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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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161話 向けるべき刃、守るべき国


 戦場の只中で、ショウヤに告げる。


「私達の村を襲った者は、この国の人達ではありません」


「え……」


「グリーフィル……ショウヤ様が今加担している国の人達でした」


 ライラの言葉に、現実を突き付けられたようなショックを受けるショウヤだが、しかし、彼も薄々勘付いていた。


 この国が自分の仇ではないという事に。


「そしてその指示を出したのが、以前私達を襲撃したコルデュークだと……ハジャさんが教えてくれました」


 すると、ショウヤは大きく深呼吸をし。


「そっか…………あいつか……。はっ、なんだよ、あのおっさん、全部知ってたのか」


 落ち着いた表情で、しかし握り絞めた拳はプルプルと震えていた。


「ルピナスに、いや、あいつらに良い様に使われたってわけだ、俺は……はは」


 色々と言いたい事はある、度し難い怒りもある。


 だが一番許せないのは、怒りに身を任せて、道化のように舞台を踊らされた不甲斐ない自分だった。


「初めからこの国の人は私達と無関係だったのです。ですからショウヤ様、どうかこの国で、ご自身の手を汚さないで下さい。そして、自分を責めないで下さい」


 それは以前の彼に戻ってほしいという、ライラの切なる願いだった。


 明るくて、純粋で、人種差別が嫌いで、子供に好かれる彼。


 世間知らずで、適当で、嘘が下手で、冗談めかしてはぐらかす彼。


 ショウヤの良いところも悪いところも、全部が大好きだからこそ。


「あなたの優しさは、そばにいた私が良く知っております。だから一人で背負い込まず、頼って下さい」


「ライラ……」


 彼女は強くショウヤを抱きしめて。


「私は、あなたの安らげる居場所で在りたいのです」


 凝り固まった悪感情を解きほぐすかのように。


 黒く塗り潰された心の奥に一点の光が差し込むように。


 蹲って泣いている子供に手を差し伸べるように。


「復讐心に囚われないで、ショウヤ様のしたいようになさって下さい」


「……うん」


 すると、ショウヤは空に向けて手を掲げ。


「……『結界解除』」


 自身の展開した結界、【天女の羽衣(エクステンドベール)】を解除し、セシルグニムに晴天の光が色濃く差し込む。


 もはやこの国を縛るものはなく、早急に住民を国外へ避難させることが可能となった。


「この戦いを止めるよ。今更どの面下げて言ってんだって話だけど……この国の実害は俺にもある。罪滅ぼしじゃねえけど、せめて自分の犯した責任は取りたいんだ」


 そしてショウヤはライラに頭を下げた。


「ライラ、ごめん。ルピナスと敵対した場合、きっとお前の命が脅かされる。だけど、俺が必ず助けるから、俺を信じてついて来てくれるか?」


「はい勿論、私はいつだってショウヤ様を信じております」


 絆を確かめ合うように、互いに見つめる二人。



 と、その時、ポロとショウヤの斬風に吹き飛ばされた男は、離れた位置でショウヤの死角から拳銃を向け、彼に向かって弾丸を放った。


 しかし、その弾は彼に直撃する寸前、ポロの短剣によって弾かれる。


「良い場面なのに……無作法だよ?」


 冷たい視線を向けるポロに、ショウヤは「大丈夫だ」と一言。


「助けてもらわなくても、あいつの動きはちゃんと読んでた」


「そう、余計な真似だったかな?」


「いや……ありがとう」


 と、ショウヤは深々と頭を下げる。


 その言葉には、今だけでなく、今までのポロに対する感謝が込められていたからだ。


 自分を救ってくれたこと。手を差し伸べてくれたこと。堕ちた自分を、まだ友でいてくれること。


 その全てに、感謝を込めて。


 そして、ショウヤは首を鳴らしながら男へ視線を向ける。


「まずはあいつをどうにかするか。結界を解いたから、アホ程奪われた魔力が戻ってきたし、ようやく本調子が出せる」


「ガキが! たまたま恵まれた力を持っただけの成り上がりが俺を見下してんじゃねえぞ! こっちは十年、人と魔物と命の取り合いをしてきたんだよ! てめえとは経験の差が違えんだ!」


「自覚はあるよ。何の変哲もないただの引きこもりがちの陰キャが、たまたま異世界に行ってチート能力に目覚めちまっただけの、何てことないありふれた話だ」


 男の怒りはもっともだと、ショウヤは浴びせられる怒号を肯定した。


「けどな、無差別に町の住民をいたぶって、愉悦に浸る奴が持つプライドなんてたかが知れてる。お前の十年は無駄なキャリアだよ」


「上から物言ってんじゃねえ!」


 と、男は周囲に倒れる二体のゴーレムに向けて、リモコンのような魔道具をかざし。


 停止したゴーレムを再起動させた。


「このゴーレムはな、俺達戦闘員なら誰でも操作出来るんだよ。おまけにちょっとやそっとじゃ壊れない設計にしてある。勝った気でいるならお門違い――」


 などと、男が話している最中。


 ポロとショウヤは同時にゴーレムへ向かい攻撃を繰り出す。


 ポロは【幻影分身ファントムアバター】で二体の分身体を出し。


 ショウヤはゴーレムの左右にブラックホールのような【空間の扉(ポータル)】を展開。


 そして、二人はそれぞれ別のゴーレムに向けてスキルを放った。


「【三頭犬の牙(ケルベロスファング)】」


 ポロは分身体と同時に闇魔法で生成した狼の顔を腕に纏い、強烈な牙により一撃でゴーレムを全壊させ。


「【星雲の道筋(ネビュラルート)】」


 ショウヤは生み出した空間から、右から左に流れるように、無数に飛び出す星屑の激流を放ち、間に立たされたゴーレムは小隕石に飲まれ木っ端微塵となった。


「あ…………な、なんだと……」


 あまりにも呆気なく潰された二体のゴーレムを見やり、男は唖然とした様子でその場に跪く。


 そして、ポロは【女王蜘蛛の捕縛(アラクネキャプチャー)】で男を雁字搦めにし、町の中央を制圧した。


「ふう、この辺に敵はもういないみたい」


 ポロは犬耳と鼻で周囲を探り、安全確認を済ませると。


 ショウヤは改めてポロに感謝を述べた。


「ポロ、ありがとう。それからごめん……俺、お前に酷い事言っちまった」


 ポロは気にせず首を振り。


「いいよ。ショウヤが無事で良かった」


 初めて出会った頃と変わらぬまま。


 ニコリとショウヤに笑顔を見せる。


 彼にとって、それが何より嬉しかった。





ご覧頂き有難うございます。

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