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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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181話 ショウヤの償い


 日が落ち始めた頃、ポロとショウヤはようやく広場全ての死者を蘇生させる事が出来た。


 その後の介抱などはライラやリミナ、その他救護班に任せ、一仕事終えた二人は地べたにぐったりとへたり込む。


「っぶは! もう無理だ、さすがに疲れたぜ……」


「お疲れ様。ショウヤ大活躍だね~」


 尻尾を振りながら、ポロはショウヤを労う。


「いや、正直お前がいなかったらみんなを蘇生させることは出来なかったよ。それに、これは俺の責任でもあるからな。褒められる事じゃなく、やって当たり前の事なんだ」


 ショウヤは俯き。


「それでも、起きちまった事実は変わらない。人々の恐怖や憎しみは消えないんだ。これは、俺が一生背負っていく業だよ」


 多大な被害を及ぼしてしまった事に、償い切れぬ思いが募る。


 すると、ポロはショウヤの両脇を掴み無理やり上体を起こした。


「でも、町の人達はみんな、ショウヤに感謝しているよ?」


 と、流し目で周囲を見渡すと。


 自分に向けて、何度も礼を述べる者や、神仏のように崇める者まで出てくる始末。


「いや……やめろよ。逆に後ろめたい気持ちが増し増しだよ」


 照れくさそうに、ショウヤは視線を逸らした。


「君は誰も一般民を襲わなかった。どころか、君は彼らからみんなを守ってたんでしょ?」


「たまたまだよ、それに、守りきれなかった」


「それでも、ショウヤがここに来たから守られた人もいる。そんなに自分を責めないで」


 そうポロがなだめていると。



「俺には躊躇なく斬りかかって来たがな」



 突然、二人の話を聞いていたレオテルスが間に入ってきた。


「騎士団長……」

「…………」


 ショウヤは無言でレオテルスを見上げ、そして。


「……悪かったよ。あんたには濡れ衣を着せた挙句に、危うく殺すところだった」


 と、素直に謝罪した。


 だがレオテルスは軽く鼻で笑い飛ばす。


「それはない。俺がお前に殺される事など、万一にもな」


「ああ、そうだよっ! 何ならこっちが死ぬとこだったよ!」


 レオテルスの容赦無用の無い剣を思い出し、あまりにも無謀な戦いを挑んだものだと、ショウヤは改めて痛感する。


「だから謝罪するか迷ったんだよ! あんたの無慈悲な剣にトラウマを植え付けられたんだからな!」


「自分から敵意を向けてきたんだ。全力で狩るのは当然だろう?」


 と、微笑を浮かべながら、レオテルスは続けて言う。


「しかし、まあ、今回はお前の蘇生魔法で幾らか被害は抑えられた。あとは、お前達の首謀者の情報を提供すれば、今回の件は不問にしようと、陛下が仰っている。夜まで休憩したら、洗いざらい知っていることを吐いてもらうぞ」


 いきなりな命令にショウヤは戸惑い。


「……俺は新参者だ、オニキスやルピナスより知ってることは少ないぞ?」


 情報がほしいなら二人に聞けば早いだろうと、ショウヤは返した。


「知っている。だから、形式上だよ。情報提供をすることで、彼らとの縁を切ったという理由付けをするんだ。他の貴族達を言いくるめる為にな」


 首を傾げるショウヤにレオテルスは続ける。


「つまり陛下は、お前を見逃すと言っている。我が国王に感謝しろ」


 回りくどい形式だとショウヤは思いながらも。


 しかし、何の因果もない自国が襲われたにも関わらず、無罪放免にするロアルグ王の懐の広さに、ショウヤは深い感謝を述べた。


 するとレオテルスはぼそりと。


「ユーフ村……だったか?」


 ショウヤの村を口に出す。


「故郷を失った経験は俺にもある。だから、お前の怒りも理解出来る」


 と、レオテルスは共感するように言いながら。


「俺が本当にお前の仇で、かつ俺がお前の立場なら、俺も同じことをしただろう」


 そしてショウヤに慰めの言葉をかけるのだ。


「うちの部下を襲った件は許さないが、それはそれとしてだ。……復興、するといいな。今度はお前の手で守ってやれ。村も、国も」


 絶対口に出さないと思っていた男に慈悲をかけられ、ショウヤは唖然としながらレオテルスを見つめる中。


 それだけ言った彼は、「あとで必ず来い」と一言添えて、城の方へ戻っていった。


「なんだ今の。ツンデレってやつか? 気持ちわりぃ……」


 鞭だけの男が急に飴を差し出したことに、何とも言えないむず痒しさと悪寒がショウヤを襲う。


「騎士団長なりに気を遣ったんじゃない? 悪口言うのやめなよ」


 と、ポロにたしなめられ。


「ああ、分かってるよ。ホント、この国の奴らを見ると、自分の器の小ささが露呈するな」


 内心では彼らに感謝をしていた。

 同時に自分の未熟さも垣間見て。


 ショウヤがしみじみ反省していると、ふと、ポロは問う。


「ねえ、ショウヤはこの後どうするの? ハジャ達とは縁を切るんだよね?」


 ショウヤは間延びをしながらダルそうに返答した。


「ん~そうだなぁ、荒らされた村を立て直さないといけないし、ヴィランテの上層部にも色々報告しなきゃなんねえ……」


 けれど、優先順位は決まっている。


「けどやっぱ、転生者の元締め、オールドワンを叩くのが一番の目標かな」


「オールドワン?」


「グリーフィルの貴族で、軍師で、聖教会の大司教もやってるマルチな男だよ」


「聖職者なのに軍師もやってるんだ……」


「俺も一度しか会ったことないから詳しくは知らないけど、各国で戦争を起こしているのはそいつの影響が強い。『世界を統一する為には仕方のない事だ』とか言ってな」


 グリーフィルの噂はポロも新聞などで情報を得ていた。


 しかし、その指揮を下しているのが転生者関連の者だと分かると、ポロは他人事では済まないだろうと、難しい顔を浮かべた。


「だから俺はグリーフィルと敵対することになる。もう二度と、俺の村と同じ悲劇を繰り返さない為にも」


 固い決意を見せるショウヤに、ポロも頷き。


「何かあったら僕にも声をかけて。助けに行くからさ」


 ニコリと笑うポロにショウヤも頷く。




 途端、「あ、そうだ」と、ショウヤは思い出したように腰に下げていた巾着袋を取り出した。


「忘れる前に渡しとくよ」


「これは?」


 重みを感じる袋を受け取り、ポロはキョトンとした表情で返すと。


「金貨十枚。貸しだったろ? 多分それくらいは入っているだろうから貰ってくれ」


 ポロ自身忘れていた口約束を思い出し、笑った。


「冗談で言ったのに……真面目だね~」


「冗談だったの?! 俺あれからすげえ頑張って稼いだのに?」


 と、驚くショウヤに「けど貰っておくよ」とポロは返した。


 内心もう会う事はないだろうと思っていたショウヤに会えて、守らなくてもいい約束を律義に覚えていた事を、ポロは嬉しく思い。


 数ヶ月の時を経て、あの日の約束が、今果たされた。





ご覧頂き有難うございます。

次回で第四章完結です。

これからもお付き合い頂けると大変嬉しいです。

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