178話 黒の導師戦 決着
ポロ達が最終局面を迎える傍ら。
メティア達もまた、因縁染みた狼王を討つ為死力を尽くす。
フェンリルを叩き付け、その頭上に立つ彼女ら。
メティアはフェンリルに武器を構え、告げる。
「あんたはオリジナルじゃない、ただの絞りカスなんだろうけどね、その面見てるとムカっ腹が立つんだよ、自分に」
そして風魔法を付与した剣でフェンリルの眼球を突き刺し。
「悪いけど、あの日討てなかったクルアの仇、ここで討たせてもらうよっ!」
そのまま剣でフェンリルの皮膚をえぐりながら、重力に従って落下する。
片目を潰されたフェンリルは怒りの咆哮を放ち、メティアを噛みつこうと口を大きく開けると。
「【憤慨の斬波】!」
そのタイミングで、リミナは口内目がけて気の斬撃を撃ち当て。
体内に直撃したフェンリルは、たまらず地響きを起こしながらのたうち回る。
だが、弱体化したとて『原初の魔物』をベースとして生み出された複製型フェンリル。
そう簡単には倒れてくれない。
「グルルルッ!」
唸り声を上げ、鋭い爪は地をえぐる。
全身全霊をかけて、彼女達を喰らい尽くす為。
と、そこへ。
「【超刃爪術】!」
フェンリルの側面から、爪による斬撃を放つミーシェル。
「こっちの援護に回るニャ!」
「ミーシェル……」
ミーシェルもフェンリルの脅威は理解していた。
巨大な爪も牙も、一度でも直撃すれば即死だろう。
フェンリルに隙を与えてはいけない。
故に、攻撃を止めてはいけないのだ。
「支援魔法はミーシェに任せるニャ。メティアとリミナはガンガン攻めて」
「分かった、援護は任せるよ」
「ありがと、ミーちゃん」
気を休めず、手を止めず、反撃を許さず。
彼女達はフェンリルに食らいつく。
その離れで、三人の猛攻を眺めながら、ルピナスは気が進まなそうに呟いた。
「はあ……やっぱり、私もやらないとダメよね?」
渋々腰に下げたカードケースから一枚のカードを取り出し。
「【炎龍サラマンダー】、フェンリルを滅しなさい。……一応、彼女達に危害は加えないように」
炎を纏った巨大なドラゴンを具現化し、三人の援護に回る。
「……オニキス、さっさとハジャ様を倒しなさいよね」
ぼそりと漏らし、奥で戦う四人を見つめる。
「負けたら、承知しないから」
そして渦中にいる彼らは。
たった一人を相手に、四人総出で斬り込んでゆく。
「ふむ、さすがに四人を相手にするには条件が悪過ぎるか……」
そう言いながらもハジャの動きに迷いはなく。
魔導士とは思えぬ身のこなしで一人一人の剣を躱し、受け止め。
「【黒蝕み】」
触れた相手の武器を腐蝕魔法で灰にしてゆく。
ハジャの武器に触れたオニキスとレオテルスの剣は瞬く間に灰と化すが。
しかしその戦法はオニキスこそ得意とする分野であり。
「ようやく掴んだ」
武器を破壊された瞬間、オニキスはハジャの持つステッキと短剣を両手で掴み。
ドロリと、液状に溶解した。
「ほう、やるな」
と、称賛しながらもハジャはオニキスを蹴り飛ばし。
その一瞬の隙に手の平から魔法を放つ。
「【破裂空弾】」
「っっ!」
至近距離にいたオニキスとレオテルスは空間爆破の直撃を受け、凄まじい風圧に吹き飛ばされた。
そして二人の距離を離したハジャは、再び広範囲魔法を詠唱すると。
「カタストロ――」
「させるかよっ!」
寸前でショウヤは魔剣を投擲し、ハジャの胴体を貫いた。
「…………ショウヤ」
不意を突かれたハジャは彼に目を向け、そして自身に刺さる魔剣にそっと手を触れる。
「イズリス様の所有物を壊すのは抵抗あるが……」
そう呟きながら。
「【無慈悲なる粉砕】」
瞬間、ハジャに刺さっていた魔剣は粉々に砕け散った。
「マジかよ……神話武器だぞ?!」
ショウヤが呼び寄せた魔剣は、この世界の如何なる物質よりも硬度のある神の領域。
それをいとも容易く砕かれ驚愕するショウヤだが。
「ま……いいか」
ハジャの気を一瞬でも逸らせれば儲けものと割り切る。
その一瞬の間に、ポロはハジャの眼前まで潜り込んでおり。
「【烈波爪術】」
力を込めた片腕を振り、強力な爪の斬撃で一薙ぎした。
強化魔法を施したポロの一撃は今までの比ではなく。
そのひと振りで、ハジャは上空まで吹き飛ばされる。
「……これが天王を吸収した力か」
斬撃を浴びた箇所から黒いマナが溢れ出し、自身の体が限界だと告げていた。
おそらく今回の任務は失敗に終わる。
セシルグニムの崩落は、最強の騎士と、Sランク冒険家と、優れた飛行士と、高ステータスの転生者と……。
そして、目まぐるしく成長を遂げた愛弟子によって阻止されるのだろう、と。
対して、ハジャは笑うのだ。
「はは……ははは……」
人は窮地に立たされて尚、抗う意志を持ち続けられるのだと。
彼らを通じてその証明が成された事に、純粋な喜びを感じて。
ハジャは空中で【暗黒障壁】を生成し。
同じくにポロも【暗黒障壁】を足場にして、彼と向き合う。
「終わらせるよ、ハジャ」
「もう少しお前の成長を見ていたい気もするが……そうだな、私の負けだ」
穏やかな笑みを浮かべるハジャに。
風を切り、武器を構え、ポロは空を駆ける。
「【獣爪連撃】!」
高速の連撃で、分身体の体を細切れに斬り刻む。
その刹那。
「ポロ……もしもお前が自分の過去を知りたいと望むなら、『冥界の谷底』へ来るといい。そこで全てを話そう」
飛散する中、最後にそう言い残して。
ハジャは砂粒程度の微粒子となって、風に舞った。
セシルグニムにはびこる脅威が、完全に消えた瞬間だった。
ご覧頂き有難うございます。
あと数話で第四章が完結します。
その後、幕間を挟みまして第五章へと進む予定です。
これからもお付き合い頂けると大変嬉しいです。