173話 中心地に集まる者達
ポロとリミナはそれぞれ構え、対峙するハジャに双方から攻撃を仕掛けた。
「【突風穿ち】!」
リミナはハルバードを突き立て刺突を見舞うが。
直前でハジャは空中に飛び上がり攻撃を回避される。
だが、すでに空中にはポロが待ち構えており。
二体の分身体を生み出し、それぞれの腕に狼の顔を模した黒い影を生成。
「【三頭犬の牙】!」
ハジャの頭上目がけて、黒狼の牙を叩き付けた。
「む……」
直撃を受けたハジャは地上に落とされ。
同時に、武器を構えていたリミナの追撃を食らう。
「【風斬大旋風】!」
風魔法を付与したハルバードを振り回し、斬撃纏う竜巻を発生させた。
竜巻に飲まれたハジャは、無数の刃に斬られながら再び浮上し。
その上空では、【女王蜘蛛の糸】で生成した柔軟性のある障壁を乗り継ぎ、自身のスピードを加速させているポロの姿があった。
リミナの竜巻は、丁度ポロが捉える軌道に合わせており。
竜巻が消えると同時にハジャの懐目がけて、ポロは黒爪を立てながら突進した。
「【百中犬の爪】!」
ハジャの胴体を貫く勢いで飛びかかった突進は。
しかしながら彼の手に持ったステッキにより致命傷を避けられた。
「悪くない連携だ。私にとって十分な脅威と言えよう」
「っああああああああ!」
称賛を贈るハジャの言葉を聞き流し。
ポロは加速したまま下降し、町の噴水場へハジャを叩き落とした。
反動により跳ね上がる水流。その中から、彼が現れる瞬間を狙おうと黒爪を構える。
だが、ハジャは水面から顔を出さず……。
不思議に思ったポロは、警戒しながら噴水場に近づくと。
その瞬間、背後から電光石火の如くフェンリルが接近し。
「っっ! しまっ……」
反応が遅れたポロは、フェンリルの巨大な前足で薙ぎ払われた。
そのひと振りで吹き飛ばされたポロは、周囲の大木に叩き付けられ。
木がへし折れる程の衝撃に、吐血しながらその場に倒れる。
弱々しく見つめるポロの視線の先で、ハジャはゆっくりと水面から起き上がった。
「最後まで油断するなと、何度も教えたはずだぞ、ポロ」
と、ずぶ濡れのハジャはポロに説く。
ポロとリミナによる連撃を幾度も浴びせられたにもかかわらず、まるで体力の消耗を見せないハジャ。
分身体の特性か、はたまた元からのステータスか。
いずれにしても、尋常ではない。
だが、それでも。
よろめきながらポロは立ち上がる。
仲間を守る為、セシルグニムを守る為。
越えなければならない壁なのだと、そう思い。
すると、奥からフェンリルに接近するメティアとリミナの姿が目に入った。
「【風精の刃】!」
「【四閃斬撃】!」
彼女達はフェンリルの背に乗り、全力の一撃を与える。
ポロから注意を逸らす為に。
さらに二人に後続して、突如ハジャの上空から巨大な隕石が振り落とされる。
「【隕石召喚】」
傷の癒えたショウヤが神器の大剣に乗り、ハジャの頭上に向けて魔法を放ったのだ。
寸前でハジャは回避するが、彼の進行方向に先回りしたショウヤは、自身が乗っていた大剣を手に持ち替え、力の限りハジャに振り下ろした。
「……もう戦闘復帰出来るのか。早いな」
「お褒めに預かり光栄だよ!」
大剣をステッキで受け止められるも、ショウヤはゴリ押しでハジャに斬りかかる。
「みんな……まだ……」
と、ポロは呟いた。
いかに目の前の導師が強かろうと、強大な魔物が襲い掛かろうと。
誰一人、諦めてはいなかった。
一人でダメなら二人。二人でダメなら四人。
それでも足りないなら……。
ポロがそう思っていると。
「【斬空烈波】」
期せずして、国最強の騎士が援護に駆け付けた。
レオテルスの高速連撃は、フェンリルの巨体を怯ませる程の威力を持ち。
深い傷を負った狼の王は、地面に転がりのたうち回った。
「騎士団長さん……」
「皆、よく敵を食い止めてくれた。礼を言おう」
そう言うと、レオテルスはポロに視線を向けた。
「ポロ船長、この魔物を片付けたらすぐに援護に回る。それまで、もう少しだけ耐えてくれるか?」
是非もないとポロは頷き、ショウヤと共にハジャとの交戦を再開する。
しかし、当のハジャは二人を横目に、視線は奥にいる二人を捉えていた。
「……オニキス、ルピナス」
二人がここに来た理由は分かっている。
決別しようとしているのだと。
オールドワン率いる軍を抜けて、自らの足で真実を探そうとしているのだと。
二人の転生者を見つめ、そう理解した。
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