここには」


 亡くなった父親と、かつてのパーティーメンバーが現れるかと少し期待したリミナだが、彼女の元には誰も来なかった。


 すると、サイカは、リミナの肩に手を当て。


「誰も現れないという事は、皆ちゃんと成仏出来た証拠だろう。良い事じゃないか」


「やだ、聞いてたの? 恥ずかしいじゃん」


 無意識に漏れた呟きを聞かれていた事に赤面しながら。


「まあ、会って何か言うわけでもないしね。それよりこんなとこ早く抜けましょう。なんか本物の悪霊とか出てきそうだし」


 吹っ切れたようにリミナはその場を離れる。


「そういえば、サイカとアルミスの前には誰か来たの?」


「ん、ああ……」


 サイカは少し寂し気な表情を見せるアルミスを見やり。


「『黒龍の巣穴』で戦死した兵士達、だと思う。何やら謝罪をしているような素振りだった」


 あまり思い出したくない過去が目の前に映った為、アルミスは若干ナーバスな気持ちになっていた。


「まあ、旧知の者に会えたからと言って、嬉しいばかりでもない。今は姫様をそっとしておいてやってくれ」


「そっか……」


 仄暗き下界に住む、魂を縛られた冥人達。


 彼らとの対話こそ、エルフの里が長年継承してきた神聖な行事であり、自分達の行いを正す道標となる。


 善なる冥人の存在理由は、生者を導くこと。






 冥人達が去った後、突然暗い空間に青い火の玉が浮遊し出し。


 それらが辺りを照らしたことで、一同は下に続く下り坂を見つけた。


「あんなとこに道が……」


 これもまた、冥人達による見定めである。

 邪悪なる者をこの先へ行かせぬよう、彼らは番人の如く生者を吟味する。


 彼らに認められた者だけが、冥界へ近づく権利を得るのだ。





ご覧頂き有難うございます。

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