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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第五章 エルフの領地、冥界に蘇る幻夢編
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198話 二隻の船は同じ場所へ


 翌日、皆を乗せた魔導飛行船は、エルフの里へと出発した。


「皆さん、本日は私の依頼をお受け頂き誠に有難うございます」


 アルミスは畏まった口調で深々と頭を下げ、護衛送迎を担う皆に感謝を述べる。


「今更畏まらなくたっていいでしょ? アタシ達はもう浅い仲じゃないんだし」


「それに元はと言えば、僕のわがままも含まれてるしね」


 と、リミナとポロは気にするなとアルミスに返す。


「ええ、ポロちゃんの件については、里の族長を務めるお爺様に私から伝えますね」


 今回はアルミスを送迎する見返りとして、彼女の祖父にあたる族長から、『冥界の谷底』へ入る許可を取り計らってもらう事となっていた。


 先人の知恵を借りる為、唯一死者と対話することが出来る場所、それが『冥界の谷底』である。


 本来であれば、里の選ばれた者しか入ることを許されないが。


 しかし今回は王族の、それも身内からの頼みである以上、里のエルフ達も無下には出来ないと予想され、その旨を綴った書状もすでに送っていた。


「なのでおそらく入山は問題ないかと思います。でもポロちゃん、その奥には、この間国を襲った魔導士ソーサラーがいるのでしょう? 本当に大丈夫なの?」


 心配そうにアルミスは問うが、ポロは一切不安のない笑みで返し。


「きっと大丈夫、ハジャは無益な殺生は好まないんだ。僕達を殺す気だったら、初めからセシルグニムで実行しているよ」


 と、不確かながらにポロはハジャを信頼していた。

 まがりなりにも彼はポロの元師匠である為、そこは信じたいと思ったのだ。


 そしてアルミスの挨拶が終わると、彼らは長い空の旅を、各々の思いを胸に過ごしていった。















 一方、時を同じくして、エルフの里へ向かうもう一隻の魔導飛行船があった。


「よぉ、ノーシス、あとどのくらいで着くんだ?」


 その一団は、冒険家稼業を兼業するバルタ一行。


「まだまだ、半日はかかりますよ。少しは落ち着いたらどうです?」


 ポロ達とは別ルートで飛ぶその船には、これから大きな戦闘でもしそうな程の武器が積まれていた。


「落ち着けねえな、『冥界の谷底』にはきっと、ドラゴゼクトの民達が多く住み着いているはずだ。久しぶりに会いてえんだよ」


「……かつて東方に栄えていた竜人王国、ドラゴゼクトですか。あなたは当時幼い子供だったと伺ってますが、民の顔なんて覚えているんですか?」


 ノーシスが尋ねると、「当たり前だ」と鼻で笑い。


「忘れるわけねえよ。国が滅ぶ瞬間をこの目で見ているんだからな」


 過去を思い出し、少し寂しそうな表情を浮かべる。


「失礼、余計なことを聞いたようですね」


「構わねえさ。それに目的はまだあるだろ?」


「『黒の導師』との話し合いですね。レオテルスの話では、四人がかりでもまるで歯が立たない相手だとか」


「ああ、しかもその中にはポロもいたんだろ? 全く、どんな化け物だよ」


 すると、ノーシスは眉を顰める。


「バルタ、あなたはいささかポロ・グレイブスを過信し過ぎでは?」


「逆になんでお前はポロに否定的なんだよ」


「別に……ただ彼の飄々とした態度が気に入らないだけです」


「なんだそりゃ」


「何も考えていないようで、しかしどこか掴みどころのない複雑な一面を持っているんですよ。何より物覚えが恐ろしく早く、子供ながらに飛行士免許を一発合格、数年後には運送ギルドの船長にまで昇格した期待のルーキーだ。それが気に入らない」


「結局お前の嫉妬じゃねえか。個の実力だろ? そんくらい目ぇつぶれよ」


 バルタの言葉にノーシスは不満そうに首を振り。


「まぁ、理由は他にもあるんですが……ともかく僕は彼が嫌いですよ。出来れば会いたくはないですね」


 これ以上話を広げられることを煩わしく思い、飛行船を自動操縦に切り替え、煙草を持って甲板へ去っていった。


「あいつ自分から言い出したのに拗ねやがったぜ」


 と、バルタが呟くと。

 近くにいたグラシエがバルタに尋ねる。


「けど、今回はあの獣人の坊やも同じ場所に来るんだろ? 高い確率でオレ達も鉢合わせるんじゃないのかい?」


「まあレオテルスの情報だとそうだな。だが俺達は、あいつらがエルフの里に滞在している間に『冥界の谷底』へ侵入する。絶対ではねえよ」


 と返しながら。


「俺としちゃ、あいつらの手も借りたいとこなんだけどな」


 いざとなれば戦闘になるかも知れぬ強敵を懸念し、彼らの助力を仰ぎたいバルタ。

 しかしノーシスがその案に消極的である以上、強制することもせず。


「まぁ、俺達だけでも何とかなるか。もし戦闘になっても、こっちにはナナがいるしな」


 奥の席で『テレパスストーン』をじっと見つめるナナに目を向ける。


 その顔はソワソワした落ち着かない表情だった。


「ようナナ、またあの女から連絡が来たのか?」


「来ない……でも、また連絡するって、言ってた。だから、待ってる」


「うはは、嬉しそうだな」


「嬉しい。ルピナスに会うの、五年ぶり」


 先日、久方ぶりに『テレパスストーン』が光り、ナナはルピナスと会話をした。


 その内容は、『冥界の谷底』へ来てほしいという頼み。

 そして、ナナの力を借りたいとの願い。


 ルピナスはかの地にて、未来を変える為の勝負を仕掛けようとしていた。





ご覧頂き有難うございます。

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