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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第一章 世界の支柱、『黒龍の巣穴』攻略編
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16話 突然の脅威


 攻略部隊の指揮をオーグレイが引き継ぎ、ようやく彼らはダンジョン内部へと潜っていった。


 外に残った飛行士達は、魔物が襲って来ないよう魔導飛行船の周囲を監視する。



 そんな中、ポロは船長室にアルミスを呼び、適当な場所へ座らせる。


「お姫様、お茶とミルク、どっちがいい?」

「……では、ミルクで」

「だよね~、僕もミルク派なんだ」


 と、尻尾を振りながらホットミルクを注ぐポロ。

 その気の抜ける態度に、アルミスは逆に不安になる。


「あの……私をここへ呼んだということは、何か大事なお話があるのではないでしょうか?」


 硬い表情を浮かべるアルミスの元へミルクを運ぶと、静かに首を横に振った。


「そんなに警戒しなくていいよ。僕はただ、攻略部隊が帰ってくるまでお姫様にリラックスしていてほしいんだ。副団長が重傷を負ってから、少し顔色が優れないみたいだから」


 そう言いながら、ご満悦そうにミルクをすするポロ。

 そんな彼の言葉にアルミスは自分の肌をペタペタと確認する。


「そう見えましたか……。ええ、そうかもしれません」


 そして力なく笑みを零すのだ。


「私にとってサイカは良き友人であり、姉のような存在ですから。もっとも、彼女にとっては王女と従者の関係を崩したくないようですけど」


 アルミスには自責の念があった。

 考えたくはない、疑惑があった。


「もしかしたら私が軽はずみな行動をとり、彼女に余計な心配をかけたばかりに魔物に後れをとったのでは……そう考えると、私は彼女になんと謝れば良いのか分からないのです」


 彼女の言葉に頷き、ポロは依然落ち着いた様子でホットミルクを吐息で冷ましながら、ふと、今まで気になっていた事を聞く。


「そう言えばお姫様」

「私のことは気にせずアルミスとお呼び下さい」

「アルミス、初めて会った時はから言っていたけど、君はどうして『世界の支柱』にある魔鉱石にこだわるの? わざわざ僕達の船に忍び込むくらい魅力的だったんだよね?」

「それは…………」


 アルミスは少し言い辛そうにしながら。


「自分でも分からないのです。見たこともないのに何故か興味を惹かれ、いつしか自分の足で魔鉱石の元へ行きたいと、強い欲求が芽生えてしまったのです」


 オーグレイが口にした、『自分が特別な存在』『自分は魔鉱石にいざなわれている』という内容は伏せて、今の気持ちをポロに伝える。


「ふ~ん、それでこの船に……。ねえ、今も行きたいと思ってる?」


 正直迷っていた。すぐ近くまで来ているのに行けないもどかしさと、それ以上に、自分のせいでサイカのような犠牲を出したくない、その思いが交差する。


「私は…………」


 その気持ちを正直に伝えようとしたが、その時。

 突然船長室の通信機からメティアの声が届く。


『ポロ、飛行船近くに魔物が群がって来たよ。個体は土流蛇アーススネーク、魔物は私らが討伐するから、あんたはお姫様を守ってやんな』


 それだけ言うと、通信は切れた。


「今日は蛇の魔物に縁があるな~」


 そう言いながら、ポロは椅子から立ち船長室を出ていく。


「ごめん、後でゆっくり話そうね」


 メティアはポロを戦線に立たせまいと待機を勧めるが、それを知っているポロは聞く耳を持たず当然のように戦場へ向かった。


 手を振りながら去り行くポロを見送り、アルミスは一人船長室に取り残される。


「……私は、どうしたらいいの?」


 と、独り言ちっていると、ふと、アルミスの首にかけていたペンダントが強く発光する。


「『転移誘導機ポータルサポーター』が、光ってる……」


 これは空間転移魔法を使用する際、指定した座標まで寸分違わず転移出来る魔道具。

 本来空間転移は、自分が一度足を踏み入れた場所にしか行けないが、『転移誘導機ポータルサポーター』があれば、他の誰かが踏み入った場所へ通信機のように転移が可能になる、二対のペンダントである。


 そんな限られた者しか扱えない魔道具を、ここに来る前にオーグレイから渡されていたのだ。

 ペンダントが光ったということは、ダンジョン内でオーグレイが呼んでいるということ。


「……準備が整ったのね。けど私は……」


 王女は躊躇う。

 ここでまた単独行動をとれば、飛行士に迷惑がかかってしまう。

 されど、再三恋焦がれた魔鉱石の元へは目と鼻の先。

 周りには自分以外いない。このチャンスを逃せば二度とダンジョン内には入れない。


 そしてアルミスは葛藤の末に……。


「……ごめんなさい!」


 書き置きを残して、空間転移魔法を唱えた。









 その頃飛行船の外では、地中を泳ぐ大蛇の群れに飛行士達が応戦していた。

 ポロは鉄製の爪を仕込んだ手甲を掲げ、空中で回転しながら斬りかかる。


「【螺旋の鉤爪(スパイラルタロン)


 体内の気を操作し、武器と身体の威力を向上させ、チェーンソーのように回りながら土蛇が地中から這い出るタイミングで頭部を両断する。


 地面に着地すると同時に、両断した土蛇から流れる血を【鮮血吸収ブラッドドレイン】で片手に集約させると、その鮮血はポロの体と同程度の犬型の顔を模した姿を形どる。


そして背後から噛みつこうとするもう一体の土蛇を後方宙返りで躱し。

攻撃を外した土蛇に向かって、頭上から腕に集約した犬型の鮮血を放つ。


「【鮮血の牙(ブラッド・ファング)


 巨大な血の牙によって、土蛇は全身を食いちぎられ絶命した。


 二体の土流蛇(アーススネーク)を倒した後、他の船員が苦戦している様子を見ると、ポロは【暗黒障壁ダークプレート】を踏み台にして高く跳躍し、船員の助太刀に向かう。


「せ……船長!」

「大丈夫、もう怖くないよ」


 上空から船員をなだめると、気を練りながら真っ直ぐ爪を立て、側面に設置した【暗黒障壁ダークプレート】を真下へ向かって蹴り踏み、土蛇の元へ急速落下する。


「【直下強襲(ヴァーティカルレイド)


 船員を襲っていた土蛇は、ポロの一撃により縦に両断された。


「す、すごい…………」


 腰を抜かす船員は、普段のポロからは想像出来ない圧倒的戦闘能力にぼそりと呟く。



 そしてポロは辺りを見渡し、今の戦況を確認。


「次から次へと、不自然に湧いてくる土流蛇アーススネーク……近くに統率するボスがいるのかな?」


 ポロの読みは正しかった。

 明らかに魔導飛行船を狙って群がる土蛇達の親玉は、すぐ近くにいる。

 ただ一つ想定外なのは、親玉の力がここにいる誰よりも格上だったこと。


 ゆっくりと、確実に、その魔物はポロ達に忍び寄る。




ご覧頂き有難うございます。

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