209話 ノーシスの見解
一同が『冥界の谷底』へ向かおうとする中、ノーシスは頑なにポロを行かせまいと否定した。
「おい、ノーシス、いい加減にしろ。ここで争ってる場合じゃねえんだよ。ちび姫さんの保護が先だ」
「なら先に行って下さい。僕はここに残り、力ずくでもポロ君を足止めしますから」
「なに感情的になってんだ? お前らしくもない。ポロとお前にどんな因縁があるのか知らねえが、今は共闘するべき――」
とバルタが言いかける途中。
ポロはバルタに手の平を向け、皆まで言うなと待ったをかけた。
「ノーシスの意志は理解したよ。ちょうど僕も君に話しがあるしね」
ポロとノーシスは互いに目を合わせ、互いに譲るつもりはないと訴える。
「みんな、バルタ達と先行っててくれる? 僕も後から追うから」
「ポロ、あんた……」
メティアは心配そうに見つめながら。
「分かった。もしあんたより先に着いたら、代わりにあんたの過去、ハジャから聞いといてあげる」
「助かるよ」
二人の問題だと割り切り、そのままタロスと共に霊山の入り口へ向かっていった。
そして、アルミスとサイカも言い合いをしながら前へ進む。
「サイカ、あなたは絶対に私を止めるでしょうけど、今回ばかりは私も行くわ」
「姫様! 気持ちは分かりますが、エリアス様は私に任せてあなたは里へお戻り下さい」
「戻らない。これ以上妹に怖い思いをさせたくないの。私が一番にあの子を迎えに行かなければ、私は姉失格よ」
アルミスは引く気などなかった。
以前の、興味本位でダンジョンに潜った頃とは違い、明確な使命感が彼女にはあった。
それに気づいているからこそ、サイカも強く止める事は出来ず。
「だからサイカ、お願い。道中はあなたが私を守ってくれるでしょ?」
「ぐっ…………かしこ、まりました」
渋々と、サイカは了解すると。
彼女はバウロに伝言を託す。
「バウロ殿、あなたはこの事をフークリフト様に伝えてもらいたい。エリアス様は我々で必ず助けると」
「……ああ、承知した。エリアス様を頼みます」
そして、ポロに「先に行っている」と告げ、二人も入り口へと向かう。
皆が霊山の中に向かう中、最後尾にいたリミナも歩を進めると。
ポロのそばを横切る直前、彼に耳打ちをした。
「気を付けなさい。あいつ、服の中にかなり武器を隠してる」
「匂いで分かるよ。そっちも気をつけて」
それだけ言って、彼女は去っていった。
残ったポロとノーシスは無言のまま見続けていると。
先にポロのほうから口を開いた。
「どうして僕を入れてくれないのか、理由を聞いてもいい?」
「その質問に答えるのは、僕の質問に答えてからにしてもらいたい」
しかし逆に問いを返され、やむなくポロは従う事に。
「いいよ。何が知りたいの?」
「ハジャ・グレイブス」
ノーシスの言葉に、ポロは無言で続きを促す。
「君とファミリーネームが同じだよな。あの男とは血縁関係なのかい?」
「ううん。以前、僕はハジャに弟子入りした事があるんだ。魔術を教わりたかったから。その過程でハジャが僕にグレイブスの名をくれたんだ。出生不明だと職に就く為の書類審査が通らなくて不便だろうってことで」
「便宜上ハジャの養子となったわけか。殺戮者の名を借りて飛行士免許を取ったと」
「……少なくとも、その時はハジャが殺戮者だなんて思わなかったよ。僕の村を二度も救ってくれた恩人とすら思ったさ」
「はっ! 恩人ねぇ……」
ノーシスは侮蔑したように鼻で笑った。
「僕も自分で滑稽だと思うよ。村を救った恩人だと思っていたら、実際は村を滅ぼした実行犯だったんだから」
「ふん、そうだね」
「それで? ノーシスは僕とハジャの繋がりを考察して、僕がハジャの仲間じゃないかと疑っているの? それで僕の足止めを?」
ノーシスは眼鏡の位置を整え、「違うよ」と答えた。
「初めは僕もそう考えた。だが、ハジャの情報を調べていくうちに、別の考えが思い浮かんだのさ」
「別の考え?」
ポロが尋ねると。
「君の体を乗っ取ろうとしているんじゃないかという事さ」
思わぬ変化球に、ポロはキョトンとしてしまう。
「え? 乗っ取るって、どういうこと?」
「僕の調べとルピナスから聞いた情報を重ねた結果、合点がいった。あの男が戦場に赴く時は、常に分身体での出陣で、本体が現れたという情報はない。その見分けはエルフや妖精族の魔力感知なら一目で分かるそうだ」
「だったら、なんなの?」
「そこで思ったのは、あの男の本体はすでに無く、分身体でしか姿を見せられないのではないか」
ノーシスは続けて言う。
「つまりは精神体の状態でこの世に留まり続けているという仮説だよ。そしてルピナスからも、僕の思っていた通りの答えを出してきた。それが事実だったとしたら、ハジャは自分の精神を移植する器を探していたんじゃないだろうか、と」
「その器が、僕だって?」
「僕は疑り深くてね。身内でもない他人を、何の見返りもなく弟子として迎えるだろうか?」
「…………」
「もちろん善意で君に接していたのかも知れない。だが、利己的な者はそうは考えない。いずれ君の体を自分の器にする為、若いうちから徹底的に鍛え、自分の精神体に順応させるんだ。その為にハジャは闇魔法を君に仕込んだ」
ハジャの得意とする闇属性魔法を体で生成出来るように、ポロを鍛えた。
全てはポロの体を乗っ取る為に。そうノーシスは考察した。
「それが僕を足止めする理由か……。なるほど分かったよ」
ポロは納得しながら頷き。
「けど、その理由じゃ僕は引き下がれない。ハジャの元にはエリアスがいて、あの子に危害を加えない条件は、僕がハジャの元まで来ることだから」
しかしノーシスの言い分は聞けないと、はっきり拒否した。
「そうか。まあ話を吞んでくれるとは思っていないさ。これは僕の意地だ。力ずくでも君を止めるよ」
「なら僕も、無理やり押し通るよ」
ノーシスは拳銃を構え、ポロも猫爪手甲を装着すると。
互いに譲らぬ二人の戦いが始まった。
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