210話 ポロとノーシス、同僚の戦い
ノーシスは気を纏わせた銃弾を躊躇なくポロへ連射し。
対するポロは、獣の如き俊敏なステップで躱しながら接近してゆく。
そしてポロの攻撃範囲内まで距離を詰めると、ノーシスは懐から手榴弾を取り出し前方へ投擲した。
「またさっきの重力爆弾?」
ポロがそれを避けると、その弾が地面に落下した瞬間周囲の地盤が崩れ、円盤状にクレーターが生まれる。
予想通り、先程ハジャに食らわせたものと同じ、周囲に重力負荷をかける魔導爆弾だった。
「同じ手は食わないよ」
「ああ、同じじゃないさ」
ノーシスがそう言うと、崩れた地面から突然火花が飛び出し。
「え、まさか……」
突如、地中から大爆発が巻き起こる。
「うひぃい……【暗黒障壁】!」
咄嗟にポロは上空へ飛び上がり、空中に防御壁の足場を作って回避した。
上から地面を覗くと、次々とライン状に連鎖しながら誘爆してゆく地中。
おそらくは、あらかじめ周囲に地雷を仕込んでおり、重力負荷で地面を凹ませることで、地中に設置した地雷を着火させたとポロは考える。
「この辺一帯から火薬の匂いがすると思ったら……、ノーシス、僕を殺す気マンマンじゃないか」
そんな愚痴を漏らしていると。
ふと、地上から巻き起こる黒煙の中からノーシスが跳躍し、ポロの防御壁の上に飛び乗ってきた。
「空中に逃げるのはズルいぞ」
そう言って、ノーシスはポロの腹部を蹴り上げる。
「ごふっ!」
宙を舞いながら吹き飛ぶポロに、ノーシスは銃弾を放ち。
回避の出来ないポロは体を捻り、手甲で銃弾を全て弾き返す。
数発の銃弾を弾くとノーシスは弾切れを起こし、その隙にポロは新しく【暗黒障壁】を生成し足場を作った。
「ノーシス……さっきから躊躇いがないね。僕達運送ギルドに勤める同僚じゃないか」
「急に身内面をするなよ、ポロ君。でも心配するな、たとえ死んでも、あとでナナに蘇生してもらうからね」
「命が安いな……。じゃあこっちも手加減はやめるよ」
すると、ポロは呼吸を整え。
「【空間移動】」
瞬時に空間を移動し、ノーシスの背後に姿を現すと。
「っっ?!」
「【烈波爪術】」
至近距離でポロは爪の斬撃を浴びせ、突然の空間移動に反応出来なかったノーシスは、背中に深手を負いながら地面に落下した。
「ぐあっ……!」
鈍い音と共に地に打ち付けられたノーシスの元へ、ゆっくりとポロは歩み寄る。
「わざと急所は外したよ。僕は、ここで君に死んでほしくないから」
「く……ポロ……」
「まだ続ける?」
獣人の身体能力は、人間に比べて圧倒的に高い。
こと肉弾戦において、ポロがノーシスに負けることはないのだ。
だが、その差を埋める為にノーシスは多数の武器を所持している。
「これで……勝ったつもりか?」
ふとノーシスは着ていたブレザーを脱ぎ、ボールのように丸めると、ポロに向かって思い切り投げつけた。
その瞬間、ポロは感知する。
火薬の匂いと、秒針の音を。
「っっ! 時限爆弾!」
気づいた時には、ブレザーに仕込んだ時限爆弾は激しい轟音を立てて爆発した。
「く……【半人半蛇の鱗】」
寸前でポロは硬化の魔法を唱え、ダメージを最小限に抑えると。
爆炎と煙が風に流れ、クリアになった視界でポロは見た。
「ノーシス……その体……」
上着を脱ぎ捨てたノーシスの上半身、そこに彫られた、禍々しい刻印を。
「気づいたか? これは体のリミッターを解除し、力を限界まで増幅させる呪印だよ」
上半身の至る箇所に、黒く掘られた呪印。
およそ正気ではないと、ポロは思った。
「そんなにびっしり呪印を施したなら、さぞかし高い効果を発揮するんだろうね。でもノーシス、その力を使うって事は、それに見合う対価を払わなきゃいけないんでしょ?」
「ああ、そうだね。対価は僕の寿命だ。命を燃料にして絶大な力を得る。強大な魔物や化け物染みた敵と渡り合うには、それくらいのリスクは負わなければいけないんだ」
「……そうまでして僕を止めることに、何の意味があるのさ?」
「ケジメだ。あの日守れなかった弟への償いだ」
「……?」
ノーシスは割れた眼鏡を投げ捨て、青く燃える瞳でポロを睨み付ける。
「来いよ偽物。僕はこれでもSランク冒険家のメンバーだ。そこら辺の飛行士と同じだと思うなよ!」
命を削る覚悟で、ノーシスは尚もポロに立ち塞がる。
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