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空駆ける黒妖犬は死者を弔う  作者: 若取キエフ
第四章 空中都市、セシルグニム防衛編
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154話 ハジャの好奇心


 搭乗口の階段に腰を下ろし、ハジャとライラは隣り合わせで町の戦況を眺めていた。


 ――ハジャさん……話をするって言ったのに、さっきから一言も口を開かない……。


 静寂が続く二人の間にライラは戸惑う。

 互いに言葉を発さないせいで、銃器や金属のぶつかる音が鮮明に鳴り響く周囲。


 ――気まずい……。


 正直何故自分がここにいるのか疑問に思うライラだった。


 と、そんなことを思っていると。

 ようやくハジャは呟くように彼女に問いかけた。


「傷のほうは大丈夫かね?」


 先程激高した男の暴力によって負傷したライラ。


 しかし今はアンデッドの自己再生能力でほとんど傷は塞がっていた。


「大丈夫です。この体、丈夫だし疲れないし、なかなか勝手が良いですよ」


「そうか……」


「はい」


「…………」


「…………」


 そして、再び沈黙が続いたのち。


「あ、あの、先程の人は……」


 と、ライラは気まずそうに先程葬った男を問う。


「被害者の君が気にすることではない。悪しき魂は浄化するが正しい。天へ昇った魂は、長い年月を経て再び地上へ転生する。その頃には彼の罪も消えていよう」


「転生……ショウヤ様のようにですか?」


「彼らはまた別の方法でいざなわれた転生者だ。輪廻転生のプロセスを省き、強制的にこの世界へ囚われた、言わば犠牲者だな」


「犠牲者?」


 ハジャの言葉を断片的にしか分からないライラだが、自身が望まぬ形でこの世界に来たのだということは理解出来た。


 見知らぬ地に、たった一人で放り出されたのだと。


「あの……いつか、ショウヤ様が母国に帰ることは出来るのでしょうか?」


 その問いに、ハジャは少しの間沈黙した後。


「無理だ」


 と、きっぱり否定した。


「たとえ二つの世界が繋がったとしても、すでに朽ちた体で元の世界に戻ることは叶わない」


 それを聞いて、ライラは過去にショウヤと話したことを思い出す。


 以前、彼に母国の場所を聞いた時。


 ショウヤは『簡単には戻れない、すごく遠い場所』とだけ言っていたこと。


 ハジャの言葉で、彼が言った意味を理解した。


「それじゃあ、ショウヤ様はもう……」


 悲しい顔をするライラに、ハジャは言った。


「故に、同じ境遇を持つ転生者同士、寄り添える場所を提供した。我々の仕事を手伝う代わりにな。だが、彼にその必要はないようだ。君がいるからね」


「……私は、守られてばかりで、ショウヤ様に何も恩を返せておりません」


「そうでもない。きっと、君という存在があったから、彼は村を滅ぼされてもギリギリのところで自我を保てた。君がただそばにいるだけで、生きようと思えるのだろう」


「…………」


 血が通ってない体ながらも、ライラは頬を赤らめたような表情で、照れくさそうにする素振りで、ハジャから視線を逸らす。


「…………」


「…………」


 そしてまた沈黙が続いたのち。

 ハジャは軽く息を吐き、言い辛そうに彼女へ告げた。


「私は……君達に謝罪しなければならない事がある」


「……なんでしょう?」


 躊躇いの表情を見ながらライラは問う。


「君達の村を襲った兵団は、この国の者ではないんだ」


「え……!?」


 ライラは目を大きく見開き、驚いた様子でハジャを見つめた。


「セシルグニムを落とす為に、彼の力が必要だった。我々は君達の心の傷に付け込んで、君達を利用したのだ」


「なん……で……それじゃあ、私達の村を襲ったのは誰なんですか?」


「グリーフィルの連中さ。勿論、この船に乗っている者達とは無関係だ。コルデュークに雇われた下級兵だよ」


「コルデュークって……あの時の……」


 ライラはコルデュークが初めてショウヤに接触した日を思い出した。


 ――あの時はショウヤ様が撃退したけど……まさかその仕返しで?


 たったそれだけで、村の者達を皆殺しにした。


 あの時コルデュークを野放しにしなければ。


 そんな後悔が募り、何も出来なかった自分を悔やんだ。


「はっ! なら、この戦いは……」


「君達にとって、何の意味も成さない殺戮となろう」


 すると、ライラは立ち上がり、ショウヤが駆けていった方向を見つめる。


「……行くのかい?」


 彼女の様子を見て、ハジャは尋ねた。


「はい。こんな事の為に、ショウヤ様に手を汚してほしくありません」


「そうか……すまなかった」


「一つ、いいですか?」


「なんだ?」


「どうして今、本当のことを私に教えたのですか?」


 ハジャは間を置いて。


「どうという事はない。言いたくなっただけだ。いつまでも隠しておくわけにはいかないだろうからね」


 そう言うと、ライラは何も言わず飛行船を離れ、ショウヤの元へ駆けていった。



 ハジャは彼女を見送り、そして一人呟く。


「すまないルピナス。真実を知った者がどう動くのか……、興味が湧いてしまった」


 事実をひた隠しにしていたルピナスに罪悪感はあれど。


 人の心境の変化への好奇心が勝り、ライラに真実を口にした。


 ハジャにとってはこの戦いの勝ち負けに重要な意味はなく。


 ただ単に、この先の戦況がどう変わるのか。人がどう動くのか。


 それを観測したいだけだった。





ご覧頂き有難うございます。


明日は休載致します。

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