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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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179話 戦いが終わり


 天災級の力を持つ導師、ハジャが消えたあと。


 彼が召喚した複製型フェンリルも、灰の如く消し炭となって消え去った。



 ルピナスが操っていた魔物も彼女の元へ回帰し、町で暴れていたゴーレムも全て彼女が機能停止させ。


 そして、サイカ率いるセシルグニム騎士団が残りの残党を捕らえ鎮圧。


 セシルグニムに、ようやくひと時の平和が戻った。




 しかし失ったものは大きく、住居の全壊、延いては家族や恋人を亡くした者の悲しみは計り知れない。


 と、皆が悲しみに暮れる時、ショウヤが言った。


「亡くなった人達を、一カ所に集めてくれないか? もしかしたら、助けられるかもしれない」


 一度はショウヤもこの国の敵であった。


 半信半疑は当然、信用などされるはずもない。


 だが、それでも、悲しみを負った人はすがりたかった。


 わずかでも希望があるならばと、遺族は懇願する。


「騎士団長、僕もショウヤを信じたいんだ。何かあったら僕が責任を取るから、任せてもらえないかな?」


 と、レオテルスにポロも頭を下げ頼み込む。


 レオテルスはしばらく考えた後。


「君が責任を取る必要はないよ、ポロ船長。何かあったら、俺がこの男を斬り捨てるまでだ」


 仕方なくといった様子で、レオテルスは兵士らに亡くなった者の遺体を運ばせるよう命じた。


 町民の強い期待を無下にも出来ず、無闇にショウヤを処刑する選択肢はなく。


 同時に、レオテルスは転生者の二人にも筋を通さなくてはならない為、短絡的な判断を下すことは出来なかった。


 レオテルスはオニキスに視線を移し、告げる。


「……逃げずにこの場に残った事、そして此度の協力に免じて、今回限り、一度限り、お前達を見逃そう」


「そうか、助かるよ」


「だが次に相まみえた際は、容赦なくその首を刎ね飛ばす。ゆめゆめ忘れるな」


「……肝に銘じるよ」


 オニキスは引き攣った笑いで返し。

 そして一つだけ、願いを述べた。


「少しだけ、前働いていた店に寄ってもいいかな? 忘れ物をしたんだ」


「監視付きなら許可しよう」


 オニキスは「ありがとう」と一言告げ。

 数人の騎士に囲まれながらその場を後にする。



 皆が彼を見送りながら、ふと。


「ちょっとオニキス! 私を置いて勝手に行かないでよ!」


 雰囲気のままにオニキスを眺めていたルピナスが、不安そうに叫んだ。


 実質、彼女はハジャよりも戦闘員達に指示を出していた指揮官であり、町の損害責任は彼女に向けられる。


 当然敵陣に囲まれた状況を心地よく思うはずはない。


 ならば、特に理由はなくともオニキスにくっついていたほうが安心だと、ルピナスはオニキスの後を追って走り出す。


 と、その時。


「ルピナスッ!」


 奥で、ショウヤの叫ぶ声が聞こえた。


 彼女はビクリと背筋を凍らせる。


 声質的に怒っているのは明白。


 敵だらけの中、抵抗する事など愚の骨頂であり、敵うはずもない。


 恐る恐るショウヤに顔を向けると。


「ちょっと面貸せよ」


 ――やっぱり怒ってる?


 予想通り過ぎる展開に、冷や汗が止まらぬ中。

 重い足取りでショウヤの元まで歩み寄ると。


「ライラにかけた『死霊術ネクロマンシー』を今すぐ解け」


 予想していなかった言葉が出た為、ルピナスはポカンと呆気に取られた。


「え……でも、それを解いたらライラちゃんはまた……」


「いいから言う通りにしろ。ライラをお前の傀儡にしてたまるか」


 当然ルピナスが術を解けば、『死霊術ネクロマンシー』で括っていたライラの体と魂は分離し、再び死を迎える。


 それを理解したうえで自分に命令してくるショウヤに、彼女は疑問を抱いた。


「私に操られるくらいならいっそ、楽に死なせてあげようってこと? あの時は、あなたを従わせる為にやっただけで、今後ライラちゃんをどうこうしようって気はないわよ?」


「そういうつもりで言ってんじゃねえよ。お前に借りを作りたくないってのもあるし、今後一切お前らと繋がりを持ちたくないって意味もある」


 そう言いながら。


「何より、これから試す『蘇生術リザレクション』に、お前のかけた魔法が邪魔なんだよ」


 ルピナスは目を丸くした。


「は? 『蘇生術リザレクション』なんて……そんな、神聖魔法を極めた聖職者でも使えるのはごく一部の希少な大魔法よ?! それがあなたに使えるって言うの?」


「だから、それを今試すんだろうが」


 ショウヤの持つ能力、『神言獲得術オラクルオブテイン』は、神に願いを申し立て、その後お告げと共に欲しいスキルを譲渡してくれる力。


 その長所を活かしてショウヤは願った、というより命じた。


 自分の手で、ライラを蘇生させる力を寄越せと。


 でなければすぐにでも俺は自害し、お前の願いは一生叶わなくなると。


 神を脅した。


「俺の中には一応、神様と名乗る奴がいてな。そいつは自身の復活を望んでいるんだ。それを叶える為なら俺に協力を惜しまないと、そんな景気の良い事を言ってきたから利用させてもらっている。……だから正直、本当に俺が使えるのかは分かんねえ」


「けど……」とショウヤは続ける。


「大事な人を失った時の気持ちは俺にも分かんだ。それを、俺が少しでも救えるなら、試してみたい。……ライラ、いいよな?」


 隣にいたライラは迷うことなく頷いた。


「はい、この身は生涯、あなたに捧げております。私はいつだって、ショウヤ様を信じます」


 そんな二人を見ながら。


「……妬けるわね」


 ルピナスは軽い皮肉を漏らし。


 ショウヤの要望通り、彼女はライラにかけた『死霊術ネクロマンシー』を解いた。





ご覧頂き有難うございます。

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