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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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174話 オニキスの決意


 ポロとショウヤが二人がかりでハジャと交戦する最中。


 ハジャは奥で立ち並ぶオニキスとルピナスを見やり、「ふむ」と一言。


 そしてハジャは、猛攻するポロとショウヤに向けて魔法を放った。


「【狂信者の強襲(ファナティックレイド)】」


 突如両の手から突出した黒い刃が二人を貫き。


「がっ……!」

「ぅぅ……!」


 外傷はないが、二人は途端にその場に倒れ、刺された胸を押さえ苦しみだした。


「安心しろ、しばらくすれば痛みは引く。野暮用が出来たのでね、少しの間、そこで休んでいるといい」


 そう言って、ハジャは動けぬ二人をそっちのけで、オニキス達へ歩み寄る。


 常人ならば立つこともままならない程の殺気を放って。


 当然ハジャに殺意はない。


 しかし確かめたかったのだ。彼らの覚悟が本物かを。


 途端に逃げ出すか、はたまた抵抗するか。


 そのどちらも実行しない二人を見て、ハジャは無言で殺気を静めた。


「……話があるのだろう? でなければ、わざわざ君達が私の元まで来るはずがない」


 と、主にオニキスへ向けてハジャは問う。


「聞こうか。オールドワンと違い、私は寛容なほうだよ」


 冷や汗を垂らしながら、オニキスは見透かされていると知りつつも、その口を開く。


「裏切るつもりは……今のところありません。ただ、しばらく休暇というか、僕らを見逃してはもらえませんか?」


「見逃すなどと、聞こえの悪い言い方をしなくていい。私に牙を向けなければ手は出さないさ、基本的には」


「なら、基本から逸脱した理由ならば?」


 わずかな沈黙があった後。


「言ってみなさい」


 再びハジャは問いかける。


「『時空の暴流』へ向かいたいので、その許可を頂きたいのです。ルピナスと共に」


 その言葉で、ハジャは彼が何をしたいのかを理解した。


「カザミに何か吹き込まれたようだね」


「ええ、けど、あなたは容認した。自分の持ち場であるはずの『冥界の谷底』に立ち入ることを僕に許可した。つまりは僕の行動も予期していたのでしょう?」


「買いかぶるなよ。私は要領良く生きれないだけだ。現にだ、君がカザミに接触しようとしていた事は予想出来たが、その後、オールドワンの命令を無視してこの国に来たことは読めなかったさ」


「ご謙遜を……」


 互いに思ってもない言葉を言い放ち、互いに相手の出方を見る二人。


「理由は何であれ、あなたは僕の粗相を黙認した。それは、これから僕がする事も許容の範疇だと捉えていいのでしょうか?」


「内容次第だな。では聞こう。君は何故『時空の暴流』へ行こうと思い立ったのか」


 返答次第では武力行使に出るかもしれない。

 その恐怖はあれど、オニキスは臆さず答えた。


「ハジャ様、それにオールドワンも。あなた達は、僕ら転生者に全てを話していないでしょう? 何故『世界の支柱』を僕らに守らせ、『エドゥルアンキ』を起動させようとするのか」


 ハジャに反応はなく、そのまま続けろと目で訴える。


「あなた達の言う、『世界結合』……それを成し遂げる事に何の意味があるのか。そして目的を遂げたあなた達は、僕達転生者をどうするのか。それを知る為に行くんです。二人目の転生者、百年近く経った今も生き続ける時の魔女、フォルトさんに協力を仰いで」


「ちょっとオニキス、言葉を選んで……!」


 隣でソワソワしながらオニキスをたしなめるルピナスだが、彼は構わず続けた。


「実際のところ、用済みになった僕らをどうする予定ですか? 見返り無く僕らに強大な力を与え、事が済めば元の世界に帰るなりこの世界に留まるなり好きにしていいと、そんな慈善活動をあなた達が良しとするとは思えない」


「オニキスッ!」


「タダより高いものはない。無償の譲渡を疑う気持ちはごく自然だと思います」


 建前でお茶を濁すことはせず、オニキスは本心からハジャに問い質した。


 たとえここで殺されても、己の信念は曲げないと、固い決意を以て。


「は、はは……ははは」


 ハジャは笑った。


 馬鹿にするでもなく、怒っているわけでもなく。


 ただ単に、オニキスの啖呵が気に入ったからだ。


「なかなか肝が据わっている。まあ、だからこそ、私は君の行動を容認していたわけだが」


 素直な称賛をオニキスに贈り。


「いいさ、好きにするといい。何なら私からフォルトに取り計らってあげよう。君達に協力するようにと」


 彼らへ助力を約束した。

 だが。


「ただし、この場を乗り切ってからにしなさい」


 突如、ハジャの体からおびただしい闇のマナが溢れ出す。


「元々今回の作戦は、私一人で片づけられるとオールドワンは踏んでいた。ルピナスを含めた部下達を連れてきたのは、彼らの実力と忠誠心を推し量るつもりだったのだ」


「ハジャ……様?」


 その魔力量に、青ざめた様子で見つめるルピナス。


「だから私は君達を責めたりはしないよ。その代わり、現時点をもって君達はオールドワンの意向に背いた反逆者トレイターだ。せめて形だけでも、君達に相応の処分を下さなければならない」


「『ここを通りたければ俺を倒して行け』……みたいな理由ですか?」


 呼吸を整え、オニキスは問う。


「君のいた世界の言葉はよく知らないが、君の思うように理解してくれて構わない」


 ハジャもまたステッキを構え、今度は本物の殺気を見せた。


「君達には幸いだが、この場には私の敵対者が大勢いる。彼らと上手く結託して私を退けてみなさい。そうすれば、多勢に無勢で敗退したと、私はオールドワンに上手く言い訳が出来る」


 ビリビリ伝わる禍々しい波動に飲まれながらも、二人は武器を構えた。


「まあ、共闘もままならない烏合の衆に、それが出来るとは思えんがね」





ご覧頂き有難うございます。

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