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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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170話 救い上げる皆の声


 ポロの内面世界で、闇に沈むポロを引き上げるエキドナ。


『そろそろ自分の力で上がりなさい。暗闇の引力がすごくて、あなたの小っちゃい体でも結構重いのよ』


 ――うん、ごめんね。


『謝らなくていいから早く』


 ふと、ポロは尋ねた。


 ――ねえエキドナ、僕って、何者なのかな?


『急にどうしたの?』


 ――今の状況は分かるんだ。今外では、きっと僕は化け物みたいになって暴れているんでしょ?


 少しの間、エキドナは沈黙し。


『そう思うなら早くここから出て、あっち側に戻りなさい』


 極力現状に触れないように答える。


 ――みんなはさ、どうして僕の中に思念体として残り続けているの? 浄化魔法で霊魂を昇天させたつもりなんだけど。


『それは…………』


 ――僕の中は、いつの間にか大所帯になった。エキドナがいて、アラクネがいて、スキュラがいて、そして今はバハムートもいる。


『…………』


 ――僕は君達を弔うつもりで浄化魔法を使っていたんだけど、もしかして僕は、やり方を間違えているのかな?


 エキドナは何も言わず。


 ――ひょっとすると、君達は僕に無理やり閉じ込められているだけなんじゃないの?


『ポロ……それは違うわ。私達は自分の意志であなたの中に居座っているだけ』


 答え辛そうに口を開くエキドナを見て、ポロは深くを問わないようにした。


 ――ごめん、今、すごく精神が不安定なんだ。ハジャのせいでクル姉が死んだんだと思ったら、胸の内から怒りみたいなものがこみ上げてきてさ。


『ポロ……』


 ――それで、怒りに任せて怪物化した自分を客観的に見て、僕は普通の獣人とは違うんじゃないかって思っただけ。


 いつになくしんみりするポロに、エキドナは言葉を詰まらせる。


 ――それでね、いっそこのまま、闇に飲まれてもいいかなって。


『冗談にしては笑えないわね』


 ――ここはすごく楽なんだ。心地が良いんだ。過去の辛い出来事も、知らなくて良かった真実も、全部、忘れてしまえるんだ。


 そんな諦めの言葉を口にしていると。



『そうなると、坊の姉君のことも忘れてしまうが良いのか?』


 どこからともなくアラクネも現れ、エキドナと共にポロを引き上げる。


 ――アラクネも来たんだ。


『全く、世話が焼けるのう。そのようにか細い声を出すでない』


 それは弟のように、我が子のように、慈愛を以て優しく包み込む。


『この程度で精神を揺さぶられるな。わしがついておる。しっかりせんか』


 ――ずっと、ハジャに修行を付けてもらっていたんだ。クル姉の仇だとも知らずに。


『それがどうした』


 ――ショウヤに偉そうなことを言っておいて、実際は僕のほうが現実を受け入れていなかった。許せなかったんだ。


『めずらしくもない、普通の感情じゃよ』


 ――そんな憎しみに飲まれて化け物になった僕を、もう誰も人とは思わない。怖がられて、恐れられて、そのうち誰かに討伐される。


 すると、闇の中からもう一人、スキュラもポロの元へ顔を出す。



『ですがポロ様、外にいる彼は今まさに、あなたの為に戦っておられますよ?』


 ――スキュラ……彼って?


『あなたのご友人です』


 そこで、ポロはショウヤの顔を思い浮かべた。


 ――そっか……ショウヤが。


 自分の為に戦ってくれている。

 化け物になった自分の為に。


 と、それに重なるようにして。

 外のほうから、自分を呼ぶ声がした。


「ポロっ! 聞こえるかい? ポロ!」


 それはよく知った声。いつも聞く声。


 ――メティア?


 だが、城に向かったはずのメティアが何故ここにいるのか、ポロは分からなかった。


「ポロ、おいで? 怖くないから、おいで」


 おそらく怪物と化した自分に向けて、両手を広げ招いているのだろうと、ポロは思う。


『つくづく坊は愛されとるのう』


 と、アラクネが。


『このままあなたが戻らないと、あの黒エルフを自らの手で傷付けてしまうわよ?』


 と、エキドナが。


『ポロ様、お行き下さい。ワタクシ達が送って差し上げますので』


 と、スキュラが。



 皆がポロを支え、闇に堕ちぬよう浮上させる。


 ――そうだね。僕はまだ、こんなところで寝てちゃいけない。


 次第にポロを抱える彼女らの手も軽くなってゆく。


 ポロが黒闇の海から出ようとしているのだ。


 ――僕は、船長だから。


 そしてポロは自分の手足で暗闇の中から浮上してゆく。


 遥か上にある小さな光を目指して、泳いでゆく。


『ポロ、忘れないで。あなたのそばには、いつも私達がいることを』


『何があっても、わしらは坊の味方じゃ』


『それが、ワタクシ達がここにいる理由です。何卒、お忘れなきよう』


 光が近づいた頃、三人はそれぞれ別れの挨拶を告げ、暗闇の中へ消えていった。







 黒き海の水面まで上ると、そこには半透明の巨大魚が待ち構えていた。


『待っていたぞ。出口は開けておいた』


 ――バハムート。ごめんね、待たせて。


『構わない。君の意志は私の意志だ。故に私は、君の判断に従うまで』


 ――ありがとう。じゃあ、行ってくるね。


 そう言って、バハムートの開けた【空間の扉(ポータル)】に飛び込み、ポロは再び外の自分とリンクした。





ご覧頂き有難うございます。


明日、明後日は休載致します。

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