17話 アーク級
上位戦士級の魔物である土流蛇を次々と狩るポロ。
そんな彼を見つけたメティアは、不機嫌な様子で彼の元へ近寄る。
「ちょっとポロ、なんであんたがいるのよ! お姫様はどうしたの?」
「僕の部屋で待機させてるよ。何だかんだ船の中が一番安全だしね」
「だからって船長のあんたが出張らなくてもいいでしょうが!」
と、メティアはポロに怒鳴るが。
「僕の目の届かない場所で、僕の仲間が死ぬのは嫌だから」
至極真っ当な言い分でポロは返す。
「私はあんたが心配で――」
そう言いかけた時、メティアのすぐ後ろで地面をえぐりながら這い出る土蛇が一体。
メティアは舌打ちをすると、土蛇に背を向けたまま短剣を構え、武器に魔法を付与する。
「【風精の刃】」
すると、真空の刃が短剣の刃先に集まり、まるでロングソードのような長物を形どる。
「邪魔すんじゃないよ!」
そして背面に向かって一薙ぎ。現われ出でた土蛇は攻撃をする暇もなく真っ二つに両断された。
「ったく、ここは龍の巣でしょ? なんでこんなに蛇が湧くのよ」
溜息交じりに愚痴を漏らす彼女を見ながら、ポロは静かに頷く。
「うん、ここはメティアに任せても大丈夫そうだね」
「当たり前でしょ、だからポロは中に入って……ちょっと、ポロ?」
メティアが話し終える前にポロは歩き出し、他の船員が応戦している場所を探す。
「僕は他のみんなを見てくるよ。メティアはこの場所をお願い」
そう言って、ポロは跳躍しながら離れて行った。
「もう! 全然聞いてくれないんだから……」
「シャアアアアアッ!」
「やかましい!」
空気を読む気のない土蛇に八つ当たりをしながら、メティアは周囲の魔物を掃討する。
メティアのいる場所の反対側では、タロスが複数の土蛇を相手取っていた。
先端に刃を付けた『銃剣』を構えながら、無駄のない動きで土蛇を仕留めてゆく。
放たれる銃弾は的確に急所を突き、接近してきた相手は先端の刃で穿つ。
実に事務的な作業で淡々と魔物を狩るのだ。
身体スキル【錬気】によって、自身の霊魂から、作り物の体に気を流し込む技。
これによりタロスは身体能力、武器の威力を向上させ、殺傷能力を高めていた。
戦闘慣れしている者なら誰しもが扱える初歩スキルだが、タロスはその熟練度が並外れていた。
遠距離攻撃である銃の弾丸にも気を流し込む事ができ、その一発は岩をも貫通する威力である。
加えてゴーレムの体に疲労はなく、長期戦にも余裕で対応出来る。
その様子を上空から見ていたポロは、彼の元へ舞い降りた。
『……ポロか、船の中にいたんじゃないのか?』
「みんなが頑張ってるのに僕だけ待機してるなんて出来ないよ」
『そうか』
簡潔に受け答えをするタロスを見ながらポロは素直な称賛を添える。
「それにしても、やっぱりタロスは強いね~」
『俺はただの経験の力だ。センスで言えばお前のほうが余程強い』
「君に言われると素直に嬉しいな」
ポロは尻尾を振りながらタロスに返すと、二人は同時に周囲を見渡す。
「この数だと、どれくらいかかると思う?」
周りにはざっと三十体程の土蛇の群れ。並みの冒険家では手に負えない数ではある。
『他の船員を庇いながら戦うとして、小一時間程度だろう』
と、タロスは冷静に状況を分析する。
「それじゃあ手分けして殲滅しようか」
そう言って、ポロとタロスは互いに背を向け、戦場を駆け抜けた。
しばらくした頃、ようやく魔物の群れは全滅した。
辺りには蛇の死骸が散乱する。
皆は飛行船の前に集まり一息ついていると。
「【霊魂浄化】
死屍累々の戦場でポロは祈りを捧げ、土流蛇の霊魂を浄化した。
体内に集約させた土蛇の霊魂を光の粒子として一気に放出させる。
すると、その反動でポロは力が抜けたように地面に倒れた。
「ポロっ!」
メティアは心配そうにポロに駆け寄りそっと抱きかかえる。
「まったくもう……光属性が苦手なのに毎回浄化魔法を使うんじゃないよ」
心配そうに頬ずりをしながら、力なく発するポロの言葉に耳を傾ける。
「……クル姉なら、きっと同じようにするだろうから」
と、姉の名を出すポロにメティアは複雑そうな表情を浮かべた。
「……クルアなら、自分の弟が無茶をする姿なんて見たくないと思うけどね」
「ふふ、そうかもね」
などと疲れた様子で笑いかける。
そんな時だった。
魔物を殲滅して心にゆとりが生まれた皆の元に、血を這いずる巨大な何かが接近した。
それは人型の上半身に、蛇型の下半身をくっつけたような異形の姿。
その姿が目に入った時、メティアは凍り付いたように驚愕する。
「う、うそでしょ? この地には上位戦士と熟練者しか確認されてなかったはずなのに……」
恐怖により、絶望感が煽られる。
「半人半蛇獣……なんで……統治者級の魔物がこんなダンジョンの入り口にいるのよ!」
かつて実在したとされる伝説の魔人、エキドナ。
その姿に酷似していた為その名が付けられた大型の魔物。
人間の女性を模した上半身をしているが、人族との意思疎通は出来ず、ただ捕食対象として人を襲う、凶悪な化け物である。
彼らの前に立つと、突如エキドナビーストは両手を掲げ、突如何もない空間から黒々しい渦が発生させる。すると、中から巨大空蛇が数体現れた。
さらに地面からも、全滅させたはずの土流蛇も数体顔を突き出す。
その光景を見て、タロスは呟いた。
『なるほど、今日はやけに蛇型の魔物に遭遇すると思ったら、こいつの召喚魔法か』
つまりはこの地に降り立つ前、上空からすでに監視されていたということ。
油断していた彼らの前に、さらなる脅威が襲い掛かる。
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だいぶ余談ですが、本編に名が出たクルアという女性は別作品、『世界管理事務局社員の出張クエスト』に登場したクルアと同一人物です。
天上界で元気に事務仕事をしつつ、その傍ら義弟の幸福を願っているみたいな、そんな感じだと思います。