172話 師弟対決
真っ直ぐ自分を捉えるポロの圧力に、ハジャはそっとメティアの首から手を放した。
恐怖心からではなく、興味本位で。
「良い頃合で目を覚ましたな、ポロ。もう少しでお前の仲間を殺めるところだった」
咳き込むメティアにポロは駆け寄り、ギュッと彼女を抱きしめる。
「メティア、肩、痛かったよね? 噛みついてごめん、僕のせいで、ごめん」
謝罪するポロの頭をメティアは優しく撫で。
「いいよ、こんなのかすり傷さ。それより、あんたが元に戻って本当に良かった」
未だ罪悪感に苛むポロに、彼女は自分の頬を向ける。
「ん。じゃあ仲直りの印、やって?」
「……うん」
彼女に要求され、ポロはそっとメティアの頬にキスをした。
「これでこの話はおしまい。いや、あとで詳しく聞くけども! もう気にすんなって意味でのおしまい」
「ありがとう。じゃあ……ちょっと待っててね」
そう言って、ポロは再び立ち上がる。
近くではハジャと一戦交え負傷したショウヤがいる。
メティアに加え、ショウヤまでも、自分のせいで傷を負ったことに、ポロは自身の未熟さを痛感した。
「二人共、僕の為に……」
するとハジャは「気にするな」と、ポロの意識を自分に向けさせる。
「お前が責任を感じる必要はない。彼らは自らの意志で私に挑んだだけだ。責任追及されるべきは私だろう」
「知ってるよ。当然ハジャのした行為は許されないし、セシルグニムへ攻め入ったその罪は償ってもらうさ」
言いながら、ポロはハジャを指差し。
「今立っている分身体じゃなくて、本体のハジャにね」
その体を偽物だと見抜き、自らの足で趣き罪を償えとハジャに指摘する。
「……平常心を取り戻し、ようやく気付いたか」
「普通の状態でも気づけなかったと思うよ。匂いも同じだし。だけど、僕の中にいるバハムートが教えてくれたんだ」
「バハムート?」
その名を聞いて、ハジャは「なるほど」と微笑を浮かべた。
「そうか、魔人だけでなく、創造主の使いまで取り込んだか……。空間系、幻影系の魔法において、あれの右に出る者はいない。良い者を味方につけたな」
「まあ、そういうわけだから、今のハジャに遠慮はいらないよね?」
「無論だ」
そう言うと、ポロは大きく跳躍し、上空に【暗黒障壁】を生み出す。
上下反転しながらその障壁を蹴り、ハジャの頭上へ勢いをつけて降下した。
「【直下強襲】」
落下の際に、闇魔法で自身の腕に黒く鋭い爪を生成し、ハジャに叩き付ける。
その一撃を、ハジャは杖一本で防いだ。
「まあ、分身体とは言え、その力は限りなく本体に寄せている。そう易々と勝ち星をくれてやるつもりはないさ」
「だろうね、知ってるよ。ハジャはそんなに甘くない」
ポロはもう片方の手にも黒き爪を生成し、その場で回転しながら斬撃を繰り出す。
「【螺旋の鉤爪】」
ドリルのように突き刺す斬撃に、ハジャは【暗黒障壁】で攻撃を受け止めるが。
ポロの威力はその障壁を凌ぐ。
「……先程までとは桁違いの力だな、ポロ」
障壁が打ち破られると同時に、ハジャは後退して攻撃を回避した。
「しかし、まだ私には遠く及ばない。勢いだけで埋まる程、お前と私の実力差は均衡していないのだ」
「それも知ってる」
二人は会話を交えながらも武器は下ろさず。
互いに攻防を繰り返し、命の取り合いが続く。
「ならばどうする? 負傷した二人と共に戦うか? 当然、私も危うくなればフェンリルを使わせてもらうが」
圧倒的不利な状況にもかかわらず、ポロは攻撃の手を止めない。
「だよね……僕も同じ立場ならそうするよ」
遠くから駆け付ける足音に、ポロは一筋の希望を見出した為。
仲間が駆け付けてくれた為。
「けどね、僕を支えてくれる人達は、ハジャが思うより多いんだ」
と言った途端、ポロの体は横に逸れ。
避けた背後から、強力な気を纏った斬撃がハジャ目がけ飛んできた。
「【憤慨の斬波】!」
地を斬り大砲のように迫る斬風を前に、ハジャは防御魔法で防げぬと判断し、その身を寸前で回避する。
「ちっ、躱された」
文句を垂れながら近づくのは、周囲を片付け戻ってきたリミナ。
「ポロ、何なの? そのおじさんと巨大な犬コロは」
「僕の元師匠と、僕の元天敵」
「ふ~ん、それで、アタシはどうしたらいい?」
近くで負傷しているメティアを見つめ、答えは分かっていながらもポロに決断を迫る。
「僕に、手を貸して」
その言葉を聞いたリミナは、得意げにハルバードを振り回し。
「オッケー! 死ぬまで付き合ってあげる!」
仲間の為に、その矛をハジャに向ける。
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