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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
幕間【4】先人転生者の時の旅
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192話 いつか訪れる終末 未来の事象


 赤黒く光る地平線、淀んだ空気、地中から吹き出る、黒い霧状の何か。


 そして一番目立つのは、空に浮かぶ巨大な惑星。


 ここいら周辺同様に、薄暗く淀んだ色をした星。


 まるで向こうにもここと同じ世界があるようで……。



 至近距離で浮かぶその星には、一本の光の柱が伸びており。


 それが『世界の支柱』であると気づくのに、左程時間はかからなかった。


 これが、今まで見てきた世界の色とは一線を画した、終わりの世界。


 終焉の世界。




 呆然と見つめる二人に、フォルトは念話で脳内に直接告げる。


『これは今から約二年後の世界だね』


 ――たった二年でこれだけ変わってしまうの?


 直近に迫る未来に驚愕するルピナスは、フォルトに何かを伝えようと口を開くが。

 その声は発することが出来ず。


『おっと、声帯からの言葉は届かないよ。アタシらは今、幽体のような状態だ。この未来の世界にいちゃいけない存在だ。だから物体にも触れないし声も聞こえない。会話をしたいならアタシのように念話で頼むよ』


 そう促され、仕方なくルピナスは念話にてフォルトに伝える。


『フォルトさん、こんな短いスパンでこうも世界は変わってしまうもの何ですか? それに、空に見える巨大な星は……』


『起動したのさ、『エドゥルアンキ』を。そして近隣の、こことは別の発展した星を、世界に四つある『世界の支柱』でそれぞれ繋げている。こうすることで、人は他四つの世界を自由に行き来することが可能になった』


 これがオールドワンの言う、『世界結合』。

 そして、これがその目的の為に犠牲になった世界。


『……人の姿が見えませんけど、皆別の世界へ移住したのですか?』


『う~ん、そういう人もいれば、神に反旗を翻して粛清された人もいる』


『粛清……』


『多くの人族は神に逆らって死んじゃったよ。それに、生き残った者も精神操作を受けて、およそ人とは呼べる者ではなくなったけど』


 ルピナスは愕然とした。

 自分が今までやろうとしてきたことは、こんなおぞましい世界を創ることだったのかと。


 すると、オニキスはフォルトに問う。


『オールドワンは、今どこに?』


『ああ、そうだね。それじゃあ彼らのところまで行ってみようか。この時期だと、丁度取り込み中だけどね』


『取り込み中?』


『行けば分かるさ』


 そう言って、フォルトは【空間の扉(ポータル)】を生み出し皆を別の場所へ移動させた。












 そうして連れて来られたのは、巨大な樹木の根っこに覆われた、城下町の跡地。


『ここって、まさか……』


 ルピナスは見慣れた場所に驚いた。


『そう、ここは元グリーフィル王国さ』


 城も、大聖堂も、かつて自分が使用人として雇われていた子爵家跡地も、全てが地中から突き出た木の根っこに支配され、見る影もない。


『女神イズリスが復活してからこうなってね。今やここは神の社と言ってもいい』


『では、ここにイズリスやオールドワンがいるんですね?』


 オニキスは問うと。


『ああ、もっと近くまで行ってみようか』


 と言って、皆は城のほうまで歩を進めた。












 城門前まで来たオニキスとルピナスは、その凄惨な場面に絶句した。

 そこは、見るも無残な死体が転がる、絶望的戦場。


 そこにただ一人、一人の少年だけがボロボロの状態で立っていた。


 ――ショウヤ…………なんで。


 紛れもない、世界の命運をかけて戦うショウヤの姿だった。


 城の前に立ち塞がるは、ドレスアーマーを着た女性と、その後ろに控える従者と思われる面々。


 その者達全員、ルピナスは知っていた。


 何故ならそこにいたのは、自分を含めた、転生者達だったからだ。


 そして何より、先頭に立つ女性は見間違うはずがない。


 ――エルメル! あなた……。


 ルピナスの親友、自分を地獄から救ってくれた貴族の娘、エルメルだった。


 ――やっぱり……オールドワンに。


 体を乗っ取られた、正確に言えば、あの中にいるのが、オールドワンが崇拝する神イズリスだと、ルピナスは理解した。


 その情景を見ながら、彼らの会話を耳に入れる。


「……ポロを返せ……ライラを返せ……みんなを…………返せよっ!」


 ショウヤは叫ぶ。立っているのもやっとの状態で、目の前の神を睨むのだ。


「ショウヤ、あなたとは短い間だったけど、共に過ごした仲でしょう? あなたがこれ以上抵抗しないのであれば、私はあなたを歓迎します。争いのない楽園へ」


「っざけんな! これだけ人を殺しておいて何が楽園だ! 屍の山に建てられた場所が楽園なもんかよ!」


 彼の周りには、オニキスとルピナスが知る人物も多くいた。


 メティア、サイカ、リミナ、タロス。

 バルタ、レオテルス、ノーシス、グラシエ含むキメラ達。


 皆が地に倒れ、ピクリとも動かぬ中。


 するとエルメルの後ろから、冷たい目をしたポロがショウヤに歩み寄る。


「ショウヤ、君の勇士は買おう。しかしながら、この体はもはやポロのものではない。私が受け継いだのだ。ここで私を殺したところで、ポロは二度と戻ってはこない。諦めろ」


「ハジャぁああああ!」


 その体は、すでにハジャに奪われた後だった。


 もう二度と帰ってこない者達。その中で、ショウヤだけは最後まで抗っていた。


 ハジャに続いて、オールドワンもショウヤに告げる。


「お前だけは私の【呪言】を拒んだ。『力を与える代わりに名を変えろ』という条件を飲まなかった。その結果、お前だけ精神を操れず、同胞の魂を入れる器になり得なかったのだ。ならばせめてイズリス様に忠誠を誓い、我々と共に世界再構成の為、手を貸しなさい」


 ショウヤは唾を吐き捨て、オールドワンに剣を向けた。


「お前らのご立派な信仰心、正直反吐が出るよ。人の命奪っておいて、罪悪感を露程も感じねえお前らに従う気はない」


「綺麗ごとを言うな。少なからずお前も人を殺している。お前が嫌悪する罪を犯しているのだ。今更自分だけ真っ当だと思うな」


「思ってねえよ、許される資格もない。だから言うんだ。同じ立場にいる俺が、自分含めてお前らを真っ向から否定する。殺戮者が牛耳る世界なんてあってたまるか。大虐殺の上で成り立つ楽園なんざ、あってたまるか!」


 ――ショウヤ……。


 間もなく命の灯が消える彼に、ルピナスは心を痛めた。


 絶望しかない未来に、最後の抗う者として彼は立っている。

 多くの者を失って、それでも戦おうとしている。


 これは、そんな未来の終着地点。


 数ある世界線の一つであり、しかしどのルートも必ず行き着く、終わりの道筋だった。





ご覧頂き有難うございます。

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