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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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158話 ポロとの再会


 セシルグニムを覆う結界の前で、突如跡形もなく消失した魔導飛行船。


 だが直後、結界を通り抜けた先で機体は再び姿を現した。


 船自体に損傷はなく、また、船内にいる皆も何事もなかったかのように無傷であり。


 ただ一瞬だけ、体の感覚が無くなり、転移魔法で移動したような、妙な浮遊感だけが残った。


「今、何したの?」


 突然の違和感を不思議に思い、リミナはポロに尋ねると。


「空間魔法の一種だよ。結界に触れる瞬間、船と一緒に僕らの物質概念、つまり体を一時的に消滅させたんだ」


「え、なんか今サラッと怖いこと言わなかった?」


「大丈夫、完全に消えるわけじゃないから。ただ空間の壁をすり抜けただけ」


 と、笑いながら言うポロに、先程の信頼を訂正したい気持ちになるリミナ。


「それよりリミナ、本当にいいの? これは業務外だし、君には関係のない戦いになるけど」


 念の為の確認とばかりにポロは彼女に尋ねると。


「関係なくはないでしょ。城が落とされたら報酬もらえないし……それに、友達の王女様を手助けするのに、理由はいらないでしょ?」


 概ね予想通りの返答に、ポロは微笑を浮かべる。


「聞くまでもなかったね。僕、リミナのそういうとこ好きだよ」


「あ~ら、急に惚れちゃった? けど残念、アタシちんちくりんなお子様よりも、筋肉質な男らしい男性のほうが好みなの」


「そうなんだ。僕も好みで言ったらおっぱいの大きいお姉さんがいい」


「何だとエロガキてめえ!」


「え、なんで怒るの?」


 などと、地面に急降下する飛行船の先端で会話をしているうちに。


 徐々に戦場の風景が鮮明に映り、二人は戦闘の準備を始めた。


「タロス! 僕達は町の中央で降りるよ。サイカとアルミスは城の近くに降ろしてあげて」


『了解した』


 ポロとリミナはゴーグルを装着し、武器を構え。


 そして地上にギリギリまで接近すると。

 二人は同時に船から飛び降りた。




 狙うは、巨体に幅を利かせたゴーレム二体。


「【直下強襲ヴァーティカルレイド】」


「【四閃斬撃アスタリスクペイン】」


 互いに別々のゴーレム目がけ、上空からの急襲を仕掛ける。


 強力なスキルが脳天を直撃したゴーレム達は、重量のある上体が傾き、その場で盛大に倒れ稼動停止した。



「……君達は」


 息を切らしながらゴーレムを食い止めていた兵士達は、見慣れた二人の姿に唖然とした。


「ポロ船長に……リミナ殿。何故ここに? 団長から避難命令を言い渡されたはずでは?」


「国の存亡がかかってるんでしょ? ここはアタシ達が片付けるから、あなた達は城を守って」


「し、しかし二人だけでは……というか、空に張られた結界をどうやって掻い潜ったのだ?」


「細かいことはいいから早く。じゃないと……」


 と、リミナが催促している最中。


 突然木陰から、兵士に向けて銃弾が飛んできた。


 が、兵士に命中する寸前、リミナはハルバードでそれを弾く。


「無駄に命を散らすことになるわよ?」


「なっ……潜伏していたのか?」


 木陰に隠れていた戦闘員の男は、舌打ちをしながら後退すると。


「【女王蜘蛛の捕縛(アラクネキャプチャー)】」


 ポロは逃げる戦闘員に黒い網状の蜘蛛糸を放ち、男を雁字搦めにした。


「ぐっ、なんだこれは!」


 もがく男の元にリミナは近づき、「そいっ」とハルバードの柄の部分で後頭部を叩き、相手を気絶させた。


「とりあえず、こいつ運んでもらえる?」


 手慣れた流れ作業のように戦況を覆してゆく二人に、兵士は格の違いを見せつけられると同時に、圧倒的な安心感を覚えた。


「……すまない、ここは任せた」


 そして兵士の一軍が城へ戻ると。


「さてポロ、ここにはあとどれくらい敵が隠れてる?」


 ポロは獣人の五感を研ぎ澄まし、周囲の生命反応を探った。


「潜伏してる人はいない……けど、一人だけ真っ直ぐこっちに近づいてきてる」


「へえ~、強そう?」


「う~ん、ここからだとなんとも。……でも、どこかで嗅いだことのある匂い」


 そう感じていると。

 程なくして、二人の前にその人物が現れた。



「…………あ……ああ、ポロ?」



 驚いた表情を向けるその姿は、以前ポロに助けられた少年であり。


「え……ショウヤ、ショウヤなの?」


 互いに目を見開き、突然の再会に、ショウヤは自然と笑みが零れた。


「何? この人あんたの知り合い?」


「うん、前にゴブリンの群れに襲われてるところを助けたんだ」


 と、ショウヤにとっては黒歴史の話を挙げられ、彼は照れ臭そうに頭を掻く。


「はは、あの時は世話になったな。まさかこんな場所で会うなんて」


「僕もビックリだよ。また災難に巻き込まれたの? そんなボロボロになって」


「あ~まあ、ちょっとな。敵さんと揉めてよ。……ポロ、お前はどうしてここに?」


 と、何気なくショウヤは尋ねると。


「セシルグニムをテロ集団から守りに来たんだ。この国とは友好関係を築いているからね」


 その言葉に、ショウヤはピタリと止まった。


「え…………」


 信じていた者に裏切られたような、そんな感覚に陥り。


「……うそ、だろ?」


 颯爽と現れるヒーローだった少年が。

 今目の前で、敵として対峙している。


「なんで……なんでだよ…………」


「どうしたの、ショウヤ?」


 かつて憧れたその姿が……徐々に憎たらしく淀んで見えた。



「なんでお前がそっち側にいるんだよ! ポロッ!」



 人情のもつれは心を蝕む。


 もはや彼には、何も信じることは出来ない。


 荒み切った精神で、微かな希望があった胸の内。


『この場にポロがいたならば、きっとみんなを救ってくれるのではないか』


 そんな希望は、空しくもベクトル違いに成就した。


 みんなの中に、自分は含まれていなかったのだと。


 悲観的な妄想は、悲しき怒りに変換していった。





ご覧頂き有難うございます。

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