155話 激化する戦場
人気のない場所で、ルピナスは腰に下げたカードケースから数枚のカードを取り出した。
彼女の持つ『固有能力』は『異端者の紙札』。
魔物が描かれたカードを念じると、絵柄の中から魔物が実体化し、自分の意のままに使役出来る能力だった。
「【単眼巨人】、【三頭重装兵】、【魔龍フシュムシュ】」
大量の魔力を消費する代わりに、統治者級の魔物を複数召喚が出来る強力な力だが、召喚した魔物が死ぬとカードも消失し、二度と使えなくなる。
「だいぶ手札が減ってきたわね。そろそろ目的を果たしておきたいところだけど……」
ルピナスは三つ首六本腕の巨人、ゲリュオンを右方に。
単眼の巨人、サイクロプスを左方に向かわせ。
残った四足歩行の龍、フシュムシュの背にまたがり、彼女は城の方面へと向かう。
「ショウヤ……無事だといいけど」
半分ヤケになって飛び出した彼を憂い、昨夜は酷いことを言ってしまったと少しだけ後悔し、ルピナスは魔鉱石の場所を探索しながら、ショウヤの行方を追った。
一方、敵陣に単身飛び出したショウヤは。
「『魔弾タスラム』」
自身を取り囲む兵士達に、ガラス玉のような神器を自在に操作し、一人一人その球体を打ち付け戦闘不能にしていった。
次々と倒れる兵士の群れにショウヤは近づき、その一人の兜を引っぺがし頭を鷲掴む。
「お前らが何人来ようと俺には勝てねえよ。だから、さっさと大将の居場所を教えろ!」
「ふざけるな! 団長を売るような真似が出来るか!」
「健気だな。野蛮な殺戮者のくせに」
「貴様らと一緒にするな! 突然現れ、宣戦布告もなく一方的に町で暴れる貴様らとな!」
兵士の言葉に、ショウヤはピクリと眉間にシワを寄せた。
「……あ?」
「どこの国の者かは知らないが、不意打ちで無関係の民を巻き込む貴様らのほうが、よほど殺戮者だろうが! これがもし国の方針ならば、なんと卑怯で狡猾な軍師であるか」
「……どの口がほざいてんだ?」
そして男の言葉に逆上したショウヤは、両手でその男の首を握り絞める。
「が……あ……!」
「てめえらが先にやった事だろうがっ! 誰の許可で俺の村を滅ぼした! 村のみんながてめえらに何をした?!」
ギチギチ両の手で首を絞め、涙ながらに今までの怒りを兵士にぶつける。
他の兵士が助けに向かうも、周囲に浮遊する魔弾に妨害されショウヤの元へ近づけず。
「全部……てめえらのせいだろうがあああああ!」
悲痛な叫びを上げながら、一つの命を奪おうと力を込めていると。
突如、ショウヤの元に一体の飛竜が接近し。
空中から気の斬撃が彼目がけて振り落ちてきた。
「っっ! 『アイアスの盾』」
寸前でショウヤはその斬撃を防ぎ、首を絞めていた男から距離を取ると。
ショウヤの上空から、殺気立ったレオテルスが降りてきた。
「……邪魔な球体だな」
そう言うと、レオテルスは周囲に浮遊している『魔弾タスラム』に一太刀浴びせ。
神器の一つを真っ二つに切断した。
――こいつ……この威圧感……。
ショウヤは一目で察した。
「……お前が、レオテルス・マグナか?」
レオテルスはショウヤの問いには答えず、周りの兵士達に向けて指示を出す。
「ここは俺一人でいい。他の援護に向かってくれ」
「はっ! どうかお気をつけて」
レオテルスの命に従い、四方へ散ってゆく兵士の姿をショウヤは眺め。
自分の殺意を止めたレオテルスに、無意識ながら内心ホッとしていた。
すでに人を殺したことはあれど、彼の良心は未だ悲鳴を上げていた。
本当はこんなこと、したくはないのだと。
ショウヤは首を振り、気持ちを切り替え、再びレオテルスと相対する。
「おい、シカトしてんじゃねえよ!」
「していたわけじゃないがな……。それで、お前も転生者なのか?」
「だったら何だよ?」
レオテルスは「ふぅ……」と一息吐くと。
「お前達の目的は大体分かった。セシルグニムの『浮遊石』を停止させたいんだろう?」
ここに来た目的を問うレオテルスに、ショウヤは首を振った。
「それはあいつらの目的だ。俺がここに来たのは、復讐の為だ」
「復讐?」
身に覚えのない返答に、レオテルスは疑問を抱く。
「ヴィランテを知っているだろう?」
と、ショウヤが言うと、レオテルスは大まかに事情を察した。
「貿易国家ヴィランテか。なるほど……先日ヴィランテ王とジェイク公爵から手紙を預かったな。なんでも、我が国がそちらの領地である農村を襲撃したとか」
「ああ……ユーフ村、俺が領主を務めていた村だ」
怒気に満ちた表情を向けるショウヤに、レオテルスは軽く溜息を吐く。
「全く身に覚えがないな。何故友好国であるヴィランテを襲撃しなければならない? あまりメリットを感じられないが」
「とぼけんな! 村にいた残党が、この国の兵士と同じ鎧を装備していた。それが証拠だろ!」
「俺は指示を出していないし、我が国王は無暗に戦争をするような方ではない。……と言っても、信じてもらえなそうだな」
煮えたぎる怒りの感情を露わにするショウヤに、レオテルスは静かに剣を構えた。
「どのみちお前は奴らに加担した。生かして帰すつもりはないさ」
「ああ、俺もお前の首を取るまで、ここから出るつもりはない」
ショウヤもまた魔力を高め、戦闘態勢をとる。
「【聖戦武器召喚】」
周囲に幾つもの神器を並べ、レオテルスへその全てを向けた。
目の前にいる者こそ村を滅ぼした元凶だと。
怒りによって単調化した思考では、そう思うことでしか自我を保てなかった。
一秒でも早く復讐を終わらせたいと。
この胸を締め付ける苦しみから解放されたいと。
少年の心は救いを求めていた。
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