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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
201/307

200話 セシルグニム第二王女、エリアス


 里の中心地に、ひと際大きな木造住宅がある。


 他と比べるべくもなく、堂々とした出で立ちの住まいだった。


「族長とエリアス様がお待ちかねです。どうぞ中へ」


 案内役のエルフ達はそれだけ言うと、再び自身の持ち場へ戻っていった。


 アルミスは一呼吸入れ。


「失礼します。お爺様、只今参りました」


 久々の祖父の家に、若干緊張気味に入り口をまたいだ瞬間。



「アルミス姉様っ!」



 突然、子供らしき声でアルミスの胸に飛び込んでくる少女が現れた。

 無邪気に顔を埋める少女に、アルミスもギュッと抱き寄せ。


「エリアス! 久しぶり。元気にしてた?」


「はい、姉様が来るのをずっとお待ちしておりました」


「そうなの? ああもう愛くるしい! 可愛い~」


 と、アルミスは猫を愛でるように頬ずりを繰り返す。


 アルミスそっくりな顔で、アルミスよりも一回り小さい少女。


 ポロは隣にいたサイカの裾をくいっと引っ張り尋ねた。


「サイカ、あの子は?」


「あの方が姫様の妹君であらせられる、セシルグニム第二王女、エリアス・フレイヤ・セシルグニム様だ」


 ポロはキョトンとし、再び尋ねる。


「アルミスの妹? あの子も国名を受け継いだ王女さまなんだよね? なのにどうしてセシルグニムじゃなくエルフの里にいるの?」


「事情があるんだよ。後で説明するから今は口を閉じていろ」


 里のトップが住まう場所で余計なことを口にしたくなかったサイカは、面倒くさそうにポロをあしらうと。



「では、その説明は私からしよう」


 奥で話しを聞いていたエルフが、皆の前に顔を出した。


「フークリフト様!」

「お爺様」


 エルフという種族は皆長寿であり、三百を超えるまでは外見にあまり変化はない。


 祖父と言うにはあまりにも若い外見をしたエルフは、アルミスを見るなりニコリと笑い。


「また一段と大人びたね、アルミス。会いに来てくれて嬉しいよ」


 と穏やかに彼女の頭を撫でた。


「お爺様もお変わりない様で安心しました」


 族長が満足気に頷いたあと、視線をサイカ達に向けると。


「サイカ殿もお元気のようで」


「はっ。 今年もお招き頂き感謝致します」


「して、そちらの皆様が……」


 族長は見定めるように、皆を見渡す。


「お爺様、この方々は私の送迎と護衛を担って下さったお客様です。どうか彼らも歓迎して下さい」


 アルミスは族長を窺うように問うと。


「……ああ勿論だとも。アルミスが信頼する人達なら問題ない。私達も出来る限りのおもてなしをしよう」


 先程のエルフ達のように敵視することなく、優し気な笑みを浮かべポロ達に挨拶を交わした。


「初めまして。私は里の長を務めております、フークリフト・フレイヤ・ベルガンディと申します。何もない場所で退屈でしょうが、どうぞごゆるりとお寛ぎ下さい」


 族長の言葉にアルミスもホッと一息吐くと。

 皆は先導されるまま、客間へと案内された。












 そして木製の円卓に勧められた一同は、先程ポロが疑問に思っていた内容を族長自ら説明した。


「我々エルフと人間、二つの種族の友好関係を築く為に、出来るだけ平等な立場で接するべきと考え、娘のリースライトをセシルグニムへ嫁がせた時に、ロアルグ王と約束したのです。子供を二人生んだ時、一人はセシルグニム、もう一人はエルフの里で育てるとね」


 それが今日まで友好関係を築いてきた条件であり、他種族との橋渡しの証明になるのだった。


「故に、アルミスとエリアスはそれぞれ離れて生活しているのです。二人が顔を合わせるのも年に数回……世間の見方を良くする為とはいえ、我々大人の都合を孫に押し付けてしまった。子に苦労をかけたくはないが、それが今の情勢ですな」


「おじいさま、私は平気です。みんな優しい人達ばかりだし」


 族長は隣に座るエリアスを頭を撫で、彼女も気持ちよさそうに体を擦りつける。


 皆は族長の話に相槌を打ちながら納得する中。


 ポロは窓の外を見ながら何かを窺っていた。


「おいポロ、お前から言い出した話だぞ。よそ見をするな」


「ん、ああ、ごめん」


 隣に座るサイカに叱られ視線を戻すが、意識だけは未だ外のほうに向いていた。


「二人の話は分かったよ。新聞なんかで話だけは聞いていたけど、族長さんも王さまも大変なんだね」


「ご理解頂き感謝します」


「ところで族長さん、実は僕達他にも用があってここへ来たんですけど」


 と、ポロはここで話題を変え、ここに来た目的に触れる。


「ええ、届いた書状は拝見しました。何でも『冥界の谷底』へ入りたいとのことで」


「そうです。立ち入り許可をもらえませんか?」


 すると、族長は難しい顔を浮かべ。


「大変申し訳ないのですが、里以外の者の入山を許可する事は出来兼ねます」


 ポロの頼みは却下された。


「お爺様、ポロちゃんは信頼のおける飛行士の船長です。私が保証します。だから、どうかこの人達を入れてもらえませんか?」


「アルミス、これは先祖代々から受け継がれてきた決まりなのだよ」


「理解しています。ですが……」


「そもそもあの場所の入り口は強力な魔法を施した大岩で塞がれている。里の者でしかその封印は解除出来ないのだ。……そして我々も、先祖からお言葉を頂く場合のみでしか入ることは許されない。こればかりはどうしようもないことだよ」


「そんな……」


 申し訳なさそうにポロを見つめるアルミスだが、ポロは『大丈夫』と首を振って合図を送る。


「分かりました。なら、『冥界の谷底』の入り口までならいいですか?」


 族長は少し考えたのち。


「ええ、でしたら問題はありません。明日、案内の者を寄越しましょう」


 快くまではいかないものの、入り口までの許可を取り付けることが出来た。


 ――けど……ならハジャはどうやって『冥界の谷底』へ入れたんだろう。


 ポロはそう考えていると。


 いつの間にかエリアスが目の前にしゃがんでおり、下からじっとポロを見つめる。


「……なに?」


「ワンちゃん、その耳と尻尾、本物なの?」


「獣人だからね、あとワンちゃんじゃないよ。僕はポロ」


「ポロちゃん!」


 と、エリアスはポロの両耳を掴み顔を摺り寄せる。


「あはは、モフモフであったかい~」


「んん、くすぐったいよ~」


 子供同士のじゃれ合いに夢中になるエリアス。


「こらエリアス、ポロちゃんを困らせないの!」


「あはは、ポロちゃん抱っこしていい?」


 やんわりたしなめるアルミスだが、獣人を見るのが初めてだったエリアスは、童心の気持ちでポロをかまう。


「もう……しょうがないな」


 と、ポロはなすがままにエリアスに抱えられ、外まで連れ出される羽目に。


「近くにお花畑があるの。一緒にいこう!」

「ぅぅ、分かったよ」


 と、渋々承諾しながら。


「…………ん? また」


 ふと、ポロは周囲に視線を向ける。

 先程もそうだが、ポロは何者かに監視されているような気配を感じていた。


 ――少しだけ殺意の感情が漏れてる。今は様子見ってとこかな。


 得体の知れない何者かの視線を警戒しながら、ポロはエリアスの戯れに付き合う事にした。





ご覧頂き有難うございます。

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