177話 総力戦【3】
ミーシェルの加勢により、皆は身体能力と共に士気も向上。
ハジャの気分次第で生死の決まる戦況が、ひっくり返った。
「付かず離れず私に剣を振るうか、レオテルス・マグナ。魔導士との戦いをよく熟知しているじゃないか」
詠唱する隙を与えず剣を振り続けるレオテルスに、ハジャは一糸乱れず杖でその斬撃をいなす攻防戦。
「魔法を使われると厄介だからな。お前に暇を与えない」
「だがジリ貧だ。この状況では君もスキルを使えまい。決定打に欠ける持久戦になるが?」
その剣戟の中で、レオテルスの剣筋はさらに研ぎ澄まされ、徐々にハジャを追い込んでゆく。
「別に俺がトドメを刺す必要はない。俺達は足止めで十分だ」
と、レオテルスが言うと。
サイドからオニキスもハジャへ斬りかかった。
「ハジャ様、僕は世界の行く末を知りたい。真実を知りたい。だからこれ以上、あなたの戯れに付き合っている暇はないんですよ」
両サイドからの斬撃に手数が足らぬと判断したハジャは、懐から短剣を取り出し、二人の攻撃を受け続ける。
「戯れ……か、たしかにそうだな。ならば私の道楽を脅かす程の力を示してみせよ」
ハジャが得意とする戦術は主に魔法。
だが、その動きを封じられて尚、力を弱体化されて尚、戦士二人と互角に渡り合える彼を見て。
今までは本当に遊び半分だったのだと思い知らされる。
「たかだが十年、二十年生きた程度の君達では分からんよ。悠久の時間とは、なかなかに退屈なのだ」
などと、呼吸一つ荒げる事無く、短剣とステッキ、そして足技で二人に反撃を繰り出す。
二人に回し蹴りを食らわせ距離を取ると。
その隙に魔法を唱えようと魔力を高める。
が。
「【聖戦武器召喚】」
背後から幾つもの神器を召喚したショウヤにより妨害される。
「む……!」
体に突き刺さる魔剣、魔槍に、ハジャは詠唱を中断した。
「ハジャ、お前が多対一を選んだんだ。まさか卑怯だなんて言わねえよな?」
遠隔操作でハジャに刺さる神器を抜き取り彼に尋ねるショウヤ。
「ああ、二言はないとも。しかし、相手をするのは君達三人だけなのか?」
ハジャが問うと。
「四人だよ」
と、奥から吹き溢れる魔力を内包したポロが近づいて来た。
アダマンタイトの爪を装備し、ほとばしる魔力をそのままに。
「【獣神解放】!」
詠唱と共に、ポロは身体強化魔法を付与した。
体中から溢れる、紫焔色に光るポロの魔力。
先の化け物と化した姿よりも落ち着いているが、それ以上の圧力が小さな体に凝縮している。
「ハジャ……終わらせるよ」
「はは、お前を見ていると退屈しないな」
四人の強者に囲まれるハジャは、焦燥感ではなく高揚感に浸る。
――オールドワン、地上に生きる者も、捨てたものではないぞ。
そう心の中で呟きながら。
主人の危機を察知したフェンリルは、ハジャを守ろうと弱体化した体を起こすが。
「あんたの相手は…………」
「アタシ達だっつーの!」
腰を上げる寸前で、メティアとリミナは頭上から奇襲を仕掛け。
直撃したフェンリルは再び地に突っ伏す。
「ポロっ!」
離れた位置から、メティアはポロに叫ぶ。
こっちは自分が引き受けたと、そう目で訴えて。
ポロは静かに頷くと。
「ミーちゃん、こっちは僕達に任せて、メティアとリミナの加勢に行ってあげて」
戦闘態勢万全だったミーシェルに、ポロは命じる。
「……了解したニャ、ご主人。ご武運を」
「うん」
後ろ髪惹かれる思いに駆られながらもポロの命に素直に従い、ミーシェルはメティア達の加勢に向かった。
そしてポロ達も決着をつけるべく、ハジャへ総攻撃を仕掛ける。
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