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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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207話 対峙する双方


 ルピナスが現れるや否や、バルタはじっと彼女を睨んだ。


「よう、『黒龍の巣穴』では世話んなったな」


「あら、ずいぶん前のこと持ち出すのね。もう水に流してくれているものだと思っていたけれど」


「今思えばよ、巣穴の中にいた統治者アーク級の魔物、あれ、お前が召喚したんだろ? 二体とも、あんな場所にいる魔物じゃねえもんな」


「ええ、そうね。けど、どうして私が召喚したって分かったの?」


「知人が色々教えてくれたんでね。……おかげでこっちは死にかけたぜ」


 と、皮肉を言うバルタに、ルピナスは溜息を吐き答えた。


「……悪かったわよ。私もオニキスも、魔鉱石を守るので必死だったの」


「そういや黒龍も呼びやがったよな?」


「……突っかかるわね。あなた、私にどうしてほしいの?」


 次々と吐き出る愚痴を面倒くさそうに返していると。


「協力はしてやる。ナナの恩人だっていうからな。だがその前に、姫さんに言う事あんだろ?」


 と、バルタはアルミスを指差し、謝罪を要求した。


「姫さんをさらって拘束してる俺達が言える立場じゃねえが、お前は二度もセシルグニムに被害を及ぼしている。だから、謝罪くらいはしろよ」


 バルタの催促に、ルピナスはアルミスへどう言おうか迷っていると。


「構いませんよ」


 とアルミスは冷たく返した。


「あなたが介入しなければ、亡くならずに済んだ命がありました。セシルグニムに害を成したこと、どのみち私は許すつもりはありませんので、お好きにどうぞ」


「そう、それは助かるわ」


 そう言って、ルピナスは彼女からそっぽを向けた。


 バルタは「そうかい」とため息交じりに返すと、彼女にこれからの目的を問う。


「まぁ姫さんがいいならそれで。ところでルピナス、これから里の使いの者に、ここの封印を解いてくれるようにお願いしたんだけど、お前、ハジャに会ったらどうすんだ?」


「まず戦闘は避けられないと思うわ。……ハジャ様のいる場所に、私の親友もいるはずなの。彼女を救う為なら、命くらいは懸けるつもり」


「へぇ、魔物に任せっきりのお前がね~」


 などと話を進めていると、アルミスはその話に待ったをかけた。


「ちょっと待って下さい。実は、ポロちゃんもその人に用があるのです。その人と戦うというのであれば、せめてポロちゃんと話をしてからにしてもらえませんか?」


 と、彼女が深々と頭を下げると。


「ん、まあ、それは別にいいけどよ……」

「ダメだ」


 バルタの言葉を遮って、ノーシスはバッサリと否定した。


「ポロ君をハジャの元へは行かせない。僕がさせない」


「おいノーシス、ガキの意地悪みたいなこと言ってんじゃねえよ。その後ポロにも協力してもらえばこっちも助かるだろうが」


「意地悪で言っているわけではありませんよ。正当な理由があって言っている」


 と、頑なに否定するノーシスに、ルピナスも賛同した。


「私としても、あのワンちゃんをハジャ様に近づけたくないわね」


「はぁ? 何なんだよお前ら……」


 否定的な二人にバルタが疑問符を浮かべていると。





 噂をすればのタイミングで、ポロ達は彼らの前に到着した。


「姫様、エリアス様、ご無事ですか!」


 二人の姿を見たサイカが駆け寄ると。


 突然ノーシスは彼女の足下に弾丸を撃ち込んだ。


「動かないで頂きたい」

「ぐっ……貴様!」


 冷静沈着にノーシスは立ち上がり、二丁の拳銃を構え、二人の頭に銃口を向けた。


「一歩でも動けば二人の頭が吹き飛ぶぞ」


「おのれ……その方達が国の王女と知っての無礼か!」


「ああ、よく知っている。だから人質の価値があるのだろう」


 そして、ノーシスはバウロに視線を向けた。


「へぇ、あなたが来たのか……。大方、罪人だからと里の捨て駒にでもされたか?」


「まあな。だが、自ら望んでここに来た。アルミス様とエリアス様は、里の宝だ。私などの命よりも価値がある」


 と言うバウロに、「結構」と冷たい目で返し。

 早く封印を解けと、ノーシスは大岩のほうに首を振って合図した。


 言われるがままにバウロは大岩の前に立ち詠唱を始める。


 その間、ポロはノーシスをじっと見つめ。


「何だい? ポロ君」


 視線に気づいたノーシスも彼を睨み返した。


「ノーシス、聞きたいことがあるんだ」


「そうか、けど僕は君に言いたいことはないんだ。拒否権を唱えるよ」


 断られてもなお、ポロは無言で見つめ続ける。

 ノーシスはそれが鬱陶しかった。


「そんな目で見ても、何も語る気はないよ。僕は早く仕事を――」


 と、言いかけた時。

 バウロの詠唱が終わると同時に、巨大な岩壁が轟音を立てて開きだした。

 ノーシスはその音に反応し、チラリと谷の入り口へ目を向けた瞬間。


 その刹那、ポロはノーシスの元まで一気に距離を詰め。


「なっ!」


 彼の両手に持っていた拳銃を足で弾いた。

 その一瞬の隙に。


「サイカ! リミナ!」


 ポロが叫ぶと同時に、二人はアルミスとエリアスを抱え、後方へ避難する。


「ポロ……グレイブス!」


 武装解除されたノーシスは、ギロリとポロを睨み付けた瞬間。


「さっきのお返しだよ」


 ノーシスが反応するよりも早く、ポロは片足に【半人半蛇の尻尾(エキドナテイル)】を生成し、彼の頬目がけて鞭打を打ち込んだ。


「ぐあっ!」


 鞭のようにしなる黒い尻尾の直撃を受け、ノーシスは数百メートル先まで吹き飛ぶと。


 その様子を見ながら、バルタは「やれやれ」と面倒そうに頭を掻き。


「あ~ポロ、姫さん達をさらったのは謝るよ。俺の監督責任だ」


「バルタ……」


「けど悪い、あいつも大切な戦闘要員でよ。あんまりボコらないでやってくれねえか?」


 これから谷の最深部へ向かうというタイミングで、二人で争われると戦力が削れる。

 バルタはそれを危惧し、ポロに停戦を訴えた。


 その意図を組んだポロは渋々了承し、代わりに何故ここにいるのかを尋ねる。


「バルタは、どういう目的でここに来たの?」


「姫さんにも言ったんだがよ、俺達はハジャに用があって来たんだ。グリーフィルの勢力をこれ以上拡大させたくないんでね」


「どういうこと?」


 と、二人が話していた矢先だった。



 突如、入口から突き抜けるような、桁違いの魔力と圧迫感がはとばしる。

 魔力を隠すことなく近づく、圧倒的強者の気配。


 そして、程なくしてそれは現れた。

 各々が目的の中心人物、『黒の導師』ハジャ・グレイブスが。





ご覧頂き有難うございます。

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