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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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208話 ハジャの戯れ


 霊山の封印を解いた矢先だった。


 本来里のエルフしか立ち入ることのない『世界の支柱』が一つ、『冥界の谷底』。

 その封鎖された結界の中から平然と現れるハジャを見て、バウロは面食らう。


「なっ……貴様、どうやって中に入った?!」


 彼の驚いた様子を見て、ハジャは尋ねた。


「どうやって、とは?」


「ここはエルフの里の私有地だぞ、空からでも侵入出来ぬよう、この霊山全体に強力な結界を張っていたのだ。何故エルフでもない貴様が侵入しているのだ!」


「ここがエルフの所有物だと、誰が決めた? 我が物顔で立ち入っていたのは君達だろう?」


 つまらない事を聞くなと言うように、ハジャはまるで眼中にないバウロの横を通り過ぎると。

 周りにいる者達を静かに眺める。


「……これはまた大所帯で来たな。それとルピナス、君が来るとは意外だったよ」


 ハジャはルピナスに焦点を定め、何故彼女がこの場にいるのかを予想した。


「フォルトには会えたのか?」


「ええ、おかげ様で」


「それは良かった。それで、どうだった?」


 言葉の選択次第では有無を言わさず攻撃を仕掛けてくるかもしれない。

 そう危惧したルピナスは、生唾を呑み込み、しかし高圧的にハジャに返した。


「色々見せてくれましたよ。過去も現在も、そして……未来も」


 対してハジャは「そうか」と言うだけで、特に戦闘態勢に入ることもなく。


「君は知ってしまったのだな、私とオールドワンの目的を」


「残念ながら」


「ならば察しは付く。ここへ来たのは私を止める為、もしくはこの谷の奥にいる彼女を連れ出す為か」


「両方ですよ、ハジャ様」


 ハジャは微笑を浮かべた。


「それにしては数が足りないな。私を止めたければ、せめて一万の兵は用意したほうがいい」


「一万人に匹敵する戦力なら問題ないわ」


「なるほど、その心意気は買おう。しかし残念、私が用があるのは、そこにいるポロだけだ」


 奥でハジャと視線が向き合い、ポロはそのままハジャの元へ歩み寄る。

 すると。


「勝手に話を進めるなっ!」


 倒れていたノーシスが起き上がり、怒号と共にハジャに向かって猛進する。

 そしてスペアの拳銃を懐から取り出し、ハジャの脳天を狙い乱射した。


「【暗黒障壁ダークプレート】」


 が、ハジャは前方に防御結界を張り、向かい来る弾丸を全て防ぐ。


 途端、ノーシスは上空に飛び上がり、ハジャの頭上まで接近すると。


 手榴弾を取り出しハジャ目がけて投下した。


「いきなりの歓迎だな」


 ハジャはノーシスの強襲を左程気にも留めず、投下される手榴弾をステッキで弾いた。


 その瞬間、手榴弾が弾けると。

 爆発する代わりに、ハジャの周囲に突然大地にクレーターが生まれる程の超重力が圧し掛かる。


「……これは、魔導爆弾か」


「『重荷石』が埋め込まれた、重力負荷をかける魔道具だよ」


 そう言いながら、ノーシスはハジャの元へ降下しながらダガーを取り出し。

 重力負荷を受け動けないハジャに、気を纏った斬撃を食らわせる。


「【直下斬突ノックオフナイブズ】」


 刃から放たれる刀気を直撃させると。

 避ける間もなく、ハジャの体は真っ二つに両断された。


「うそ……一撃?」


 その光景に、リミナは唖然とした。


 ハジャの断面からマナ粒子が飛散するところを見る限り、体は魔法で作られた分身体であるが。

 前回セシルグニムで戦った時は、ポロとレオテルス含めた最強の布陣で挑んで尚、ハジャの分身体に圧倒された。


 その経験から鑑みて、あまりにも呆気なく倒されたものだと肩透かしを食らう。

 だかルピナスはその様子を見て、勝機よりも不安を募らせた。


「手ごたえがなさ過ぎるわ。おそらくは様子見、もしくは誘っているのかもね、私達を」


「何でもいい。ここでポロ君と接触しなければ」


 とノーシスは返す。


「ポロ君、悪いが君をハジャの元へ行かせるわけにはいかない」


「ノーシス……どうして?」


 ポロが尋ねると。


 直後、二人の足元から、黒い影が生まれ。


 その中から、新たに生み出されたハジャの分身体が現れた。



「そうか、だから有無を言わさず私を攻撃したのだな」



 納得した様子でハジャはノーシスを見ると。


「ならば、少し余興を催してみるか」


 突如、エリアスの元にもう一体ハジャの分身体が現れ。


「奥へ進む理由があったほうがやる気は出るだろう」


 そう言って、ハジャの分身体は怯えるエリアスに近づき、彼女の腕を掴んだ。


「エリアス!」


 アルミスの声も虚しく。

 分身体はエリアスを連れて、再び黒い影の中へと沈んでいった。


「ハジャ! エリアスをどうするつもり?」


 ポロは目の前にいるほうの分身体に問う。


「約束しよう、彼女に危害は加えない。お前が私の元へ来るならな」


 ハジャはそれだけ告げ、もう一体の分身体も影の中へと消えて行った。


「……面倒なことになったな」


 脅威が去り、ぼそりとバルタが呟くと。

 サイカは声を荒げバルタを非難した。


「くそっ、バルタ! 貴様らの所為だぞ。貴様らが姫様達を誘拐なぞするから!」


「ああ、分かってる。後でいくらでも償うよ。だがまずは、ちび姫さんを助けるのが先だ」


 そして、バルタは皆に指示を出した。


「お前ら、ハジャの件は後回しだ。ちび姫さんの救出を最優先にして、『冥界の谷底』最深部へ急ぐぞ」


 その場にいたナナ、グラシエ、リノは静かに頷き。


「ポロ、副団長さんも、それでいいか? 今回は俺達に非があるが、だけど悪い、ちび姫さんを助けるまで手ぇ貸してくれ」


「ふん、慣れ合うつもりはないが、罪滅ぼしをすると言うのならば斬らずにいてやる」


 ポロとサイカからも了承を得ると。


「ダメだ」


 その中でただ一人、ノーシスだけは首を横に振った。


「ポロ君だけは、絶対に行かせない」





ご覧頂き有難うございます。

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