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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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20話 目覚めた後に、また一難


「んん……ここは?」


 ポロが目覚めた先は、魔導飛行船の仮眠室だった。


「ポロっ! 良かった、やっと起きた……」

「メティア…………」


 先の戦いで倒れたポロはメティアに運ばれ、半日以上眠りについていた。

 時はすでに深夜を回っており、窓から見る景色は光の柱以外何も映らない暗黒。


「ずいぶん寝てたみたいだね、僕」

「無理ないさ、統治者アーク級の魔物とやり合った後に浄化魔法も使ったんだから」


 メティアと話ながら、ふと、ポロは自分の体を見て衣類を纏っていないことに気づく。


「ところでなんで僕裸なの?」

「泥や魔物の血で汚れたから私が体を拭いてあげたんだよ。服も今乾かしてるから替えの服を用意するわね」

「え~僕お気に入りの服じゃないと身が入らないから、乾くの待ってるよ」


 と、ポロは頭を掻きながらあくびを一つ。


「メティア、ミルク温めて」

「はいはい、ちょっと待ってな」


 メティアがミルクを温めている間、ブルリと寒気を感じたポロは近くのブランケットを羽織ろうとベッドから降りると。



「オーグレイはどこだっ!」



 突然、目を覚ましたサイカが慌てた様子で仮眠室に顔を出す。


「他の者達の姿も見えないが…………って、貴様、なんて恰好をしているのだ!」


 動揺するサイカを、キョトンとした目で見つめるポロ。


「え? いや、今服を乾かしてる最中みたいだから」

「せめて何かで隠せ!」


 一糸まとわぬ姿のポロに怒鳴るサイカを見やり、メティアは言い辛そうに口を開く。


「あ~目覚めて早々言いにくいんだけど、攻略部隊ならとっくにダンジョンに潜って行ったよ。隊の指揮をオーグレイが引き継いで」


 するとサイカは目を見開き拳を握る。


「あいつ…………!」


 ポロはブランケットに包まりながらメティアに温めてもらったミルクをすすり、ホッと一息。

 そして煮えくり返りそうな腸のサイカに問う。


「何があったの? いつも不機嫌そうな顔だけど、いつにも増してご機嫌斜めだよ」


 サイカは「ほっとけ」と、自分の面構えを指摘するポロに辛辣な返しをすると。


「……オーグレイにやられたのだ。私に麻痺毒を盛ってな」


 するとメティアは驚いた様子でサイカに尋ねた。


「えっ、なんで? あんた達仲間じゃないの?」


「派閥が違うのだ。奴は以前、国の品格を貶める行為を働き処罰を受けていた。それ以来他の騎士達からも良く思われてなく、当然私も信用していなかった。しかしどういうわけか今回の作戦に奴が加わることになり、やむなく同行を許可したのだが……ここに来て本性を現したようだ」


 サイカは完全に油断していた。

 オーグレイ程度ならどうにかなると、高を括っていたのだ。

 そして結果あの男に出し抜かれ、自分抜きでダンジョン攻略が始まってしまった。

 言い訳の出来ぬ失態に、サイカはやり場のない怒りがこみ上げる。


 そんな時、ふと、サイカは辺りを見渡すと。


「そう言えば、先程から姫様の姿が見えないが?」


 サイカが尋ねると、メティアはさらに言い辛そうな表情を浮かべ。


「それが…………」


 そして船長室に置いてあった一枚の紙を見せる。


「これは……姫様の字……」


 そこにはこう書いてあった。




『大変急であり、皆様には多大なるご迷惑をおかけ致しますが、私はオーグレイと共にダンジョンの最深部へ向かいます。たとえ向かう先で私が命を落としても、これは自己責任であり皆様に一切の罪がかからぬよう、ここに直筆のサインを添えさせて頂きます。それからサイカ、勝手ばかりしてごめんなさい。それでも私は見てみたいのです。帰ったらいくらでも叱責を受けるから、どうか私のわがままをお許し下さい』




 プルプルと手紙を握り、奥歯を噛み締めるサイカ。


「姫様……何故そこまで……」

「その……私らが魔物と戦っている最中に抜け出したみたいで、お姫様の安否はまだわからないの……」


 すると、ミルクを飲み終えたポロはブランケットを脱ぎ捨て、部屋に干してある生乾きの衣類を身に纏い。


「ちょっと、ポロ?」


 武器、食料、小道具をテキパキと準備する。


「あんた、まさか……」

「うん、ちょっと行ってくるよ。『黒龍の巣穴』に」


 メティアは慌ててポロを止めた。


「ダメっ! さすがにダンジョンに潜るのは危険過ぎる! さっきだって統治者アーク級に遭遇したばかりなのに……」


「姫様をちゃんと見ていなかったのは僕の責任だよ。なら僕が連れ戻すのは道理だと思う」


 しかし、メティアの静止などまるで聞かず、ポロは着々と支度を終える。


「副団長、君との約束を守れなかったことは謝るよ。だから僕が責任を持って必ずお姫様を無事に連れて帰る」

「当然だ。貴様は死ぬ覚悟があると言った。ならば命に代えても守ってもらうぞ」


 そしてサイカも解いた髪を再び結い、仮眠室に置いてある自分の剣と荷物袋を手に取る。


「勿論私も行く。どのみちオーグレイが良からぬ事を企んでいるならば、攻略部隊を任されている私が止めなければならんからな」


 二人で話が進む中、メティアはあたふたと二人を交互に見やる。


「ちょっと……本気なの? 攻略部隊はすでに深層に向かっているのよ? 合流する間、今いる人員で進まないといけないのよ!」


 と、ポロはメティアに。


「今いる人員っていうか、向かうのは僕と副団長の二人だけだよ。メティアとタロスはこの船の要だから、ここに残ってみんなを守ってほしい。副団長もそれでいいよね?」


「私は構わん。どうせ一人でも行くつもりだった」


「そんなっ……!」


 焦燥に駆られるメティアに、ポロはそっと彼女の懐に潜り。


「大丈夫、必ずみんなで戻って来るから、お願い」


 顔をすり寄せメティアを落ち着かせる。



 心配は募るけれど、船長が決めたからには自分も決断しなければならない。

 そう思い、メティアは別れ際に言葉を贈る。


「死んだら絶対に許さないよ?」


 そう言い残し、メティアは去り行く二人を見送った。





ご覧頂き有難うごさいます。

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